姉の友達vs妹の友達

差等キダイ

自滅……?

 ぼんやりと目を開くと、見慣れない真っ白な天井があった。

「…………っ」

 続いて頭に走る鈍い痛み。
 それだけで何があったかを鮮明に思い出した。たしかあの時……

「直登っ!!」

 その声を聞いて、まだおぼろげながらも、安心感が芽生えてきた。どうやら自分の行動は役に立ったらしい。
 何度かまばたきして周囲を見ると、今のところ夏希さんしかいないようだった。

「美春には連絡してあるから、そのうち来ると思う」
「そ、そうですか……あの、大丈夫、ですか?」
「バッカ、お前。怪我してる奴がそんな心配すんなよ。こっちは無傷だよ。お前のおかげで……」

 ……よかった。
 どうやら自分の行動は無駄にはならなかったようだ。まあ、少し痛かったけど。
 苦笑していると、夏希さんがこちらに優しい微笑みを見せながら、ぽつりと呟いた。

「でも、びっくりしたよ。アタシを庇ったと思ったら、そのまま転んで頭打って、気を失うんだから」
「あはは…………え?」

 今、おかしなことを聞いたような気が……

「あ、あの、転んだって、誰が?」
「だから、お前だよ」
「……俺、木刀で殴られて気絶したんじゃ……」
「違うぞ。あいつらもさすがにそれはまずいと思ってるからな。中身スカスカのオモチャでビビらせようとしたらしいが、お前のおかげで助かったよ。あっ、それとあいつらはシメといたからな」
「…………」
「どした?顔真っ赤にして……も、もしかして、まだどっか痛むのか?」
「いえ、何でもありません、はい……」

 うわあ……めっちゃ恥ずかしい。てか、ダサすぎだろ……なんだよ、転んだだけって。
 一人深く恥じ入ってると、急にふわりとした感触に包まれた。

「……え?」
「んな顔すんなよ。アタシは嬉しかったよ。直登が助けようとしてくれて。まあ、その、なんつーか……カッコ悪かったけど、カッコよかった」
「なんすか、それ」

 今、自分は夏希さんに抱きしめられているのだと自覚しながら、何とか言葉をしぼりだす。いや、嬉しいんだけど、少しは自分のスタイルの良さを自覚してほしいというか……

「直君!大丈夫!?」
「兄貴!大丈夫か!?」
「っ!」

 突き飛ばされた。
 頭部を枕めがけて、めっちゃ突き飛ばされた。
 一瞬の出来事に目をぱちくりさせていると、姉さんと千秋がベッドに駆け寄ってきた。

「まったくもう、心配したんだからね?」
「そうだよ。こっちは心配で心配で仕方なくて、宿題も手につかなかったんだからな」
「それはお前のサボりぐせが悪いんだろ」

 正直かなり驚いたけど、まあさっきのを見られるよりは色々マシだったのかもしれない。もし見られてたら、何を言われるかわかったもんじゃないからな。

「あれ?なっちゃん、何で顔赤いの?もしかして、なっちゃんも具合悪いとか?」
「い、いや、大丈夫だ……うん。気にしなくていい」

 その日のうちに家に帰れたのはよかったが、眠りにつくまでずっと、夏希さんの香りが鼻腔をくすぐり続けていた。
 その香りは前より甘く、自然と口元を緩めさせる不思議なものだった。

 *******

「なるほど、そんな事があったんですね」

 数日後、千秋から聞いたのか、わざわざ学校帰りに様子を確かめに来てくれた真冬ちゃんは、心配そうにこちらを見上げた。

「大丈夫ですか?痛くないですか?」
「ああ、平気平気。いうてもただの自滅だし」
「自滅の刃で自分を傷つけちゃったんですね」
「全然おもしろくねぇ……」

 何気にドヤ顔してるのがもう……可愛いから許されているようなものだ。

「あ、じゃあ今日ウチに来ませんか?せっかくだし」
「何がせっかくなのかわからないから遠慮しておくよ」
「もしかしたら、庭のプールで泳いでるお母さんを見れるかもしれませんよ」
「マジか!!……ち、違う違う!一瞬頭の中に浮かんだけど!そういうのいいから!」

 このままだと、あの人本当にヒロイン扱いになっちゃうよ!せめて如月先生だろ!!

「じゃあ、お父さんの水着姿が見れるかも……」
「それは本当にどうでもいいわ!!」
「お兄さんはわがままですね。好き嫌いしてたら大きくなれませんよ」
「もう大して伸びしろはないよ。あと、そこは成長関係ない」
「あ、そうだ。じゃあ、私とどこか行きませんか?お兄さんの気晴らしと私の憂さ晴らしを兼ねて♪」
「……別にいいけど、さらっと闇を見せるのは勘弁して欲しいな」
「綺麗な薔薇にはトゲもあるんです」
「…………」

 歪なトゲばかり見せられてる気がするのは気のせいでしょうか?まあ、断る理由もないし、別にいいけど。
 しかし、庭にプール付きて……変な目的は欠片もないけど、今度見に行こう。

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