クリスタル・エノン

夕月桜

小豆とひなの(1)

『ーーー俺の夢は世界中で有名なヴァイオリニストになる事なんだ!』


きっとその夢は叶うよーー


『あと俺、ーーちゃんのーー』








っ!!!

勢いよく目が覚めると、見慣れた景色が広がっていた。


「ゆ…め?」


また見ちゃったんだ…。小さい頃に会った幼なじみの男の子の夢。

高校生になってからよく見ちゃうな。
夢だけど覚えているなんて…ちょっと重いかな。

そんな事を思いながら、目覚ましを見ると…7時50分だった。


「え!!!ち、遅刻だよ〜!!!」


慌ててベットから飛び起き、水玉模様のパジャマを脱ぎ捨てた。白いワイシャツに水色のリボンを止め、紺色のスカートとハイソックスを履いた。
部屋の扉のハンガーにかかっている黒のブレザーと赤色のリュックを手に取り、リビングに向かった。

1階の畳のリビングには父も母も姿がない。どうやら店にいるようだった。


「もう…どうして起こしてくれなかったの〜」


ブツブツ文句を言いながらリビングの角にある鏡台で髪を整えた。
黒色の腰までの髪を2つに分けて、耳下のところでツインテールに結ぶ。


「前髪も…OK!」


櫛である程度整えて、急いでブレザーを着てリュックを背負って靴を履いた。

あ、私は『新田小豆(にったあずき)』。音山学園に通っている女子高生です。
私の実家は和菓子屋で『新田堂』というお店です。自分で言うのもあれですが、近所でも評判のお店なんですよ。


「おや、やっと起きたのかい?」


店の入り口から母の声がした。


「お母さん!どうして起こしてくれなかったの!?」

「起こしに行ったけど、アンタ起きなかったじゃないの」

「そ、そんなぁ…!」

「こら、そんな事言ってる暇ないだろ?」


後ろから父の声が聞こえた。父は寸胴を抱えって店まで来た。


「あ、遅刻!行ってきます!」


私は店のショーケースの上に乗っているカゴから干菓子を1つ取り、急いで店を出た。
後ろから母と父の元気な「行ってらっしゃい!」の声が聞こえた。





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