姉の友達vs妹の友達
豆柴と彼女
俺は、千秋と真冬ちゃんについて駅まで来ていた。
とはいえ、ここからどこかへ遠出するわけじゃない。
この街の駅は、大型のショッピングセンターが併設されているので、買い物好きなら1日くらい余裕で時間を潰せる。
俺は本屋とか家族で食事に行く時くらいしか利用しないのだが、女子二人はテンションの高まりが端から見てとれた。
千秋は真冬ちゃんの肩をバシバシ叩き、喜びを表現している。こら、困ってるからやめてやれ。
「ねえねえ、ふゆっちー。ふゆっちはどこから行きたいの?」
「う~ん。ちーちゃんの見て回りたい所かな」
「あははっ、何それ可愛い~!」
よくわからないノリでじゃれあう二人を眺めながらショッピングセンターに足を踏み入れると、中は既に多くの人で賑わっていた。
「よしっ!今日は荷物持ちもいることだし、何買おっかな~♪」
「お前、今月ピンチじゃなかったっけ?」
「へっへーん、こういう時の為のヘソクリがあるからノープロブレム」
おそらくそのヘソクリは、ちょいちょい父さんの肩たたきとかしてもらった500円の山だろう。父さんは千秋には甘い。ついでに姉さんにも甘い。なんだこれ。ぐれるぞ、ちくしょう。
「どうした兄貴ー。おいてくよー」
「お兄さん、行きますよー」
「はいはい」
こちらを振り向いた真冬ちゃんは、意味深な笑みを見せた。
家庭内格差はさておき、とりあえず今日を楽しく乗りきらなきゃな、と俺は二人の背中を追いかけた。
*******
敷地内に足を踏み入れた瞬間、俺は用意しておいた台詞を口にした。
「どうする?とりあえず映画館行くか?」
「「…………」」
すると、二人から「お前、何テキトーに時間潰そうとしてんだ」みたいな目で見られる。冗談で言っただけなのに……。ユーモアを忘れるなよ。
「じゃあ、とりあえず行きたい所一人ずつ言って、順番に回るか」
「おおっ、兄貴にしてはナイスアイディア!じゃあ、私は洋服屋!」
もうちょいしぼれよ。洋服屋何件あると思ってんだ。全部見て回るつもりか。
「じゃあ、私は……ペットショップとか見てみたいです」
「へえ、ふゆっちペット欲しかったんだ?」
「今すぐ飼いたいとかじゃないんだけど、たまにすごく見に行きたくなるの」
「じゃあ、とりあえず俺は本屋で」
「え~、兄貴大して読者家でもないくせになんか生意気~~」
「生意気なのはお前だ。てか、ここまで広くても俺みたいなのは案外行くとこないんだよ」
「あ、納得」
「おい」
「あははっ、やっぱり兄妹仲良いですね」
「「よくない」」
うわ、ハモっちまったよ。ちなみに、千秋のほうは俺よりも嫌そうな顔をしている。そこまでする必要はないんじゃないですかねー。お兄ちゃん、泣いちゃう。いや、逆効果だな。こいつSっぽいし。
*******
最初は、真冬ちゃんのリクエストしたペットショップに足を踏み入れていた。犬や猫、兎やハムスターなどの可愛らしい動物が、可愛らしく動き回る姿は、見ているだけで癒されるものがある。
千秋はショーケースの向こう側にいる子猫を見て、溜め息を吐いていた。
「はぁ……ウチもおかーさんが猫アレルギーじゃなければなー」
「お前、間違いなく一週間くらいで餌やりとかしなくなるだろ」
「んなわけねーし!」
そんなやりとりをしていると、いつの間にか真冬ちゃんの姿が見えなくなっていた。あれ?どこ行ったんだ?
キョロキョロと辺りを探すと、彼女は隅っこのケージの前に、ちょこんとしゃがんでいた。
「真冬ちゃん?」
「…………」
返事のない彼女の視線の先を見ると、割と成長した豆柴がきらきらした瞳を外に向けていた。
おそらく成長につれて値切られたやつだろうか。
少し物哀しい思いを抱きながら、ケージ内をうろうろ動く子犬を見つめていると、ある事に気づいた。
さっきから豆柴を見つめる彼女の目は、驚くほど無感情だった。
冷たい、とは違う。
何かこう……遠くをみつめているというか……。
上手く表現する言葉が見つからず、もやもやした気持ちでいると、ようやくこちらに気づいた彼女は慌てて立ち上がった。
「ご、ごめんなさい、お兄さん!ぼーっとしてました!」
「いや、いいよ。犬、好きなの?」
「……どうでしょう」
「…………」
「あっ。今、この子中学生のくせに何匂わせてんだろうとか思いましたね?」
「……少し」
「ふふっ、そういう正直なとこ好きですよ。ちーちゃんもそういうとこが好きなんです」
「まあ、姉さんも嘘つくの下手だし、嘘つけない家系なんだろ」
「……うちと大違い」
「…………」
その言葉に、つい何も言えなくなる。ここで自分から踏み込む度胸でもあれば、立派な主人公キャラなんだろうが、俺はそうじゃない。
だから俺はこう言うのだ。
「もう少しだけ見て行こうか」
「そうですね」
真冬ちゃんも、一瞬でさっきまでの表情を脱ぎ捨てた。どれが本当の顔かなんてわかりやしない。
でも、よくよく考えたら、この時から気づいていたのかもしれない。
彼女が……彼女達が何か伝えようとしている事に。
*******
「お前はアタシの……だよなぁ?直登」
「お兄さんは私の……ですよね?ね?」
「…………」
二人から迫られ、頭が真っ白な現在。
俺は過去の出来事をなるべく丁寧に思い出し、一旦現実から逃避した。
とはいえ、ここからどこかへ遠出するわけじゃない。
