Lazy-Saga《レイジー-サーガ》〜相当性格悪い美少女魔道士と、あたしの裏山探検記〜
裏山探検記〜後編っ!〜
ザシュッッ!
間一髪。あたしの振るった銀の刃が音を立てて、アリシアを狙った何かを切り落とすっ。
ドスッと重い音がして落ちたそれを確認する前に、肩に担いだアリシアごと檻から離れるように飛びずさった。
「触手?」
あたしの肩から降りてビタビタと蠢くそれに目をやる。
「ふーん。
爆風陣っ」
問答無用でアリシアの怒りの一撃が、玉座の陰の男を突風で巻き上げた。
「がふぅっ!」
派手な音と共に壁に激突して動かなくなる男には目もくれず、触手と光球に照らされたエンヴィを交互に見やる。
「ブラストデーモンや魔族はね、生き物の感じる恐怖を食べて生きてるのよ。
こんなにデカくなるなんて。
そう考えると、ある意味餌付けは成功したのかもね」
「で、どうすんのよ。エンヴィ」
「放っておけばいいんじゃない?
あいつがいればあたし達的にはなんの問題もないでしょ?」
床に転がる男を目で指す。
「だからって、あんなのが外に出たら被害甚大よ。
アリシアは返品出来ないの?」
「召喚魔法は専門外」
軽く肩をすくめる。
檻に繋がれたままのヤツを殺すのも気がひけるけど……。
「うっっうわあああぁぁっ!」
っっ!
突如上がる悲鳴に目をやると、触手に足を絡め取られた男が檻に引きずり込まれていくっ。
「あ」
「ちょっとぉっ」
ダッと石床を蹴って飛び込むけど、襲いかかる他の触手に阻まれるっ。
「ソリスっ。どいて。
氷結弾っ」
アリシアの力ある言葉に応えて彼女の周りに無数の氷の弾丸が現れたっ。
「GOっ!」
「あっぶなぁっ!」
飛びくる弾丸と直角に、壁に向かって飛び込み前転。
あたしの飛び抜けた跡を冷気の帯が通り過ぎて行く。
ドガドガドガドガッッ!
グガガガアアァァァッッ!
氷の弾丸に撃ち抜かれエンヴィが怒りの咆哮を上げる。
「ひぃっ!」
パクッ。
あ。
「ああああっっ!」
「食べられちゃったわね」
と、撃ち抜かれたエンヴィの身体の傷がみるみるうちに塞がっていく。
「ちゅーじつなしもべ。なんて、なついてないじゃない。
あいつの恐怖を食べて回復って事?
ステーキお皿ごと。みたいなね」
「笑えねぇ……」
アリシアの隣に立ち剣を構え直す。
「どうしようかなぁ? 強力なのぶっ放して一撃必殺でいく?
でもなぁ。あの水晶玉や、高価そうな調度品に傷が付いたりでもしたらっ。
今回の稼ぎ雲泥の差よぉっ」
「稼ぎの心配?」
ガガガヴヴヴゥゥゥ。
「……いあ……ぼ……がが」
は?
「ね。アリシア、今のって……」
急激に部屋の空気を変わるのを感じる。
開けちゃいけない扉、全開っ!
「ふぁいあー・ぼーる」
エンヴィの発した力ある言葉に応えて、檻の前にバカでかい炎の球が現れたっ。
「だああぁぁっっ!」
最下級なんて言われても、さすがは魔族。魔力の桁が半端ない!
「大地壁っ!」
バンッと床に両手を着くアリシアの目の前に、ビキビキと音を立てて大地の壁がそそり立つ。
ゴバアアァァァッッ!
着弾した烈火球が熱風を撒き散らしながら壁の左右に舌を出し、霧散していく。
使命をを終えて崩れる壁のこちら側でアリシアが冷や汗をぬぐった。
「喋った? 知識を回収したって事?
こいつ、絶対にレッサーデーモンなんかじゃない!
あのヤロォ、何召喚したのよっ!」
口の中で小さく呪文を唱え、アリシアの振りかざした手のひらから細かな氷の霧が降り、煙と熱を中和していく。
「あああああぁぁぁっっ!
