クリスタル・エノン

夕月桜

小豆とひなの(4)

その日の夜。


「小豆、話があるんだ」


夕食を食べているとき、父と母から真剣な声で言われた。

なんだろうと思って、箸を置いて食べるのをやめた。


「実はな、お前に頼みがあるんだ」

「ど、どうしたの?」

「小豆、新商品の看板絵を描いてくれないか?」


思っていた話より違っていて「はぇ?」と変な声が出てしまった。


「新商品の大福をデカく見せたくてな。それで看板でも出したらどうだと、お客さんに言われてな」

「アタシも父ちゃんも絵が下手だから、上手く描けなくてね」

「それで私に?」


2人はとびきりの笑顔で「うんうん」と頷く。

でも、絵が下手な親の子供だよ。私も親譲の所為か、かなり下手くそなのに。


「私も下手だから、無理だよ」

「お友達に絵が上手い子はいないのかい?」

「クラスにいるはいるけど…」

「その子に手伝ってもらえないか?」


2人は手を合わせて「お願い!」と頭を下げてきた。


「わ、わかった。一応、その子に聞いてみるけど…」

「おぉぉぉ!!ありがとう!」

「さすがアタシの娘だよぉ!」


2人は涙を流しながら私の手を握ってきた。



そして翌日。


「支倉さん!お願い!」


私は昨日頼まれた看板絵の事を支倉さんに頼んだ。登校してすぐに支倉さんの元に駆け寄って頭を下げてお願いした。


「何が?」


何の話かわからない支倉さんに、私は昨日あった事を説明した。


「…って事なの」

「へぇ、看板絵ね」

「うん、手伝ってもらえないかな?お金なら出すから!」

「……」


支倉さんは顎に指を置いて考え出した。

い、いくらか決めているのかな…お小遣いでなんとかなる金額ならいいんだけど…


「いいよ」


しばらく考えた様子の支倉さんは意外とあっさりOKしてきた。


「え?いいの?」

「うん」

「あ、お金は…」

「いらない」


バイト料はいらない!?ど、どういう事だろう…

よくわからない状況で慌てていると、支倉さんに「落ち着いて」と肩を叩かれた。


「私が全部任される訳じゃないから、お金はいらない。手伝うだけで、描くのは新田さんでしょ」


そう言って支倉さんは自分の席に座った。


「あ、ありがとう!」


私は嬉しくなって泣きながら支倉さんの手をぎゅっと握った。


「今日の放課後、時間ある?」

「今日はお手伝いがないから、大丈夫だよ」

「早速だけど、放課後に練習するよ」

「は、はい!先生」


私の言葉に「先生って…」と呆れていた。

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