天才にして天災の僕は時に旅人 第一部

流川おるたな

新生活

 日付は3月末になった。
 瀬々良木乙葉が引越して来る日である。
 今日から他人との新しい生活が始まる事に少しドキドキしていた。
 実家から引越して一人暮らしの生活に慣れた頃には、また生活に大きな変化が起きてしまうこの状況。
 ドキドキしない方が可笑しいのではないだろうか?
「ピンポーン!」
 部屋に呼び出し音が鳴り響く。
 モニターを覗くと満面の笑みで乙葉の顔が画面いっぱいに映し出されていた。
 このマンションはオートロックになっていて、1階のエントランスで用事のある部屋の番号を押して呼び出す形式になっている。
「キキ〜開けて〜」
「待ってて今開ける」
 そう言えば、乙葉が引越して来る事を管理人さんに伝えるのを忘れていた。
 我ながら情けない。 
 ロックを解除して乙葉を招き入れ、管理人さんに連絡した。
 数少ない乙葉の所有物が次々に運ばれて、あっという間に引越し完了。
 僕の時よりずっと早く終わってしまった。
 因みに乙葉には乙葉自身の部屋と入り口の鍵だけ渡している。
 鍵を渡していない部屋の掃除は荒らされたくないという理由で僕がするつもりでいた。
 プライバシーを守るのも大切な事である。
 引越しの手伝いをしたした際に一部の道具が見えて、漫画家を目指すという乙葉の部屋に少し興味が湧く。
「ちょっとだけ乙葉の部屋を見せてくれないかな?」
「あら意外、キキでも女子の部屋に興味があるんだね〜。良いけど未だ散らかってるよ」
 これは心外な、「女子」は的外れという部分だけは強調しておこう。
 部屋を見せて貰うと床に服が散乱していたけれど、漫画を描くデスクは綺麗に整理されていた。
 デスクに在る道具の多さに目が行く。
「漫画を描くのってこんなに沢山の道具が必要なんだね?」
「そうなんだよねぇ。漫画の道具って結構お金も掛かるからバイト代が消えちゃって泣けて来る。でも自分が目指した道だからしょうがない」
 頭の中で計算して僕は言う。
「漫画を描くのに必要な消耗品は僕が負担するよ」
「いやいやそこまで甘える訳には...」
「良いよこれくらい。その代わり出納帳をつけること」
「ん、本当に甘えちゃって良いのかなぁ...」
 乙葉が高校生の僕に気兼ねしているようなので話す。
「あのね。僕の年収は今のところ1億円あるんだよ。だから遠慮は要らないのです」
「い、1億!?学生が!?そんなに...甘えさせて頂きます!」
 戸惑いながらも嬉しそうな乙葉、やっと喜んで貰えて嬉しい。
 まぁ出納帳に関しては元々つけて貰うつもりだった。
 ついでに生活費用の通帳を渡して管理を任せる事も説明する。
 一緒に生活するのはこういった役割分担を決めておくのも重要だろう。
 その夜は乙葉の手料理を初めて食べたけれど「不味かった」という落ちも無く、余裕で合格レベルを超える美味しさだった。

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