ロジェット館202

ayachon

街はずれの館

 ロジェット館の管理人オギリ婆さんが物語る。
 令和の時代に外国人が沢山入国してね、文化、教育等に考え方についていけず、暴動を起こしてね、大人しい日本人が外国人反対運動を起こしたんだよ。それから外国人は大人しくなったけど、今ではさっぱり外国人には生きづらい世の中になったよ。スコットもあの頃入国し日本で働いていたんだよ。スコットは日本が大好きで、このロジェット館に長く住んでいるんだよ。ロジェット館は私が昭和時代に両親の遺産で建てたアパートだ。こうして窓際に立つと、スコットと嫁のルカさんを思い出すね。あのアレルギー館の事件もちょうどあの頃だろうね。

 丸いテーブルに置いてあったマグカップが倒れた。スコットは軽度の喘息持ちだったが、連日続く暴動の煙のせいでよく喘息を起こすようになった。ルカは、冷静に木箱からスコットの吸引器を取り出し、スコットの渡した。スコットは吸引器を豪快に吸い上げ、深呼吸をし呼吸を整えた。
「大丈夫?今日の館行ける?」
 スコットは落ち着き、紅茶を一気に飲み干した。
「行ける。大丈夫。」
 スコットは二ッと笑った。
 スコットとルカは、街はずれにあるある館のお茶会に招待されていた。ルカは招待状を読み上げた。なにせ、その招待状には規則が箇条書きに書かれていた。
 
 ・お手数ですが、ドレスコートをしてください。
 ・国際カップルを招待していますので、ご承知ください。
 ・いつも召し上がっているお菓子を一つご持参ください。
 ・当日、個人情報をお聞きする場合がございます。
 
「個人情報ねえ・・・名に聞かれるんだが。」
 スコットは、自分が良く食べるお菓子をしまっている”お菓子箱”からよく食べるイギリスのビスケットを取り出し、紙袋に入れリボンをつけた。
「珍しいね。この時代に国際カップルの招待なんて。外食すると外国人NGってお店多いのに。」
 暴動後、外国人の制限がされるようになった。今では、外国人専用の店、学校、遊び場等が分別されている。ルカはマグカップに残された冷めた紅茶を飲み干し、流しに置いた。それから、紺のコートに袖を通し玄関に向かった。それをスコットもコートを羽織り追いかける。しばらく歩き、タクシーを呼んだ。ルカはタクシーのドアを開けた。しかし、運転手はしかめっ面顔をして、低い声で言った。
「お客さん、外国人は困るよ。」
ルカはドアを閉めた。
「ふざけんな!緑色のタクシーは外国人OKでしょうが!」
ルカは憤慨した。スコットは苦笑いし、別の緑色のタクシーを呼び寄せた。次のタクシーは快くドアを開け、館まで乗せてくれた。乗車して20分間、ルカは携帯ラジオを慎重に聴いていた。本日は新しい首相が発表される。その首相は、当選したら外国人の仕事を制限すると前から発表していたからだ。しかし、いまだに新しい首相の発表はまだだった。タクシーは館に到着し、ルカはカードで支払いをし、ドアから降りた。そして、館の呼び鈴を押した。
「ルカ、スコット、久しぶり!」
 家主のキクミはドアを大きく開けて、二人を快く迎え入れた。キクミもアメリカ人もロッドと国際結婚をしている。館の玄関からリビングまで、ルカとキクミはラジオの首相の話でもちきりだった。
「ルカ、ことら防衛相のニコットさん、同じく国際結婚のエミリアさん。」
 ルカはニコットとエミリアに挨拶をし、握手をかわした。スコットはキクミに持参したイギリスのビスケットを渡した。
「ありがとう、スコット。私、このビスケット大好きなの。嬉しいわ。あ、そうだわ。ウッドが聞きたいことがあるらしいの。」
ルカとスコットは玄関でニコニコ笑うウッドの所へ向かった。
「シェフのニイガキが、食物アレルギーはないかと聞いているんだが。」
「私達はないよ。」
ルカは行った。
2人はウッドに軽く挨拶をし、リビングに戻り、それから、全員が集まるまでおしゃべりを始めた。話の内容は、新しい首相と仕事の話だった。なぜ、外国人から仕事を奪うのかで、話は持ちきりだった。
 
