クリスタル・エノン

夕月桜

小豆とひなの(5)

放課後。

私は支倉さんと一緒に校門を出て、商店街を通った。昨日よりも色々な話をしながらで楽しく下校していた。

しばらく歩くと、支倉さんは昨日と同じく喫茶店の前に止まった。


「ここで練習しよう」


喫茶店の看板には『ナイトジャスミン』と書かれていた。

私が「うん」と言うと、支倉さんは店の中に入って行った。私も後に続いて店に入った。

店内は落ち着いた雰囲気で、クラシックの音楽が流れている。壁には絵画が3枚程飾られていた。コーヒー豆の匂いが心を落ち着かせてくれる。


「おや、ひなちゃん。いらっしゃい」


奥から、男の人の声が聞こえた。

カウンターの奥には、赤茶色の髪をした男の人がカップを拭いていた。その人は藍色の瞳で、右側の髪を上げヘアピンで罰点に留めて、ウェイターらしく白いシャツにベストを着ていた。


「そちらは…はじめましてだね」


大人っぽくて優しそうな笑顔で私に「いらっしゃいませ」と言ってきた。


「は、はじめまして!」


見惚れちゃっていたけど、すぐにお辞儀をした。


「同じクラスの新田小豆さん。こちらはマスターの『長嶺麻生(ながみねあそう)』さん」


支倉さんに紹介されて、私は緊張して大きな声で「よろしくお願いします!」と言ってしまった。でもマスターの長嶺さんは、「よろしくね」と笑ってくれた。


「ひなちゃんが友達を連れてくるなんて、珍しいね」

「ま、まぁ」


支倉さん…照れているのかな?もしかして、私が初めてだったりして…

嬉しくなっていると、支倉さんが「テーブルいいですか?」と長嶺さんに聞いた。


「好きなところ使っていいよ」

「ありがとうございます。行こっか」


そう言われて私は支倉さんについて行くと、入り口から左通路の真ん中のテーブルに座った。

リュックを降ろして席に座って、改めて店内を見渡す。入り口から真っ直ぐにテーブル席が3つと左の通路にもテーブル席が3つ。カウンターに大体7席くらいあるみたい。

なんて思いながら、キョロキョロしていると支倉さんが鞄からスケッチブックと鉛筆を出していた。


「ご、ごめんね…見惚れちゃって」

「別に」

「素敵なお店だね」

「ありがとう、嬉しいよ」


横から声が聞こえ、振り向くと長嶺さんがお冷を持ってきてくれた。下半身は入り口からはよく見えなかったけど、黒くて長いカフェエプロンをしていた。

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