100年生きられなきゃ異世界やり直し~俺の異世界生活はラノベみたいにはならないけど、それなりにスローライフを楽しんでいます~

マーくん

第3話 初めまして式神さん

ミケツカミに再びエレメントスに向かわされた俺は、今度は慎重に行動する。
まずは足が地に着いたとたんに全力で地面に伏せる。

この前は立ったままボーとしていたから、殴られて拘束されたんだっけ。

ビューーン。

案の定、屈む頭のすぐそばを何かが高速で通過する。

頭を上げてみてみると、大きな燕だ。

飛び去った燕は今度は高高度から垂直落下してきて俺を真上から狙ってくる。

なんだよ、危険なのは人間だけじゃねーのかよお。くそー。

生理現象ってなんだっけ。早く能力か武器を獲得しないとまた死んじゃうじゃないか。

ええっと今できる生理現象って、...

思い浮かばない。

そうこうしているうちに燕が頭のすぐ上まで来ている。やばっ。

かろうじて身体をひねると燕は頭をギリギリのところでかすめていった。

とりあえずはセーフ。

燕は地上すれすれで反転すると、また垂直に上昇、さっきと同じ辺りで反転して俺めがけて急降下してきた。

俺は横に移動し、燕を避ける。

こんなことを何度も繰り返していくうちに腹が痛くなってきた。

しまった。そう思った時、お腹がキューっと鳴った。

そういや丸1日何も食べて無かったっけ。

「スキル 高速演算 を取得しました。」

突然頭の中に声が聞こえる。

えっ、高速演算だって?

妙な声が聞こえたが、きっと何か新しい能力を授かったに違いない。

でも高速演算って何に使える能力なんだ?

ええい、何でもいいや。「高速演算!」

何も起こらないじゃねえか。そう思って燕を見上げる。

ものすごいスピードで ... って、全然大したことないスピードで落ちてくる燕を捉えた。

手で掴めそうな落下速度。

俺は手を上げて燕を捕まえようとした。

燕は俺が上げた手の中にすっぽりと納まり、俺は燕の攻撃を止めることができた。

「痛っ!」

燕が手の中に入った状態で数秒経ったら、燕を掴んでいる手に激痛が走り、思わず燕を地面に叩きつけてしまった。

燕は地面でぺしゃんこになって消えてしまった。

燕がいた場所には1枚の小さな紙の燃えカスが落ちている。

「これってテレビドラマで見たことがあるぞ。確か阿部晴明が使っていた式神じゃねえのか?

ってことは、あの燕は式神ってこと?

そういやミケツカミが言ってたっけ。この世界には神通力があるって。

式神も誰かの神通力で動いていたのかも知れないな。

でも、燕の動きが急に遅くなったのはなんでだろう。

まさか高速演算って能力は、俺の運動速度を短時間だけど物凄く速くする能力じゃないのか。

動体視力や腕の運動速度が急激に速くなったから、燕の速度が遅く見えたのかも知れない。

じゃあなんで、新しい能力が発現したんだ?

たしかあの時は... そうだお腹が鳴ったっけ。お腹が鳴るのも生理現象の一つだな。

なるほど、俺はお腹が鳴ったら新しい能力に目覚めるわけか。

でも不便な条件だなあ。」

だって新しい能力が手に入るのは有難いけど、腹が鳴るタイミングって微妙だよね。

そんなに鳴るもんでもないし、まして狙って鳴らすことも不可能だし。

今回はたまたまラッキーだったけど、これからもそうとはかぎらないよなあ。

「ピロリン、運ポイント5上昇しました。なんとなく危機を察知できるようになりました。」

なんとなく?なんとなくってなんだよ。

グー

また腹が鳴った。...おかしいなあ、今度は新しい能力が授からないぞ。

もしかしたら、危機が迫った時でないと能力を得られないとか。

ほんとに危ない時にタイミングよく腹が鳴らないと詰んじゃうパターンじゃない?

まあとにかく何か食べよう。

道に沿ってしばらく歩いていると綺麗な小川が見えた。

顔を近づけてみると魚が泳いでいる。

魚を捕まえようと川に入る。でも網も釣り竿も無い。手掴みでチャレンジしてみるも、魚のスピードにかなうはずもない。

目の前に食べ物があるのに、今度は餓死の危機かよ。

あっそうだ、さっき覚えたあれがあるじゃないか。

「高速演算!」

川の中を泳いでいる魚達。さっきまでは全く追いつけないスピードだったのに、今はすごく遅く見える。

さすがは高速演算様。

俺は大きめのヤツを5匹ほど手掴みして川の外に放り投げる。

あぜ道に落ちた魚を拾い上げたまたまポケットに入っていたエコバッグに放り込んだ。

「さて、こっからが次の問題だ。火も無いし、包丁もない、どうやって食べるかだな。」

幸い鱗は気にならないほど薄いからそのままでいいとして、とりあえずはそのまま食らいつくか。

うっ、ぬるぬるして気持ち悪る!