あたしのお宝がぁぁっ!」
そりゃああんなにデカい烈火球が炸裂したんだもん。部屋の中は真っ黒焦げ。
水晶玉にも亀裂が入ってる。
「アリシアのお宝じゃあないけどね」
「なんて事してくれたのよぉっ!」
ギッッと、エンヴィを睨みつける。
「ググ……マジ……さー……」
あたし達の事なんて忘れたかの様に、檻の中でぶつぶつと……ぶつぶつ?
パアアッと檻の中の魔方陣が淡い紫色の光を放つ。
「なんか、召喚してる」
途端ににょろにょろと、黒い触手が魔方陣から立ち昇るっ。
あんなのに大量発生されたらたまんないっっ!
「アリシアァァ!」
「お、お宝ぁぁ。
んふ、んふふふふ」
あ。キレた。
「クソデーモンがぁぁぁっ!
礫石陣っ!」
力ある言葉に応えて、檻の中の石床が風に剥がされ礫になってエンヴィに降り注ぐ。
魔方陣が崩れ、中途半端に召喚された触手が千切れて散らばっていった。
「ぐ、ぐぐ。……ふぁい」
「遅いっっ!
氷結壁っ!
氷結壁っ!
氷結壁っ!」
怒涛の3連発。
微妙に出現場所を変えて、3方向からエンヴィの入る檻ごと氷のカマクラに閉じ込めた。
「こんな一撃じゃあ、殺し足りないわっ!」
アリシアが長い髪を大きくかきあげる。
「これでどうにかなったとは思わないけど」
白い冷気を床に這わせて、氷の彫刻と化したエンヴィ。返還出来ないならそれなりの方法で、闇に返さないと。
「……あー・ぼーる」
『え?』
くぐもった声とともに氷の中心が紅く灯り、ジュウジュウと水蒸気を巻き上げながら氷が溶けていくっ。
ビシュッッ!
白い水蒸気を裂いて数本の触手っ!
「ひゅっ」
気合の声を吐き、迫り来るその全てを切り落とすっ!
「爆風陣っ!」
アリシアの放った突風が白い水蒸気を霧散させた。
烈火球のせいか、エンヴィ自身がやったのか、ひん曲がった鉄柵からケルベロスを思わせるエンヴィの身体が這い出てきた。
あたしは巨体にダッシュをかけると曲がった鉄柵に足を掛け、飛び上がりざまにエンヴィの両眼に向かって銀の刃を一閃する。
「グガガガアアァァァッッ!」
「氷柱槍。
GOっ!」
下ではアリシアの周りに出現した10本近いつららの槍が、一斉にエンヴィを貫いた。
怒りの咆哮と、触手の攻撃。
「攻撃の仕方が単調なのよっ」
触手を切り落とし、踏みつけようとしてきた前脚の腱を切り裂いてやる。
つららの冷気を纏い、珊瑚色のふっくらとした唇が優しく微笑む。
「あたし達から恐怖を搾り取ろうなんて考えてるなら、甘いわよ」
ドゴオオォォォン!
方向感覚を失ったのか、狙いがあるのか、壁に向かって体当たりを始めるエンヴィ。
パラパラと天井から礫が降ってくる。
「礫石陣」
手近な壁に手をついて、アリシアが壁を瓦礫に変えると外方向に吹き飛ばす。
あたし達は壁に空いた大穴から外に飛び出した。
管理するものもなく、荒れ果てた庭には枯れ果てた木々と寂しく佇む薔薇のアーチ。
キシャャァァァッッ。
瓦礫から姿を現わすエンヴィの声に、山から鳥達が一斉に飛び立ち、動物達の怯える気配が伝わってくるようで。
「ふんっ。こんな事までして恐怖を稼ぎたいんなら、夜中にトイレに行けないガキの後でもついて歩けばいいのよ」
「そんな魔族イヤだ」
「せっかく外に出たし、デカいのいくわよ。
フォローよろしく」
「アイアイサ」
胸の前で印を結び、珍しくやる気を見せる。
背後に呪文の詠唱を聞きつつ、やたらめたらと飛びくる触手を切り落とし、避けつつ、脚の腱を狙う。
的がデカいと狙いやすいわ。
チラリと視線を移すと、アリシアが小さく頷いた。
あたしはエンヴィの鼻の頭を蹴り上げて大きく宙を舞うと、アリシアの真後ろに着地する。
「竜潰滅砲っっ!」
細く白いアリシアの手のひらに光が収束していき、竜の咆哮のような爆音と共に光の炎がエンヴィに向かって突き進むっ!
