姉の友達vs妹の友達

差等キダイ

迷子探し

 驚いた彼女の表情に、徐々に空気がぴりついてくるこの感じ。
 彼女が通話を終えるのを見届けてから、すぐに声をかけた。

「あの、千花ちゃんがいなくなったって……」
「ああ。ちょっと目を離したすきに、勝手に遊びに行ったらしい。とにかく探さなきゃ……」

 そう言って歩き始めた彼女は、初めて見せる表情をしていた。
 迷う事などあるわけもない。

「俺も手伝います」
「……悪い。頼む」

 こちらを見た夏希さんの顔には、やはり焦りが広がっていて、もしかしたら、俺も同じような表情をしているかもしれない。
 そんな事を考えながら、真っ直ぐに駆け出した夏希さんの背中を見失わないように、俺も全力で足を動かした。

 *******

 10分くらいで水瀬家が住んでいる木造アパートに到着すると、次女の真帆ちゃんが立っていた。
 これまで無表情しか見たことのないクールな彼女の顔に、はっきりわかるくらいに感情が滲んでいた。
 妹のそんな表情を見た夏希さんは、すぐに傍まで駆け寄った。

「真帆!」
「姉さん……ごめん、私……」

 涙目になりながら何とか言葉を紡ごうとする真帆ちゃんの頭を、夏希さんは優しく撫でた。

「いいって。それより探そう。そんな遠くには行かないと思うから。お前は他のチビ達を見ててくれ」
「……わかった……気をつけて。直登さんも、よろしくお願いします」
「ああ、まかせて」

 深々と頭を下げてくる少女に向かい、俺はなるたけ力強く頷いた。

 *******

 ひとまずアパートの周辺の茂みや溝に隠れたりしていないかを手分けして探したが、ここは二人して空振りだった。
 夏希さんは首を傾げながら、内心の焦りを誤魔化すように呟いた。

「かくれんぼに使うような場所は大体探したんだけどな……」
「次は散歩とかで通る場所を探しますか」
「ああ、そうだな。アタシはこの近くにある川周辺を見てくるから、お前はいつものスーパーまでの道を探してくれないか?」
「了解」
「……悪いな。色々手伝わせて」
「そういうのは後でいいですよ。それより、人手増やしましょうか」
「人手?」

 再び首を傾げる夏希さんの前で、俺はスマホを取り出した。

 *******

「兄貴~、近所の公園にはいなかったよ。次は近くのコンビニとか行ってみる」
「おう、頼む」

「お兄さん、こっちの通りにはいませんでした。通りすがりの人にも聞いて見たのですが、写真の子は見ていないそうです」
「ありがとう」

 あの後すぐに、姉さんと千秋、真冬ちゃんと前田さんに連絡がついたので、千花ちゃんの写真を転送して、探すのを手伝ってもらっている。
 とにかく人手は少しでも多いほうがいい。
 あまりよくない想像が頭の中をよぎったが、頭を振り、それを振り払う。俺もそろそろ探す場所を変えよう。
 長く伸びた自分の影が、こちらの焦りを煽っているように見えて、少し苛ついた。
 すると、前の方から夏希さんが歩いてくるのが見えた。
 よく見ると、足元がふらふらと覚束ない感じがする。
 慌てて駆け寄ると、ようやくこちらに気づいたようにはっとした顔になった。

「夏希さん!」
「……どうしよう、どこにもいない」
「…………」

 姉さんと前田さんから良い知らせはなかったようで、目に見えるくらい気落ちしていた。
 何と声をかけようか迷っていると、彼女は独り言のように呟いた。

「こんな時にあいつの行きたい場所すら思いつかないなんて……駄目な姉だな、アタシ……」
「んなわけあるか!」
「っ!?」

 夏希さんがびっくりした目でこちらを見ていた。ぶっちゃけ自分でも驚いている。こんな大きな声が出るなんて。
 だが、一度口から零れた言葉は戻せないので、俺は思い浮かんだ言葉をそのまま口にした。

「俺が夏希さんの買い物に付き合った時、ちゃんと見てましたよ」
「…………」
「家族にどんな夕食作ろうか考えてる横顔見たら、夏希さんがどれだけ家族が大好きかわかりますよ。だから、そんな事言わないでください」

 そう、彼女は買い物の時、たまにだけど笑うのだ。
 これから家族に料理を振る舞うのを心から喜んでいるように。
 こんなに家族を大事にしている人を見たのは初めてだと思えるくらいに。
 夏希さんは、驚いた目でこちらを見ていた。

「……直登」
「そ、それより早く行きましょう。もう陽もだいぶ傾いてきましたし……」

 何故か気恥ずかしい気持ちになり、歩き始めると、視界の端で彼女が頷いた気がした。

「わかった……ありがと」

 夏希さんが自分で自分の頬を叩き、気合いを入れ直すと、ちょうど携帯の着信音が鳴り響いた。これは彼女の携帯からのだ。

「おう、どうした……えっ!?千花が見つかった!?」

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