姉の友達vs妹の友達

差等キダイ

風呂上がり 年上編

「あの、お兄さん?私の事忘れてませんか?」
「あ……」

 そう指摘されて、真冬ちゃんを放置していたことに気づいた。
 彼女は頬を膨らませ、距離を詰め、至近距離で睨みつけてくる。いや、そんなに近づかなくてもいいんじゃないんですかねえ……。

「落ち着けよ。皆で仲良くゲームでもやろうぜ、真冬ちゃん?」
「……急に大人な対応しないでください。あとお姉さんから真冬ちゃんと呼ばれるの、なんか気持ち悪いです」
「あはははっ、さあさあ、いつまでも突っ立ってないで、直登もそこ座れよ」
「いや、ここ俺の部屋なんですけど……」
「うわぁ……完全に有頂天になってますね」

 変なテンションの夏希さんに、露骨に顔をしかめる真冬ちゃん。この二人の初めて見る表情は新鮮で、何故か気持ちを和ませてくれた。

「直登?」
「お兄さん?」
「え、何?」
「いや……」
「なんで笑ってるんですか?」

 二人から指摘されて、ようやく気づいたが、どうやら口元が緩んでいたらしい。まあ、今日は一日だいぶ疲れたけど、こうして笑えるならよかったんじゃなかろうか。二人も本気で喧嘩してるわけじゃないんだし。

「……もしかして、ヘンなこと考えてるんじゃねえだろうな!ア、アタシはそんなつもりで来たんじゃねえぞ!」
「お、お兄さんったら……私まだ子供ですから、そういうのは早いですよ。あと真冬ちゃんじゃなくて、真冬って呼んでくれませんか」
「あ、お前!さりげなく何言って……!」
「ほら、こういうイベントは勢いでいかないと……お姉さんのターンはもう終わりでいいです」
「わけわからんこと言うな!あとお前は無駄に勢いありすぎんだよ!」
「…………」

 訂正。やっぱりすげー疲れるから今すぐ休ませてほしい。

 *******

 とりあえず、順番に風呂に入ることになったわけだが……。

「お兄さん、今お姉さんの裸を想像しましたよね」
「してないよ。人聞きの悪い」
「そうですか。私の裸だったんですね。ですが、ごめんなさい。私は着痩せするタイプではないので、お兄さんの想像ほど大きくはないですよ」
「もっと人聞きが悪いわ!てか、何なの?何で俺、巨乳好き扱いされてんの?」
「男の人は皆すべからく巨乳を愛しておる」
「偏見!あとどうした、その口調?」
「それはさておき、お兄さんの部屋って、あんまり特徴ないですね」
「まあ、あんま部屋で個性主張しようとか思わないし」
「お兄さんって、あんまり特徴ないですよね」
「それただの罵倒じゃね?てか、二人とも今さらだけど、着替えとかは……」
「ちーちゃんの部屋に置いてますよ。お姉さんは、春香さんの部屋に置いてるそうです」
「マジか……その割には一回も泊まりに来たの見たことないな」
「ええ。置いたの一昨日ですからね」
「用意周到すぎる!」

 一昨日からこうなるのが決まっていたというのだろうか。せめて心の準備とかさせて欲しかった。
 そこで、夏希さんが戻ってきた。

「うーす」
「…………」

 俺は言葉を失っていた。
 夏希さんは、風呂上がりというだけなのに、いつもと違う雰囲気を身に纏っていた。
 濡れた金髪。上気した頬。体のラインを隠しきれないジャージ。何だか、改めて女性ということを意識させられる。

「あー、いい湯だったー」

 さらに、本人はその魅力というか、魔性みたいなものに、無頓着なのも、プラスに働いているように見えた。今は少しくらい気にして欲しいんだけど……。
 彼女がそのまま粗っぽく隣に座ると、ふわりと甘い香りが漂い、鼻腔をくすぐる。その甘さは、普段嗅いだことのあるものと同じはずなのに、どこかが明確に違った。

「ん?どした、直登。ぼーっとして」
「あ、いえ、別に……」
「お姉さん、お兄さんがいること忘れてないですか?」
「どういう意味だよ?」
「そのジャージ、やたらとぱつぱつでいやらしいです」
「い、いや、んなことねえだろ!これ中学時代のジャージだし、胸らへんがちょっときついだけだよ!……はっ!な、直登、変な目で見んな!」

 そう言って肩をはたかれる。今年最も理不尽な打撃をくらってしまった。どういうことだ。

「じゃあ、お兄さんがお姉さんをいやらしい目で見ている間に、お風呂に行ってきます」

 そして、またもや余計な一言を残し、お風呂に向かう真冬ちゃんの背中は、心なしか楽しげに見えた。

 

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