一途な亡国王子は世界の果てまで

ドラ猫

第三話 出生の真実

ーガチャー

三回目のキスが終わり、俺たちが抱き合っていると、ドアの開く音がする。

ソフィアはそんなことお構いなしに俺へと抱きついたままであったが、俺はドアの方を向く。

そこにいたのは、予想通り俺の母親セリナだった。

「あらあら、お熱いわね。区切りがついたらパーティーの準備を始めましょう。」

パーティーというのは村をあげて馬鹿騒ぎをするので、かなり大掛かりな準備となる。

「「はーい。」」

俺とソフィアは恥ずかしさで顔が真っ赤になりながら返事をする。

「じ、じゃあ、私は一旦家に帰るね。」

「うん。わかった。」



さて、ソフィアも帰っちゃったことだし、何をしようか。パーティーの主役だからそんなに準備をする必要はない。

「ライエル。大切な話があります。リビングへ来て頂戴。」

セリナが急に真面目な顔をして言う。

大切な話とは何だろうか。10歳になったからこそ打ち明ける内容なのだろうか。

俺は母の顔がいつもとは違い、嫌に真剣な表情をしていたので、少し不安に思う。

「わかりました。お母さん。」

すると、優しそうな顔で俺の頭を撫でる。

「うんうん。そんな怖い顔しないで?昔みたいにママって呼んでいいのよ?」

「そ、それは流石に恥ずかしい、、。」

「あらあら。本当に大きくなったわね。」


リビングに着くと、俺と母さんは対面に座る。

「まず、これを言っとかなければならないわ。10歳のお誕生日おめでとう。」

「うん。ありがとう。これも母さんのおかげだね。」

「まあ、ありがとう。それで、10歳ってことは、もう半分大人なの。場所によればもう大人扱いだってされるかもしれない。それはわかるわよね?」

「はい。」

「それに、そろそろこの話をしなければと思って、、、」

そういって、母さんは少しためらうような顔をする。

「どうしたの?」

「いえ、この話をすることがあなたにとっていいことなのか、悪いことなのか。あなたがどう思うのか。わからないの。」

「そ、そうなんだ。」

正直、こんなに話しにくそうにしている母さんは見たことがない。そう思うと先程の不安が再び蘇った。

「どんな話でも、ぼくには母さんがいる。なんでも受け止められるよ。」

俺は覚悟を決めた顔をする。

「まあ。そうね。何があっても私がついてるから大丈夫ね。じゃあ、私も覚悟を決めてと、、」

少しの間、リビングが静寂に包まれる。

「フロスティア王国は知ってるわよね。」

「う、うん。それなら歴史書で読んだよ。7年前ぐらいに滅んだ国でしょ。」

「そうね。それで、あなたのお父さんがそこの王様だったの。」

「え、、、」

俺は母さんが何を言っているのかわからなかった。父さんが王様?滅んだフロスティア王国の?

「つまり、あなたはフロスティア王国の王子ということになるわ。」

俺が王子?

「今はまだ整理できてないみたいだから、ゆっくり話すわ。10年前、私があなたを生んで、その3年後、クーデターが起きて国は滅んだわ。そして、あなたのお父さんは最後まで戦って亡くなってしまったの。」

「そ、そんな、、アア!グっ!アアアツアアア!」

その瞬間、忘れていた、いや、閉ざされていた記憶が俺の頭、身体中をめぐる。

王城の庭で遊んだ記憶、騎士団の人たちに遊んでもらった記憶、程度の人を困らせてしまった記憶、そして何より家族との思い出が流れ込んでくる。優しく知性あふれる母。強く憧れだった父。そして、俺が3歳の時生まれた赤ちゃん、、、

俺は自然と目から涙が出ていた。なんでこんな大切なことを忘れていたんだ!あの楽しかった日々を忘れてしまうなんて!

「ら、ライちゃん?涙が、、、」

「母さん!!」

俺は勢いよく母さんの肩を掴む。

「な、なに?」

母さんはいきなりの行動にびっくりしたように見える。

「妹は?妹のルーナは?生きてるよね!?」

すると、母さんは目を閉じる。すごく優しい顔を作って、、

「ええ。生きてるわ。今はね、エルフの里で暮らしているわ。」

「良かった!それにしても、エルフの里って?」

当然のように俺は疑問に思う。

「そうね。その話もしなきゃね、、。えっと、まず、私はエルフなの。」

そう言いながら、母さんは耳の付近に手をやり力を込める。

すると、母さんの耳が伸び始め、まさしくエルフの種族特徴が現れた。

「え、ええ〜!!母さんがエルフ!?」

エルフといえば、人間の中でも精霊に近い存在。それも、里の外に滅多に現れないと言う希少種族だ。

「そうよ。お父さんがエルフの里にやってきた時、お互い惹かれあってね。本来、エルフはエルフ以外の人と交わることはしないからすっごい反対されたんだけど、駆け落ちしちゃった♡」

「え、ええ、、。」

「つまり、ライちゃん。あなたは、エルフの血を継いでいるということよ。それも、エルフ王の血をね。」

「え、エルフ王?」

「エルフ王っていうのは、私のお父さんね。そして、私はエルフの巫女って呼ばれていたわ。」

「そ、そっかぁ。それで、ルーナは?」

「ルーナはね、私みたいにまだ耳のコントロールができないから、生まれてすぐエルフの里に預けてしまったの。私がエルフであることは国中に秘密だったからね。」

ここで、一つの疑問が生まれる。

「俺は耳長くないけど?」

「そうねぇ。ライちゃんはお父さんの方の身が濃いのかもね。その分私の特徴はルーナちゃんにいったって感じかな?ライちゃんはお父さんに似て、かっこよく育ってるから、お母さん、ライちゃん離れできそうにないわ〜。」

母さんが俺に抱きつこうとしてくるが、するりとかわして言う。

「な、なるほど。つ、つまり、俺はフロスティア国王とエルフの巫女の息子で、妹はエルフの里にいるってこと?」

「そうね、、どう?いやだった?この話、、。」

母さんがちょっと上目遣いをしながら言う。

「まあ、驚いたけど、悪い気はしないよ。妹がいることも思い出せたし。」

「そ、そう。なら良かった。」


いずれ、ルーナにも会いに行きたいな。3歳年の離れた妹がどう成長しているのか楽しみだしな。

それにしても、俺が王子って実感湧かない。少し記憶を取り戻したとはいえ、俺はこの村で暮らしてきた立派な村人だ。

「母さんは俺に国を取り戻してほしいとは思わないの?」

何気なくそう思った俺は聞く。国を襲われたときの悔しさ、悲しさなどは凄まじいものだったと予測されるからだ。

「そうねぇ、、昔は思ったわ。ライちゃんに、というよりは私がっ、、、てね、ほら、私も力を持ったエルフだし鍛え直せば強いから、、。でもね、あのお父さんでも負けた相手に私がかなうわけないし、今は隠れて生きるしかないのよ。それに、ライちゃんに余計な重荷は課したくないから、国を取り戻してっなんて言えないのよ。」

そう苦しそうに言う母を見て、俺はひどい自己嫌悪に襲われた。

母さんがこんなに苦しんでいたのに、俺は今までなにしていたんだ!、と。何も考えず、母さんから与えられる幸せをただただ甘えて受け取っていただけじゃないか!

これからは、これからは!ちゃんとしなきゃ!強くならなきゃ!

そう覚悟を決めたライエルだった。










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