ドゴオオォォォンッッ!
エンヴィの胸に大きな風穴を開け光が空へと突き抜けていく。
断末魔と共にエンヴィの身体が黒いチリとなり、虚空へと霧散していった。
「あっけなさすぎる」
あの、開けてはいけない扉感。こんな感じじゃなかった。
ロングソードを鞘に納め、腰の後ろのダガーナイフに手を掛ける。
エンヴィが闇に還る一瞬前、何かが飛び出して行ったように見えた。
辺りの気配に神経を尖らせる。
チクリと、神経に触れる〈イヤな感じ〉。
振り返りざまに宙に向かってナイフを撃つっ!
キンッ!
金物の弾かれる音。
宙に浮かぶのは黒いステッキを持ち、仕立てのいい燕尾服にシルクハットを被った存在。
「ミス・アリシア、ミス・ソリス。よくもやってくれましたなぁ」
シルクハットを取って一礼をしてくる。
綺麗に撫で付けた銀髪、渋い声。一見ロマンスグレーのおじさまだが、その顔は白くのっぺりとした肉塊。
「その顔、覚えましたぞ。
二度とお目見えせぬ様、願いたいものですなぁ」
スポッと被り直したシルクハットにみるみる身体が吸い込まれ、シルクハット自体も虚空に消えた。
「何? 今の?」
見た目とは裏腹な物凄い威圧感と禍々しさに、じっとりと汗が滲んでいる。
隣を見ると、アリシアも緊張の面持ち。
「認めたくない。認めたくないけど、
魔族」
住み着いていた魔道士の男もエンヴィも消え、壁に開いた二つの大穴だけが、今までの出来事を真実だと突きつけている。
一陣の風が通り過ぎて土の匂いや、鳥の声が帰ってきた。
「さてと。めぼしいお宝かすめて帰ろうか」
「そこは忘れないわけね」
村からも屋敷の庭に出たエンヴィの巨体が見えていたらしく、諸手を上げて帰還を歓迎された。
依頼の達成報酬を受け取り、かすめた調度品を換金すべく大きな街を目指す。
「あー。あのジジィから有り金巻き上げそこねたぁ」
「ガメツイのも程々にしなさいよ」
間一髪。あたしの振るった銀の刃が音を立てて、アリシアを狙った何かを切り落とすっ。
ドスッと重い音がして落ちたそれを確認する前に、肩に担いだアリシアごと檻から離れるように飛びずさった。
「触手?」
あたしの肩から降りてビタビタと蠢くそれに目をやる。
「ふーん。
爆風陣っ」
問答無用でアリシアの怒りの一撃が、玉座の陰の男を突風で巻き上げた。
「がふぅっ!」
派手な音と共に壁に激突して動かなくなる男には目もくれず、触手と光球に照らされたエンヴィを交互に見やる。
「ブラストデーモンや魔族はね、生き物の感じる恐怖を食べて生きてるのよ。
こんなにデカくなるなんて。
そう考えると、ある意味餌付けは成功したのかもね」
「で、どうすんのよ。エンヴィ」
「放っておけばいいんじゃない?
あいつがいればあたし達的にはなんの問題もないでしょ?」
床に転がる男を目で指す。
「だからって、あんなのが外に出たら被害甚大よ。
アリシアは返品出来ないの?」
「召喚魔法は専門外」
軽く肩をすくめる。
檻に繋がれたままのヤツを殺すのも気がひけるけど……。
「うっっうわあああぁぁっ!」
っっ!
突如上がる悲鳴に目をやると、触手に足を絡め取られた男が檻に引きずり込まれていくっ。
「あ」
「ちょっとぉっ」
ダッと石床を蹴って飛び込むけど、襲いかかる他の触手に阻まれるっ。
「ソリスっ。どいて。
氷結弾っ」
アリシアの力ある言葉に応えて彼女の周りに無数の氷の弾丸が現れたっ。
「GOっ!」
「あっぶなぁっ!」
飛びくる弾丸と直角に、壁に向かって飛び込み前転。
あたしの飛び抜けた跡を冷気の帯が通り過ぎて行く。
ドガドガドガドガッッ!
グガガガアアァァァッッ!
