檸檬色に染まる泉(純愛GL作品)

鈴懸嶺

始動前夜

 維澄さんからモデルになるための指南を受ける。

 そう約束した筈なのだが維澄さんからこの件について何の話しもない。

 私は普通の女子高生が感じるような自己顕示欲から『今すぐモデルになりたい!』なんて少しも思ってはいない。

 あくまで維澄さんとの接点を少しでも増やしたいという”スケベ心”と、今は自分の為でなくて維澄さんのため。

 維澄さんの最大のトラウマでもある”モデル時代の過去”を解消することへのきっかけになってくれればと私は思っている。

 つまり「私をダシにして、モデルにゆっくり関わっていける」という環境を用意してあげるのだ。

 それが私がモデルになることへの一番のモチベーション。

 でも肝心の維澄さんはというと全くその気配はないので上げようとしているモチベーションがだだ下がりだ。

 はたした、〝この話〝は維澄さんの中でちゃんと〝いきている〝のだろうか?



 さすがに焦れてしまった私は、モデルになることに前のめりすぎると思われたくはないのだが、ついに自分から話を切り出してしまった。

 一旦お客さんが切れたところで私は維澄さんにようやく声を掛けた。

「あのさ?維澄さん忘れてませんか?」

「え?なにが?……なんかあったけ?」

 ほら、これだ。

 全く頭にないんだろうな、この人。

 またいつもの独り相撲で終わるのかと思うとついムッとしてしまった。

「ああ、覚えてないならいいです」

 私は不貞腐れて話をすることをやめてしまった。

「な、なによ?何を怒ってるの?」

「いえ、怒ってはなないですよ」

 維澄さんもつられて少しムッとしてしまった。

「そ、そう言えば、檸檬?あなたがモデルの指南する話なんだけど……」

 だ、だからその話だよ!!

『あら?以心伝心かしら!?』

 なんて乙女な感想が私から出るわけもない。

「維澄さん?それ忘れてないでしょうね?」

 とつい強い語気で言い返してしまった。

「なによ?今まさに私からあなたに聞いてるじゃない?」

 まあね。そうだけど。まあ、いいや思いだしてくれなら。

「この間話した仙台で公開のオーディションなんだけどそろそろ書類提出しないとだけど」

「え?なにを急に言いだしているんですか?」

「急って、随分前にチラシ見せたと思うけど?」

「いや、そうじゃなくて、私がなんで応募する前提なんですか?」

「え?しないの?」

「は?だっていきなりすぎませんか?」

「いや、年齢的にはもう遅すぎるかもよ?最近モデルの低年齢化がすすんでるし?」

「そういう話じゃなくて、準備とかいるでしょ?まだなにも維澄さんから教わっていないし」


「ああ、それは大丈夫だよ、檸檬なら」

「私なら?……ってどんな根拠なのよ?」

「だって元がいいもの」

「なっ!」

 全くこの人ときたら人の気も知らないでサラッとそんなことを言う。

 この天然はヤバイんだよ。ほんとヤバイ!!

「で、でもどんなオーディションなんですか?」

「どんなって?」

「いやだからオーデションのレベル的なこととか」

「ああ、これは……震災チャリティーと銘打って、全国区で募集掛けてるからそれなりにレベルは高いと思うよ?」

「それって私がいきなり挑戦するようなオーディションでなくないですか??予選とかないんですか?」

「ないみたいね。でも書類選考があるからそれが予選と言えば予選かな」

「書類選考ですか?履歴書とか写真とか?」

「そうね。モデルの場合、写真写りが重要な要素だから書類で篩に掛けやすいのよ。歌のうまさと、演技力とか、踊りが上手いとかはあまり関係ないし。まあ最近はマルチのタレントいるから全く考慮されないとは言えないけど」

 この人、やっぱモデルの話になるといきなり饒舌になるな。この辺はさすがだ。

「私が出ても書類選考通るんですか?」

「それは大丈夫でしょ」

「そ、そんな断定していんですか?」

「ええ、そこは全く心配ないよ?」

 そうなの?

「写真はどうしたらいいんですか?結構プロっぽい写真とか必要なんでしょ?」

「そうね。できればスマホとかじゃないほうがいいかも。人によってはプロに撮影してもらって送ってくる人もいるから」

「そ、そんなどうするればいいでんすか?そんなカメラマンに頼むお金もないし、高いカメラともないですよ?そう言えばいないんですか?維澄さんの知り合いのカメラマンとか」

「だから私の場合は……ね」

「ああいいですよ。いる訳ないですね。そんな過去の人脈なんて」

 ちょっと酷い言い回しになってしまってが、維澄さんは気にしていない風で子供のようにむくれるだけだったので少し安心した。

「でもカメラは一眼レフ持っているから、それ使える」

「なんだ!あるんじゃないですか!」

「まあ、撮影に自信はないけど」

「いや、世界のIZYUMIが撮影すれば〝ちょっとは〝違うでしょ?」

「ちょっと?」

「ああだいぶ?……凄く?」

「フン!バカして」

 維澄さんはまた子供のように不貞腐れた。

 確かに世界のIZUMIということを忘れてちょっとバカにし過ぎたかも……

 ゴメン!



 ということで、私はまんまと維澄さんの「天然」に乗せられてしまった気がしないでもないが、もうオーデションを受ける気になってしまった。

 むあ、こんな子供っぽい普通の女性に見える維澄さんだけど過去にはモデルの頂点にいた人な訳だから少しは自信をもっていいのかも?

「じゃあ、具体的に何の準備をしたらいいのかしら?」

 そういうと、維澄さんは急に私の頭から足の先まで観察しはじめた。

「そ、そんなジロジロみないでくださいよ」

「あれ?照れてるの?」

 だからこの人は……



「プロポーションは合格かな?」

「な、何見てんですか!やらしい!」

「え?え?や、やらしい!?」

 なんか維澄さんが途端に慌てて真っ赤になってる。

「そ、そんなつもりじゃないから。ホントにモデルとしてのプロポーションの話だから、そんなこと全然思ってないから!!」

「そこまで否定しないでよ」

「え?」

「ちょっとはわしの裸とか想像してもよくないですか?」

「ばっ!!!ばか!な、何を言い出すよ」



「フフフ」

 私は少し意地悪く笑ってしまった。

 だって……

 きっと、今想像したはずよね?


 ハハ、今のはちょっとエロかったかな私。



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