姉の友達vs妹の友達

差等キダイ

姉の友達の母親

「アタシに用事がある?」
「……はい」

 悪い、前田さん。夏希さんの眼力には勝てなかったよ……。しかも、言わなかったら、休日の朝からチビ達の相手をさせるとか言うんだぜ?さすがに昼で力尽きるわ。
 というわけで、俺は前田さんの事を夏希さんに話したわけだが、そもそも前田さんに関して知ってる事が少なかったので、大した暴露にもなっていない。
 ……もしかして、前田さんはその辺り計算してたんじゃ……いや、まさかね。

「一応聞きますけど、夏希さんは前田さんの事知らないんですか?」
「知らね。アタシはこう見えて友達少ないしな。お前の姉ちゃんくらいだ」
「あ、ボッチなんですね」
「ボッチ言うな!お前、たまに失礼さが天元突破してんな!」

 いかん。つい自然と口が……。
 まあ、何にせよ知らないのは本当らしい。

「まあ、その……アタシはてっきり、お前の彼女かと思ったんだが……」
「いや、いないですよ。諸事情により、そんなタイミングなかったので」
「だ、だよな!そうだよな!お前に彼女とかいるわけないよな!」
「そっちは失礼さが限界突破してますね!人の事いえないじゃないですか!!」

 ちなみに、諸事情とは姉の友達と妹の友達が放課後と休日に、やたらからんでくる事だ。おかげでクラスの女子とのデートの約束が入れられない。元からないけど。
 しかし、前田さんの用事とは一体なんなのか……。
 早いとこ会う決心がつけばいいんだが。

「あ、やべ。急がないとタイムセール終わっちまう。行くぞ、直登」
「了解しました」

 *******

 普段なら買い物を済ませ、途中まで荷物を持っていったら、それで終わりなのだが、今日は夏希さんからの命令……もとい提案で、晩御飯をご馳走になることになった。
 それで、台所にて手伝いをしているのだが……

「姉ちゃんとなおと、ふーふみたい~」
「ふーふみたい~」
「う、うるせえぞ、お前ら!真帆に遊んでもらえ!」
「無理。私は忙しい」
「本読んでるだけじゃねえか!てか手伝う気ゼロか!」
「……私はお邪魔虫にはなりたくないから」
「だからお前までそういうこと言うにゃあ!」
「あ、今噛みましたね」
「やかましいわ!」

 パシンッと頭をはたかれた。ナイスツッコミと言いたいところだが、割とマジで痛い……。
 あと関係ないけど、チビ達からの呼び方が『なおと兄ちゃん』に変わっていた。これは距離が近くなったみたいで、なんか嬉しい。

「あははっ、なおと兄ちゃん怒られてやんの~」
「怒られてやんの~」

 そんな風にチビ達にけらけらと笑われているところで、誰かが玄関から入ってくる音がした。

「ただいまーっ」

 その女性は、はっきり言って夏希さんと瓜二つだった。
 違う箇所といえば目元だろうか。
 夏希さんはつり目がちだが、こっちの人はそうでもない。むしろやわらかな印象を受ける。なんというか、こう……包み込むような優しさみたいなのが、外に溢れていた。
 そして、その人はこちらを見ると、ぱあっと笑顔を見せた。

「あらあら、お客さんね。夏希のお友達?」
「お、お邪魔してます……」
「母ちゃん、こいつは直登ってんだ。美春の弟だよ」
「あらまあ、美春ちゃんの?そういえば似てるわね。目元が」

 一応言っておくが、俺と姉さんは目元はあまり似ていない。だが、そんなに明るく言われると、なんか否定もしづらい。それより……

「あの、今母ちゃんって……」
「そりゃ、母ちゃんだからに決まってんだろ」

 当たり前のように言う夏希さんに、俺は母ちゃんと呼ばれたその女性を二度見三度見してしまう。
 ……マジか。姉妹にしか見えねえ。でも、確かにチビ達も「おかーさん!」と呼びながら抱きついている。
 真冬ちゃんのお母さんも滅茶苦茶若く見えるが、真冬ちゃんが小柄なのもあって、普通に親子に見える。だが、こちらは背丈が同じくらいなので、言われなきゃ本当に親子には見えなかった。
 くっ、水瀬家の遺伝子はどうなってやがる……!解析したら人類の発展に繋がるんじゃなかろうか。

「おい、何人ん家の母親に見とれてんだよ。…………アタシにはそんな目向けたことないくせに」

 夏希さんから脇腹を小突かれ、はっと我に返る。最後のほうはボソボソとしていて、よく聞こえなかったが、怒られていることだけはわかった。

「えっ、あ、すみません!!あまりに若いというか、姉妹に見えたので……」
「あら、ありがとう」
「まあ、確かによく間違えられるな」
「それより、お母さんびっくりしたわ。あの夏希が、まさかいきなり彼氏を連れてくるなんて」
「ち、違うっての!母ちゃんまで!」
「あら、いいじゃないの。せっかくこんなに美人に生んであげたのに、浮いた話ひとつないんだから、母さん心配してたのよ」
「何の心配だよ!?んなこと気にしなくていいっての!」
「あら、気になるに決まってるじゃない。ヤンキー卒業するいいきっけよ~」
「う、うるさいなっ、ほら、早く手洗って、うがいしろっての!」
「はいはい。直登君、今日はゆっくりしていってね……って、お手伝いしてもらっていうことじゃないわね。あはは」

 さすがの夏希さんも、母親相手には弱いらしく、頬を赤くして、あたふたしている。それは初めて見る表情だった。
 俺は、そんな彼女を不覚にも可愛いと思ってしまった。

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