氷の弾丸に撃ち抜かれエンヴィが怒りの咆哮を上げる。
「ひぃっ!」
パクッ。
あ。
「ああああっっ!」
「食べられちゃったわね」
と、撃ち抜かれたエンヴィの身体の傷がみるみるうちに塞がっていく。
「ちゅーじつなしもべ。なんて、なついてないじゃない。
あいつの恐怖を食べて回復って事?
ステーキお皿ごと。みたいなね」
「笑えねぇ……」
アリシアの隣に立ち剣を構え直す。
「どうしようかなぁ? 強力なのぶっ放して一撃必殺でいく?
でもなぁ。あの水晶玉や、高価そうな調度品に傷が付いたりでもしたらっ。
今回の稼ぎ雲泥の差よぉっ」
「稼ぎの心配?」
ガガガヴヴヴゥゥゥ。
「……いあ……ぼ……がが」
は?
「ね。アリシア、今のって……」
急激に部屋の空気を変わるのを感じる。
開けちゃいけない扉、全開っ!
「ふぁいあー・ぼーる」
エンヴィの発した力ある言葉に応えて、檻の前にバカでかい炎の球が現れたっ。
「だああぁぁっっ!」
最下級なんて言われても、さすがは魔族。魔力の桁が半端ない!
「大地壁っ!」
バンッと床に両手を着くアリシアの目の前に、ビキビキと音を立てて大地の壁がそそり立つ。
ゴバアアァァァッッ!
着弾した烈火球が熱風を撒き散らしながら壁の左右に舌を出し、霧散していく。
使命をを終えて崩れる壁のこちら側でアリシアが冷や汗をぬぐった。
「喋った? 知識を回収したって事?
こいつ、絶対にレッサーデーモンなんかじゃない!
あのヤロォ、何召喚したのよっ!」
口の中で小さく呪文を唱え、アリシアの振りかざした手のひらから細かな氷の霧が降り、煙と熱を中和していく。
「あああああぁぁぁっっ!
あたしのお宝がぁぁっ!」
そりゃああんなにデカい烈火球が炸裂したんだもん。部屋の中は真っ黒焦げ。
水晶玉にも亀裂が入ってる。
「アリシアのお宝じゃあないけどね」
「なんて事してくれたのよぉっ!」
ギッッと、エンヴィを睨みつける。
「ググ……マジ……さー……」
あたし達の事なんて忘れたかの様に、檻の中でぶつぶつと……ぶつぶつ?
パアアッと檻の中の魔方陣が淡い紫色の光を放つ。
「なんか、召喚してる」
途端ににょろにょろと、黒い触手が魔方陣から立ち昇るっ。
あんなのに大量発生されたらたまんないっっ!
「アリシアァァ!」
「お、お宝ぁぁ。
んふ、んふふふふ」
あ。キレた。
「クソデーモンがぁぁぁっ!
礫石陣っ!」
力ある言葉に応えて、檻の中の石床が風に剥がされ礫になってエンヴィに降り注ぐ。
魔方陣が崩れ、中途半端に召喚された触手が千切れて散らばっていった。
「ぐ、ぐぐ。……ふぁい」
「遅いっっ!
氷結壁っ!
氷結壁っ!
氷結壁っ!」
怒涛の3連発。
微妙に出現場所を変えて、3方向からエンヴィの入る檻ごと氷のカマクラに閉じ込めた。
「こんな一撃じゃあ、殺し足りないわっ!」
アリシアが長い髪を大きくかきあげる。
「これでどうにかなったとは思わないけど」
白い冷気を床に這わせて、氷の彫刻と化したエンヴィ。返還出来ないならそれなりの方法で、闇に返さないと。
「……あー・ぼーる」
『え?』
くぐもった声とともに氷の中心が紅く灯り、ジュウジュウと水蒸気を巻き上げながら氷が溶けていくっ。
ビシュッッ!
白い水蒸気を裂いて数本の触手っ!
「ひゅっ」
気合の声を吐き、迫り来るその全てを切り落とすっ!