この街の駅は、大型のショッピングセンターが併設されているので、買い物好きなら1日くらい余裕で時間を潰せる。
俺は本屋とか家族で食事に行く時くらいしか利用しないのだが、女子二人はテンションの高まりが端から見てとれた。
千秋は真冬ちゃんの肩をバシバシ叩き、喜びを表現している。こら、困ってるからやめてやれ。
「ねえねえ、ふゆっちー。ふゆっちはどこから行きたいの?」
「う~ん。ちーちゃんの見て回りたい所かな」
「あははっ、何それ可愛い~!」
よくわからないノリでじゃれあう二人を眺めながらショッピングセンターに足を踏み入れると、中は既に多くの人で賑わっていた。
「よしっ!今日は荷物持ちもいることだし、何買おっかな~♪」
「お前、今月ピンチじゃなかったっけ?」
「へっへーん、こういう時の為のヘソクリがあるからノープロブレム」
おそらくそのヘソクリは、ちょいちょい父さんの肩たたきとかしてもらった500円の山だろう。父さんは千秋には甘い。ついでに姉さんにも甘い。なんだこれ。ぐれるぞ、ちくしょう。
「どうした兄貴ー。おいてくよー」
「お兄さん、行きますよー」
「はいはい」
こちらを振り向いた真冬ちゃんは、意味深な笑みを見せた。
家庭内格差はさておき、とりあえず今日を楽しく乗りきらなきゃな、と俺は二人の背中を追いかけた。
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敷地内に足を踏み入れた瞬間、俺は用意しておいた台詞を口にした。
「どうする?とりあえず映画館行くか?」
「「…………」」
すると、二人から「お前、何テキトーに時間潰そうとしてんだ」みたいな目で見られる。冗談で言っただけなのに……。ユーモアを忘れるなよ。
「じゃあ、とりあえず行きたい所一人ずつ言って、順番に回るか」
「おおっ、兄貴にしてはナイスアイディア!じゃあ、私は洋服屋!」
もうちょいしぼれよ。洋服屋何件あると思ってんだ。全部見て回るつもりか。
「じゃあ、私は……ペットショップとか見てみたいです」
「へえ、ふゆっちペット欲しかったんだ?」
「今すぐ飼いたいとかじゃないんだけど、たまにすごく見に行きたくなるの」
「じゃあ、とりあえず俺は本屋で」
「え~、兄貴大して読者家でもないくせになんか生意気~~」
「生意気なのはお前だ。てか、ここまで広くても俺みたいなのは案外行くとこないんだよ」
「あ、納得」
「おい」
「あははっ、やっぱり兄妹仲良いですね」
「「よくない」」
うわ、ハモっちまったよ。ちなみに、千秋のほうは俺よりも嫌そうな顔をしている。そこまでする必要はないんじゃないですかねー。お兄ちゃん、泣いちゃう。いや、逆効果だな。こいつSっぽいし。
*******
最初は、真冬ちゃんのリクエストしたペットショップに足を踏み入れていた。犬や猫、兎やハムスターなどの可愛らしい動物が、可愛らしく動き回る姿は、見ているだけで癒されるものがある。
千秋はショーケースの向こう側にいる子猫を見て、溜め息を吐いていた。
「はぁ……ウチもおかーさんが猫アレルギーじゃなければなー」
「お前、間違いなく一週間くらいで餌やりとかしなくなるだろ」
「んなわけねーし!」
そんなやりとりをしていると、いつの間にか真冬ちゃんの姿が見えなくなっていた。あれ?どこ行ったんだ?
キョロキョロと辺りを探すと、彼女は隅っこのケージの前に、ちょこんとしゃがんでいた。
「真冬ちゃん?」
「…………」
返事のない彼女の視線の先を見ると、割と成長した豆柴がきらきらした瞳を外に向けていた。
おそらく成長につれて値切られたやつだろうか。
少し物哀しい思いを抱きながら、ケージ内をうろうろ動く子犬を見つめていると、ある事に気づいた。
さっきから豆柴を見つめる彼女の目は、驚くほど無感情だった。
冷たい、とは違う。
何かこう……遠くをみつめているというか……。
上手く表現する言葉が見つからず、もやもやした気持ちでいると、ようやくこちらに気づいた彼女は慌てて立ち上がった。
「ご、ごめんなさい、お兄さん!ぼーっとしてました!」
「いや、いいよ。犬、好きなの?」
「……どうでしょう」
「…………」
「あっ。今、この子中学生のくせに何匂わせてんだろうとか思いましたね?」
「……少し」
「ふふっ、そういう正直なとこ好きですよ。ちーちゃんもそういうとこが好きなんです」
「まあ、姉さんも嘘つくの下手だし、嘘つけない家系なんだろ」
「……うちと大違い」
「…………」
その言葉に、つい何も言えなくなる。ここで自分から踏み込む度胸でもあれば、立派な主人公キャラなんだろうが、俺はそうじゃない。
だから俺はこう言うのだ。
「もう少しだけ見て行こうか」
「そうですね」
真冬ちゃんも、一瞬でさっきまでの表情を脱ぎ捨てた。どれが本当の顔かなんてわかりやしない。
でも、よくよく考えたら、この時から気づいていたのかもしれない。
彼女が……彼女達が何か伝えようとしている事に。
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「お前はアタシの……だよなぁ?直登」
「お兄さんは私の……ですよね?ね?」
「…………」
二人から迫られ、頭が真っ白な現在。
俺は過去の出来事をなるべく丁寧に思い出し、一旦現実から逃避した。
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