僕が主人公じゃない方です
5.生き返っても主人公じゃない
彼女が窓からこの場を立ち去ってから数分が経過していた。
数分前、俺は全てを投げ捨て何がなんでも彼女を追うと決意した。呆気にとられて数秒経ったとはいえ、すぐに何処かへ消えてしまうわけではない。今すぐ走り出せば間に合い、追いつけるのだ。
そして一言質問をする。
「あなたの名前は?」
そこから始まる恋物語。すぐに走り出そうとするが左腕が縛られていた。あ、無理だこれ。早々に諦めた。恋物語完結。
ちょっと勢いが過ぎたな。普通に名前聞いてるだけだし。
ん、よく考えれば右手が自由に動くのだから、魔法を使おう。俺は風の魔法でカマイタチを起こし縄を切ろうとする。そこで、打ち合わせをしていたかのように入口のドアが開いた。
俺がウッキーの頃は来客など来たことがなかった。彼女がここを訪問したこと自体驚きであったが、また入れ替わりに入ってくるとは。
あ、人じゃない。
人の首から上。目、鼻、耳から一本ずつ、その穴と同じぐらいの太さの骨や関節が見られない触手が生えていて、口からは涎が垂れていた。首から下はあるべき身体の代わりに4本の腕のような触手が生えていた。
なるほど。計10本。命名、イカ人間。
俺が驚きで鋭く息を吸った瞬間、鞭のような触手で俺を攻撃してくる。予備動作なしに迫りくる攻撃は、イカ人間の人間性の無さ、動物のような異質感が窺える。
俺は反射的に、素早く身を翻し左手の拘束を的確に切断、机を盾にしつつイカに魔法を放つ…技術も能力も度胸もなかったようで、俺は右腕で自分の頭を覆う。
バチバチッという殴打音と共に俺の右腕が衝撃に耐えられず千切れ、弾け飛ぶ。
じゃあな、また今度。そう言いたげな俺の右手は、ふにゃふにゃと手を振りながら窓の外へ消えていった。
痛みに叫ぼうと短く息を吸ったところで、イカが前足のような触手でちゃぶ台返しのように机ごと俺を破壊した。
ちゃぶ台返しのように、とは本来そうであって欲しかったという例えであり、机と俺は怪力に耐えられずバラバラに四散する。
誕生日パーティのクラッカーになってしまったかのような景色の直後、視界が暗転し意識がなくなるのであった。
そう、この描写でお察しの通り、俺は死んでいなかったのだ。目を覚ますと右目は潰れ、左腕と頭が辛うじて繋がっているというとんでもない状況に陥っていた。悪く言わなければ頭だけじゃない。
驚いたことに痛みはないが、身体中の感覚が残っているのだ。いや、右手を筆頭に傷口が何やらじわじわと痛痒い。継続する小さな痛みは、一度の大きな痛みより精神を蝕むと聞くな。早めにどうにかしないと…。
机が真っ二つに砕けて宙に舞い、地面に垂直に突き刺さるほどの衝撃があったのに、左手首の縄の拘束は変わらず千切れていなかった。流石に頑丈に結びすぎでしょ…。
首と胸あたりが残っている体だけでは地面に届かず、趣味の悪いキーホルダーのようにぶら下がっている。
まて?もしかしてこの死をも超越する力が俺の力なのでは?痛みもあまり感じない。とんでもない体質ではないか?
…。
いや、こんな能力いらない!もっと強い能力が欲しかった!という建前の元、これが知られざるとんでもチート能力の副産物なのでは?と内心確信しつつ、身体能力が強化されていないか確認する。
手始めに左手に力を込めて縄を引きちぎる。
ブチブチッ!
うぉ!じゃない。俺はさも当然の如く、やれやれといった感じで辺りを見回すが、すぐに強烈な痛みとベチャッというアイスを落としたような音にゾッとする。
千切れたのは縄ではなく俺の左手であった。
数分前、俺は全てを投げ捨て何がなんでも彼女を追うと決意した。呆気にとられて数秒経ったとはいえ、すぐに何処かへ消えてしまうわけではない。今すぐ走り出せば間に合い、追いつけるのだ。
そして一言質問をする。
「あなたの名前は?」
そこから始まる恋物語。すぐに走り出そうとするが左腕が縛られていた。あ、無理だこれ。早々に諦めた。恋物語完結。
ちょっと勢いが過ぎたな。普通に名前聞いてるだけだし。
ん、よく考えれば右手が自由に動くのだから、魔法を使おう。俺は風の魔法でカマイタチを起こし縄を切ろうとする。そこで、打ち合わせをしていたかのように入口のドアが開いた。
俺がウッキーの頃は来客など来たことがなかった。彼女がここを訪問したこと自体驚きであったが、また入れ替わりに入ってくるとは。
あ、人じゃない。
人の首から上。目、鼻、耳から一本ずつ、その穴と同じぐらいの太さの骨や関節が見られない触手が生えていて、口からは涎が垂れていた。首から下はあるべき身体の代わりに4本の腕のような触手が生えていた。
なるほど。計10本。命名、イカ人間。
俺が驚きで鋭く息を吸った瞬間、鞭のような触手で俺を攻撃してくる。予備動作なしに迫りくる攻撃は、イカ人間の人間性の無さ、動物のような異質感が窺える。
俺は反射的に、素早く身を翻し左手の拘束を的確に切断、机を盾にしつつイカに魔法を放つ…技術も能力も度胸もなかったようで、俺は右腕で自分の頭を覆う。
バチバチッという殴打音と共に俺の右腕が衝撃に耐えられず千切れ、弾け飛ぶ。
じゃあな、また今度。そう言いたげな俺の右手は、ふにゃふにゃと手を振りながら窓の外へ消えていった。
痛みに叫ぼうと短く息を吸ったところで、イカが前足のような触手でちゃぶ台返しのように机ごと俺を破壊した。
ちゃぶ台返しのように、とは本来そうであって欲しかったという例えであり、机と俺は怪力に耐えられずバラバラに四散する。
誕生日パーティのクラッカーになってしまったかのような景色の直後、視界が暗転し意識がなくなるのであった。
そう、この描写でお察しの通り、俺は死んでいなかったのだ。目を覚ますと右目は潰れ、左腕と頭が辛うじて繋がっているというとんでもない状況に陥っていた。悪く言わなければ頭だけじゃない。
驚いたことに痛みはないが、身体中の感覚が残っているのだ。いや、右手を筆頭に傷口が何やらじわじわと痛痒い。継続する小さな痛みは、一度の大きな痛みより精神を蝕むと聞くな。早めにどうにかしないと…。
机が真っ二つに砕けて宙に舞い、地面に垂直に突き刺さるほどの衝撃があったのに、左手首の縄の拘束は変わらず千切れていなかった。流石に頑丈に結びすぎでしょ…。
首と胸あたりが残っている体だけでは地面に届かず、趣味の悪いキーホルダーのようにぶら下がっている。
まて?もしかしてこの死をも超越する力が俺の力なのでは?痛みもあまり感じない。とんでもない体質ではないか?
…。
いや、こんな能力いらない!もっと強い能力が欲しかった!という建前の元、これが知られざるとんでもチート能力の副産物なのでは?と内心確信しつつ、身体能力が強化されていないか確認する。
手始めに左手に力を込めて縄を引きちぎる。
ブチブチッ!
うぉ!じゃない。俺はさも当然の如く、やれやれといった感じで辺りを見回すが、すぐに強烈な痛みとベチャッというアイスを落としたような音にゾッとする。
千切れたのは縄ではなく俺の左手であった。
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