「爆風陣っ!」
アリシアの放った突風が白い水蒸気を霧散させた。
烈火球のせいか、エンヴィ自身がやったのか、ひん曲がった鉄柵からケルベロスを思わせるエンヴィの身体が這い出てきた。
あたしは巨体にダッシュをかけると曲がった鉄柵に足を掛け、飛び上がりざまにエンヴィの両眼に向かって銀の刃を一閃する。
「グガガガアアァァァッッ!」
「氷柱槍。
GOっ!」
下ではアリシアの周りに出現した10本近いつららの槍が、一斉にエンヴィを貫いた。
怒りの咆哮と、触手の攻撃。
「攻撃の仕方が単調なのよっ」
触手を切り落とし、踏みつけようとしてきた前脚の腱を切り裂いてやる。
つららの冷気を纏い、珊瑚色のふっくらとした唇が優しく微笑む。
「あたし達から恐怖を搾り取ろうなんて考えてるなら、甘いわよ」
ドゴオオォォォン!
方向感覚を失ったのか、狙いがあるのか、壁に向かって体当たりを始めるエンヴィ。
パラパラと天井から礫が降ってくる。
「礫石陣」
手近な壁に手をついて、アリシアが壁を瓦礫に変えると外方向に吹き飛ばす。
あたし達は壁に空いた大穴から外に飛び出した。
管理するものもなく、荒れ果てた庭には枯れ果てた木々と寂しく佇む薔薇のアーチ。
キシャャァァァッッ。
瓦礫から姿を現わすエンヴィの声に、山から鳥達が一斉に飛び立ち、動物達の怯える気配が伝わってくるようで。
「ふんっ。こんな事までして恐怖を稼ぎたいんなら、夜中にトイレに行けないガキの後でもついて歩けばいいのよ」
「そんな魔族イヤだ」
「せっかく外に出たし、デカいのいくわよ。
フォローよろしく」
「アイアイサ」
胸の前で印を結び、珍しくやる気を見せる。
背後に呪文の詠唱を聞きつつ、やたらめたらと飛びくる触手を切り落とし、避けつつ、脚の腱を狙う。
的がデカいと狙いやすいわ。
チラリと視線を移すと、アリシアが小さく頷いた。
あたしはエンヴィの鼻の頭を蹴り上げて大きく宙を舞うと、アリシアの真後ろに着地する。
「竜潰滅砲っっ!」
細く白いアリシアの手のひらに光が収束していき、竜の咆哮のような爆音と共に光の炎がエンヴィに向かって突き進むっ!
ドゴオオォォォンッッ!
エンヴィの胸に大きな風穴を開け光が空へと突き抜けていく。
断末魔と共にエンヴィの身体が黒いチリとなり、虚空へと霧散していった。
「あっけなさすぎる」
あの、開けてはいけない扉感。こんな感じじゃなかった。
ロングソードを鞘に納め、腰の後ろのダガーナイフに手を掛ける。
エンヴィが闇に還る一瞬前、何かが飛び出して行ったように見えた。
辺りの気配に神経を尖らせる。
チクリと、神経に触れる〈イヤな感じ〉。
振り返りざまに宙に向かってナイフを撃つっ!
キンッ!
金物の弾かれる音。
宙に浮かぶのは黒いステッキを持ち、仕立てのいい燕尾服にシルクハットを被った存在。
「ミス・アリシア、ミス・ソリス。よくもやってくれましたなぁ」
シルクハットを取って一礼をしてくる。
綺麗に撫で付けた銀髪、渋い声。一見ロマンスグレーのおじさまだが、その顔は白くのっぺりとした肉塊。
「その顔、覚えましたぞ。
二度とお目見えせぬ様、願いたいものですなぁ」
スポッと被り直したシルクハットにみるみる身体が吸い込まれ、シルクハット自体も虚空に消えた。
「何? 今の?」
見た目とは裏腹な物凄い威圧感と禍々しさに、じっとりと汗が滲んでいる。
隣を見ると、アリシアも緊張の面持ち。
「認めたくない。認めたくないけど、
魔族」
住み着いていた魔道士の男もエンヴィも消え、壁に開いた二つの大穴だけが、今までの出来事を真実だと突きつけている。
一陣の風が通り過ぎて土の匂いや、鳥の声が帰ってきた。
「さてと。めぼしいお宝かすめて帰ろうか」
「そこは忘れないわけね」
村からも屋敷の庭に出たエンヴィの巨体が見えていたらしく、諸手を上げて帰還を歓迎された。
依頼の達成報酬を受け取り、かすめた調度品を換金すべく大きな街を目指す。
「あー。あのジジィから有り金巻き上げそこねたぁ」
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