姉の友達vs妹の友達

差等キダイ

気まずい晩餐

「真冬、最近学校の方はどうだ?」
「楽しくやってますよ、お父さん」
「成績も上位をキープしてるものね」
「たまたまですよ」
「…………」

 とりあえず食事が始まり、なるべく話しかけられないよう、中華料理をペース早めにかき込んでいると、いかにもな親子間の会話が聞こえてくる。
 だが、そこにあるとってつけたような響きは、誰の目にも誤魔化しようがなかった。
 真冬ちゃんが気まずいと言っていたのは、こういうことかと納得もできた。

「そういえば、日高君は部活は何かやっているのかい?」
「あ、いえ、何も……」
「千秋ちゃんのお兄さんって聞いたけど、言われてみれば目元がそっくりね」
「そ、そうですね。よく言われます……」

 真冬ちゃんの両親からの質問に、妙に緊張しながら答えると、俺を招いた当の本人は、こっそり笑いを堪えていた。くっ……覚えてろよ。

「しかし、真冬がいきなり男の子を連れてくるとは驚いたなあ」
「年頃だもの。そういうこともあるわよ」
「そうですよ、二人とも。私だっていつまでも子供じゃないんですから」
「…………」

 しかし、こうしていると、自分があっさり受け入れられた理由がわかった気がする。
 さっきからこの家族は、もうこの演技に疲れてしまっているように思えた。
 俺がこんなにあっさり招かれたのも、その空気を紛らせたいからなのだろう。
 やたら美味しい料理の味とアンバランスな空気のまま、気まずい晩餐は過ぎていった。

 *******

 食事を終え、少ししてから、俺は帰ることにしたが、真冬ちゃんがわざわざ外まで見送りに来てくれた。

「今日は付き合ってくれてありがとうございます、お兄さん。それと、ごめんなさい」
「……もういいよ。何となく事情はわかったし。まあ、飯は美味かったし」
「私もそう思います。でもお兄さん。食事中に私のお母さんの胸をチラ見するのはよくないと思います」
「してねえよ!」
「なんでしてないんですか!?」
「えっ、何その切り返し?俺おかしなこと言った?」
「本当は?」
「……まあ、2、3回くらいは……って、話変わりすぎだろ!真冬ちゃんは何を期待してんの!?」
「それはさておき、今日は助かりましたよ。本当にあの時間、嫌いなんで」

 他所の家の事情に踏み込むのはマナー違反だが、彼女の今の言い方は、それを聞いて欲しそうに聞こえた。

「……一応聞いておくけど、どっちが嫌いなの?」

 真冬ちゃんは、こちらを見ないまま、少しだけ空を見上げ、口を開いた。

「どっちもですよ。あんな見え透いた芝居に付き合わされる私の身にもなれって話ですよ。お父さんが不倫してることなんて、ずっと前から子供の私も知ってます」
「…………」

 どうやって知ったのか、なんかすごく怖くて聞けなかった。この子、どんな手でも使いそうなんだもん。

「それに、お母さんがお父さんの裏切りに気づいていることも。そして、それを信じたくないことも。いつからか二人とも……すいません。愚痴っぽくなっちゃいましたね」
「別にいいよ」

 色々頭の中に思い浮かぶことはあったが、それを言葉にしようとは思わなかった。
 せめて彼女の吐き出したい言葉を吐き出させることが、今の自分にできる唯一のことだった。

「……それはそうと真冬ちゃん、話ながら歩いている間に、随分家から離れちゃったけど、戻ったほうがいいんじゃないかな?」
「あらあらまあまあ、私としたことが……とんだおっちょこちょいですね。てへぺろっ♪」
「…………」

 おっちょこちょいとか久しぶりに聞いた気がする……あとただひたすらあざとくわざとらしい……。

「こういう日はちーちゃんの隣で寝て、落ち着きたいのです」
「そ、そうか……」

 本当なら今すぐUターンさせたいところだが、さっきあんなの見せられたばかりだし、真冬ちゃんは千秋の隣で寝たいと言ってる。つまり、千秋が許可さえ出せば、俺がどんなに拒否しようと意味がない。
 つまり、抵抗するだけ時間の無駄だということだ。

「ちゃんと親に連絡だけはしておくように」
「もうしましたよ」
「はやっ!?」
「お兄さんの家に泊まってきますって言いましたから、大丈夫です」
「俺が大丈夫じゃないよ!」
「もちろん冗談です。あと、ちーちゃんには昨日の内に言っておいたから、そちらも大丈夫ですよ」

 マジか。そこまで仕組まれていたのか。千秋から何も聞いてねえぞ。いや、いちいち言うわけないか。
 そんな風に話している内に、先程までのどんよりした気分がだいぶ晴れ、あとは家に帰るだけだと思った瞬間。
 曲がり角から見覚えのある金髪の女性……いや、溜める必要ないか。水瀬さんが出てきた……マジか。このタイミングで?
 しかも、すぐに目が合った。

「え?」
「あ……」
「う……」

 全員の動きがピタリと止まる。
 さっきまで聞こえていた車の音も聞こえなくなってしまった。
 俺は、特に疚しいことはないけれど、罪悪感にも似た何かが胸の中をざわつかせるのを感じる。

「ほう、これはどういうことなんだ?」
「ふふっ、見たまんまですかねえ」

 そして、沈黙を切り裂くように、二人は挑発的な笑みをぶつけ合い始めた。

 

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