 しばらくして全員が集まったところで、キクミがカートで紅茶とティーポットとカップを持ってきた。キクミは順番にカップにお茶を注いでテーブルに置いた。ルカやエミリアも手伝った。エミリアがカップを置くと、警視長のウラミチが椅子を倒してテーブルから離れた。
「何をするんだ!この外国人!」
 エミリアはポカーンという顔をしている。キクミはエミリアが置いたティーカップを覗くと、慌ててウラミチに頭を下げた。
「ごめんなさい。ウラミチさんは果物アレルギーでしたね。」
 ウラミチは今にも怒り狂うとこだった。
「私が果物アレルギーという事は事前に報告したのだが!?」
「はい。すみません。カートに乗せる前にきちんと確認したのですが。」
 するとスコットが立ち上がり、
「もう、いいじゃないの。あなたは無事でしょう。」
 ルカは慌ててスコットの袖を引っ張ったが、スコットにはこのサインが何の事か分かっていない。
「黙れ外国人!この警視長のミチウラになんて口を!もう少し日本語を勉強しろ!」
ミチウラは倒れた椅子を蹴り上げ、外に出て行った。ミチウラは外国人と話すのが苦手だった。しかも下手日本語で話しかけられるのが嫌い。ルカはそれを知っていたから止めたが、スコットが理解できるわけもない。
「ごめんなさいね、みなさん。ミチウラさんはタバコだから、みなさんお茶を召し上がって。」
キクミは深々頭を下げて謝った。
 ルカは、再び新しい首相の話をした。キクミの気遣いを無駄にしないために。周りも同じ意見で、再び会話を始めた。するとエミリアの叫び声が聞こえた。見ると、エミリアの足元に大作家であるエグチ氏が持倒れていた。外にいたウラミチが足って近づく。ウラミチはエグチ氏の首筋の脈を確認したが、もう死去した後だった。
「ドアを閉めろ!誰も外へ行かすな!ルカ、ロープとイスを持ってきてくれ。そのエミリアを縛れ!」
 ルカは狐に摘ままれた顔をしていたが、すぐにウラミチに確認した。
「なんで?エミリアはエグチさんが倒れていたから・・・」
「黙れ!先ほど果物アレルギーの私を殺しかけて、その後エグチ氏を殺害、恐ろしい女だな!」
 エミリアは顔を真っ赤にして、ウラミチの方を向いて言った。
「ふざけないで!私はトイレに行ってから帰ってきました。それに、私はあなたが果物アレルギーという事知らなかったよ。」
ウラミチは鼻で笑い、
「どうかな。外国人の言うことは信じられない。ルカ、縛らないなら私が縛るぞ。」
ルカは、エミリアに小声で「ごめんなさい」と伝え、エミリアを椅子に縛りつけた。ウラミチは携帯電話で電話をかけ始めた。警察にでも電話をかけるのだろう。ロッドとスコットはエグチを客室に運んだ。するとまた、今度はトイレから悲鳴が聞こえた。大物歌手ナガイの声だった。
 男子トイレには、ウラミチ、ウッド、ウッドの友達兼釣り師のトザキ、スコット、ルカ、キクミの専属シェフのニイガキが入ってきた。ウラミチはエザキの時同様に首筋の手を当てて脈を確認したが、すでに死亡していた。
「犯人はエミリアだ。さっきトイレに行った際に殺害をしたのだろう。」
ルカはナガイの体を見た。初めてみる死体に驚く事もなくまじまじと眺めて、ウラミチに聞いた。
「死因は?殺意は?証拠は?エミリアとナガイさんは初対面だけど・・・。」
 ウラミチは舌打ちをした。確かに逮捕するには、死因と殺意と証拠が必要だ。ウラミチはナガイの死体に寄りあちこち確認したが、死因も何かの痕も見つからなかった。
「エミリアのロープ外しますね。証拠も殺意もないので。」
ルカは少し嫌味な口調でウラミチに吐き捨て、リビングに向かった。ウラミチは舌打ちをしたが、他には特に何も言わなかった。ルカはエミリアの体に巻き付けらてたロープをほどいた。そして、リビングに残された女性達にナガイが亡くなったこと、ウラミチが警察を呼んでいる事、死体に殺害された痕がない事を話した。
「ちょっと見てきますね。」
歯科医のミウチが早歩きで男子トイレに向かった。ミウチは遺体のそばにしゃがみ、遺体から衣類を脱がした。
「じんましんが残っている。」
ミウチが言った。
「じんましんと死因になんの関係が?」
ミチウラははっ!と悪態をついた。
ルカは何かに気づき、エグチの遺体が横たわる客室へ向かった。ルカはエグチの遺体からナガイ同様衣服を脱がすと、腹のあたりにじんましんがあった。ルカは早足で男子トイレに駆け込み、
「ありました!じんましん。刺し傷じゃないからウラミチさんは気にしなかったけど、このじんましん、アレルギーじゃないでしょうか。」
「そうか、アレルギーならこのじんましんも理由がつく。」
ウラミチは立ち上がり、
「アレルギーで死ぬか?アレルギー患者なら注射器持っているんじゃないか?」
ミウチも立ち上がり
「そうね。アレルギー患者なら必ず保有するはずのエピペンがない。二人ともなんのアレルギーだったのかしら。」
スコットは窓辺の花瓶を見た。この男子トイレで目立った物はこの花瓶と一厘の薔薇しかない。
「ナガイさんは植物アレルギーじゃないかな。エグチさんはわからないけど。」
ストットは推測した。