えらの部分から指を入れて腹を指で割いてみる。

内臓を取り出して川の水で中を洗う。

皮の部分はぬめりがひどいので、皮を外して身の部分だけを口に入れる。

臭みは残っているけど、何とか食べられそうだ。

こうして無我夢中でさっき獲った5匹を食べた。腹がいっぱいになるところまではいかなかったが、とりあえず空腹は回避されたようだ。

腹が満たされると次は眠気が襲ってくる。しかしこの危険な世界のことだ、うかつに寝ると何者かに殺されて、そのままミケツカミのところに戻されてしまいそうだ。

とりあえず安心して眠れる場所を探そう。

俺は安全な場所を探して、辺りを歩き回る。

その間、燕による攻撃3回、悪徳役人に追われること2回、地震・雷1回づつと、明らかに異常事態だと思う。

わずか半日歩き回っただけでこれだけの災害に会うわけだから、早急に安全地帯を見つけないと、不眠不休で過労死してしまうに違いない。

幸いなことに高速思考のおかげで、うまく危機を回避できたので死には至らずに済んでいる。

なお、この半日で運ポイントは100上がって120になった。

運ポイント上昇による危機遭遇確率の低下を期待して、しばらく頑張るしかないだろう。


そんなことを考えていると1時間ぶりに式神の燕が襲ってきた。

もう慣れたもので、サクッと高速思考で撃退。

「ピロリン、運ポイント5上昇しました。なんとなく気配を消せるようになりました。」

なんとなく気配を消せるって、なんとなくって。

新しい能力に期待をしつつ、暗くなりかけている道を進んでいく。

「確かに人の視線が気にならなくなってきた気がする。」

なんとなく気配を消す能力が機能しているからなのか、俺が視線に慣れてしまったからなのか、暗くなって見えにくくなったからなのか、よく分からないがとにかく精神的な疲労が減ってきたのは僥倖だ。

うん?あれ腹の調子が悪いぞ?トイレに行きたい。

昼に食べた生魚が悪かったのかも知れない。もう我慢できないレベルに達してきた。

しようがない、かなり危険を伴うが、林の中に入って緊急対応しよう。

俺は通ってきた道を逸れ、横の竹林に入り込んだ。

暗い竹林は足場も悪く危険が大きいが、今は腹痛を何とかするのが先決だ。

10メートルほど入ったところでズボンとパンツを下ろして、しゃがみ込む。

丁度下にタケノコが槍のように出ていて危うく腹を抉られるところであったが、なんとなく危機察知能力で先に感知できたので、事なきを得た。

「ふうーーー。」

とりあえず氾濫の危機は去った。ただまだ本調子では無く、腸はグルグルと音を出し続けている。

「ピロリン、運ポイント1上昇しました。」「ピロリン、運ポイント1上昇しました。」「ピロリン、運ポイント1上昇しました。」「ピロリン、運ポイント1上昇しました。」「ピロリン、運ポイント1上昇しました。」「ピロリン、運ポイント1上昇しました。」「ピロリン、運ポイント1上昇しました。」「ピロリン、運ポイント1上昇しました。」.........

腸が鳴るたびに運ポイントが上がっていく。上がり幅は1づつだが、連続でのポイントアップでかなりの通知になっているはずだ。
「ピロリン、運ポイント1上昇しました。結構危機察知が出来るようになりました。」「ピロリン、運ポイント1上昇しました。」「ピロリン、運ポイント1上昇しました。」「ピロリン、運ポイント1上昇しました。」「ピロリン、運ポイント1上昇しました。」.........
「ピロリン、運ポイント1上昇しました。気配を完全遮断できる結界を張れるようになりました。」

運ポイントが500を超え、気配完全遮断の結界能力を得ることができた頃には、腸の音も収まりようやく落ち着きを取り戻した。

『塞翁が馬』ってやつ?腹が痛くなったときは本当にどうしようかと思ったけど、運ポイントは大量に増えたし、新しい能力も得ることができた。



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