クリスタル・エノン

夕月桜

小豆とひなの(3)

放課後。


「小豆!帰り暇?」


帰りのホームルームも終わり、帰る支度をしていた私は、クラスメイトに声をかけられた。

「暇だよ」と言おうとしたとき、ふと支倉さんを見た。彼女は朝、私と話した後は本当に誰とも話していないみたいだった。

支倉さんが鞄のファスナーを締めて、席を立って教室から出て行った。


「あ…ごめん、アイちゃん。私、お店の手伝いしなきゃ」

「そっか…残念だな〜」

「ごめんね、また明日ね!」


私はリュックを背負って、急いで教室を出て支倉さんに声をかけた。


「支倉さん!」


後ろから声をかけると、支倉さんは止まって振り向いてくれた。


「一緒に帰ってもいい?」


私は支倉さんに言うと、彼女は私の後ろの方に視線をずらした。気になって振り向くと、後ろにはアイちゃん達がこそこそと話しているみたい。


「私と帰っても、アンタも変な目で見られるよ」


支倉さんは鋭い視線で私を見つめて、冷たく言い放った。

でも、私も負けないで支倉さんの目をまっすぐ見つめた。


「私、支倉さんとお友達になりたいの」

「……」

「ダメ…かな?」


少し首を傾げて聞くと、支倉さんは「はぁ…」とため息をついた。そして、すぐ後ろを向けて歩き出した。

やっぱり、私とお友達になりたくないのかな…。


「一緒に帰るんでしょ?置いてくよ」


前から支倉さんの声が聞こえて顔を上げると、こっちには向いてくれなかったけど止まって待っていてくれた。


「う、うん!ありがとう!」


嬉しくて支倉さんのところまで駆け寄った。横に並んで、校舎を出た。


私は支倉さんと校門を出て商店街を歩いていた。誘いを受けてもらえて嬉しかったけど、あれからここまで一言も話してない。
何か話した方がいいよね…。


「は、支倉さんってさ…よく絵描いてるよね?」

「まぁね」

「絵、描くの好きなの?」

「好きじゃなかったら描かない」


私は「そうだよね」と言って、また話が止まってしまった。頑張って続けようとしていたら支倉さんから声をかけられた。


「ねぇ、私と話すの窮屈でしょ」

「え…」

「何も面白くないよ」


そう言ってる姿は、なんだか少し寂しそうだった。


「そんな事ないよ!」

「えっ…」


私は思わず大きな声で言ってしまった。


「たしかに、初めは近寄り難かったし怖いイメージだったけど…今はもう怖くないもん」


私が興奮していると、驚いた様子でこちらを見てくる支倉さん。
しばらくすると「ふふ…」と笑い、優しい笑顔で「ありがとう」と言った。

そのあとしばらく歩くと、あるお店の前で支倉さんが「私、ここで」と立ち止まった。


「お家まで行かないの?」

「私、いつも帰りにここの喫茶店に寄るの」


私が「そうなんだ」と思っていると、支倉さんは「じゃあ」と後ろを向いて喫茶店に入って行った。

お家まで一緒に帰りたかったけど…しょうがないよね。

私はその後、真っ直ぐ家に向かった。




コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品