「なるほど、説明がつくわね。でも、そんあ重度なアレルギー持ちを招待するなら、キクミさんがこんなミスするかしら。マナーや気遣いは完璧な人なのに。」
 キクミは、国際的マナーにかけては右に出るもはいない。大物会の人間は招待客を向かい入れる場合必ずキクミを招待したり、相談したりお手伝いにしてもらうなどしてきた。現に、ナガイやエグチ、ウラミチ、ミウチもよくキクミに助けを求めていた。キクミは廊下の隅でハンカチを握りしめていた。落ち着かない様子なのは仕方ない。なにせ招待客2人が自分の家で亡くなったのだ。しばらくして警察官や救急隊がやってきた。検視の結果、エグチは硬貨アレルギーと診断された。
「硬貨に入っているニッケルに触るとアレルギーを起こすの。危ないわね。」
 ミウチはリビングに戻り、周りに説明をした。
「あれ?という事はエグチさんがさわった硬貨はどこへ?」
 エミリアが考え込んだ。確かに、エグチは硬貨を触り、アレルギーを起こした。では、硬貨はどこへ?
しばらくして、警察の事情聴取のためウラミチやウッド、スコットなどがリビングに戻ってきた。決められた席に其々が座ると、ウラミチはみんなの前に立った。
「他にもアレルギーと診断された人はいないか?この場で教えてほしい。」
「ウラミチさん、それは危険な事だよ。この中に犯人がいるかもしれない。むやみに人にアレルギーなんて言わないほうがいいよ。」
ルカは言った。
「ねえ、この館に入った順番を整理しない?」
スコットは言った。
この館に着いた順番は、ナガイ、エミリア、ウラミチ、ルカ、スコット、ハルカ、ニイガキ、ミウチ、ナツカという順番だ。招待客はそれぞれのアレルギーを知らない。
 だれが犯人か分からないまま夕方になり、シェフのニイガキが料理を作り始めた。人が亡くなった家で夕食なんて食べられないが、人間お腹は空くものだ。夕飯を食べて帰ろうというキクミの提案にみんなが賛成してくれたのだ。反対する人間はいなかった。警察官や救急隊は帰っていった。しばらくして、ニイガキは豪華なフランス料理を運んできてくれた。このごちそうは滅多に食べられない。それは、暴動が起きてから外国の物が禁止になったからだ。しかし、政府は統一ができないらしく、外国語や言葉の中に外来語が入っていても、制限はしなかった。とにかく、このフランス料理は招待客が久しぶりに食べるごちそうなのだ。
 招待客は上品に銀食器を使い口に食事を運ぶが、その内側はうれしくて仕方がないのだ。それからワインが運ばれてきた。
「人が亡くなったのに、食事を楽しんでしまった。いいのだろうか。」
 ウラミチが呟いた。
「そんなに自分追い込まないでください。」
キクミは優しい声をかけた。
しばらくすると、グラスの割れる音が聞こえた。ミウチが苦しみだした。ミウチは苦しんでも自分の鞄から何か探していたが見つからなかった。ミウチは自分のポケットからエピペンを取り出し、自分の腿に指した。乱れた呼吸が整い、ミウチは床に寝っ転がった。しばらくしてウッドとスコットが両側に立ち、様子をみながら両側に立ちミウチを客室へ運んでいった。
「なぜだ?金属なんてどこにも・・・」
ウラミチはミウチが使っていた銀食器をハンカチで指紋がつかないように確認した。しかし、取っての部分に銀がはがれ金属部分が見えていた。もともと金属の上に銀をはりつけたのだ。
「ニイガキ!おい!」
ウラミチは銀食器を置くと走ってキッチンへ向かったが、しばらくして戻ってきた。
「ニイガキ、死んでいる。キッチンに何羽の鶏がいる。」
全員が立ち上がり、恐怖に包まれた。
「ふざけないで!アレルギーを教えなければ・・・ニイガキさんもミウチさんもこんなめに合わないで済んだのに!」
ナツカが大声を上げた。
すまないと、ウラミチは頭を下げた。
キクミはキッチンへ向かった。ドアのところで、キクミが何かに躓き転んだ。ルカとハルカが向かうと、キクミの足元に本が落ちていた。その周りには招待客の写真。裏にはそれぞれのアレルギーが書いてあった。
「キクミさん、これは?」
ウラミチが聞く。
キクミは立ち上がり「知らない!」と声を上げ倒れた。我慢の限界だったんだろう。顔色が悪く、目には涙を浮かばせていた。
招待客を再びリビングで待機させてウラミチは、みんなの前で勢いよく土下座をした。
私の判断ミスだと。
「ちょっと待ってください。犯人はそれぞれのアレルギーを知っていたんじゃない?」
ルカは立ち上がり、ウラミチに合図を送った。合図を受け取ったウラミチはテーブルの上に半分は表、半分は裏を向けて写真を並べた。
「これは、私達の写真。」
とハルカは驚いた。
「写真の裏にはそれぞれのアレルギーが書いてある。」
トザキは言った。
「おや、ルカちゃんの裏には何も書いてないぞ。」
「この裏のアレルギーは夕食前にリビングで伝えた時より前に書かれています。なので、ウラミチさんのせいではありません。」
ルカははっきりと言った。
これは犯人の計画殺人だと。
招待客は一度帰宅し、明日もう一度集まることになった。

続く



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