姉の友達vs妹の友達

差等キダイ

襲来

 さて、次の日曜日は真冬ちゃんと会うことになったわけだが、土曜日になっても、特別何か連絡が来るわけでもなく、『楽しみですね』とかいまいち要領を得ないメールが来るだけだ。
 ……もしかしたら、これはそのままスルーして、日曜日は惰眠を貪っていればいいのでは?
 そう思っていた時期が俺にもありました。
 そして迎えた日曜日。
 ベッドの上で目を覚ますと、そこに真冬ちゃんがいた。

「…………は?」
「…………」

 説明不足だったかもしれないので、もう一度言う。
 なんと真冬ちゃんが、俺のベッドに潜り込み、にっこりと笑顔をこちらに向けていた。

「…………」

 とりあえず目を閉じてみる。
 いやいや、夢にしちゃリアルすぎるだろ。俺の頭はどうかしたのだろかうか。薄々感づいてはいたけど。

「夢じゃないですよ、お兄さん」
「はああああああああああああ!?」

 そこで容赦なく現実を突きつけられ、俺は跳ね起きる。
 すると、やはり真冬ちゃんがベッドに潜り込み、寝転がっていた。
 慌ててベッドから出ようとすると、彼女は素早く起き上がり、俺の口を塞いだ。

「静かに。ちーちゃんにはお兄さんを起こしてくるとしか言ってないんですから」

 そりゃそうだろう。「今から彼女でもないけど、ちーちゃんのお兄さんのベッドに忍び込んでくるね」なんて言ったりはしないだろう。
 こちらが落ち着いたと悟ったのか、真冬ちゃんは手を離し、にっこり笑顔を見せた。

「おはようございます、お兄さん」
「……おはようございます」

 どうして何事もなかったように挨拶できるのだろうか。水瀬さんと睨み合ってる時も思ったけど、この子強心臓すぎるだろ。

「それで、何でいきなり俺のベッドに忍び込んだのかな?」
「それはもちろん、お兄さんからお借りした写真集に、そういうシチュエーションが含まれていたからです」

 ……何がもちろんなんだろう。ちょっと何言ってるかわかんない。
 彼女は長い黒髪を俺の枕に垂らしたまま、そっと口を開いた。

「それで、どうでしたか、感想は?」
「眠くてよくわからんかったが」
「なるほど……参考にします」
「いや、しなくていいよ!?」
「おーい、ふゆっちー。兄貴の奴起きた~?起きないならかかと落としぐらいやってもいいよ~」
「大丈夫だよ~!それじゃあ、お兄さん。朝ごはんの支度はできてるので、顔を洗ってきてください」

 とんでもない事をほざいた千秋の声に反応して、彼女はするりとベッドを下り、部屋を出ていった……かと思えば、顔だけひょっこり出した。

「な、何?」
「今日は私のターンですよ」

 そう言ってドアを閉めたが、俺は一つだけ気になることがあった。

「あの子の羞恥心の基準がわからん」

 とりあえず下着NGで同衿OKなのはわかったけど……これがジェネレーションギャップか。多分違うな。

 *******

「は、恥ずかしかった~」
「ふゆっち、どしたの?」
「え?あ、ううん。何でもないよ」

 *******

 真冬ちゃんを交え、普段通りに朝食を摂っていると、何だか不思議な気がした。

「それにしても驚いたよ。ふゆっちったら、昨日夜遅くにいきなら『明日、朝早くから行っていい?』なんてメールしてくるんだもん」
「ごめんね。どうしても朝早くじゃなきゃだめだったの」
「まあ、ふゆっちならいつでもウェルカムだけどね」
「そうそう。食事は人数が多いほうが楽しいからね~」

 女子三人はやたら楽しげに話しているが、こちらは緊張が解けない。
 一体何の目的があって朝早くから我が家に来たのか。
 ……うん。わかるわけねえな。この子の思考回路を俺ごときが読めるはずない。
 とにかく今はさっさと食事を済まそう。
 目玉焼きに醤油をかけようと、醤油さしに手を伸ばすと、ぴとっと柔らかいものに触れる。

「「あ……」」

 目を向けると、俺の手は、先に醤油さしを掴んだ真冬ちゃんの手の上に置かれていた。
 ひんやりした柔らかい感触に、胸が高鳴るが、それを確かめる間もなく、手を離した。

「ご、ごめん!」
「い、いえいえ、その……お兄さんも目玉焼きは醤油派ですか」
「そう、だね。てかウチは皆醤油派。まあたまにソースもかけるけど」
「ああ、わかります。たまに変えたくなりますよね」
「そうそう」
「……なんだろ、このむず痒い感じ」
「あはは、まあまあたまには、ね?」

 二人がこそこそ話すのを聞きながら、俺は急いで朝食をかきこんだ。やばい。朝からこれでメンタル持つのだろうか。
 結局目玉焼きには何もかけなかった。

 *******

 朝食を終えると、さっそく今日の計画について話すことになった。

「あ、お姉さんは今日用事があるんですか?」
「うん、ごめんね。だから今日は三人で楽しんできて」

 どうやらスムーズな流れで俺も出かける事になっている。いや、別に嫌とかではないんだけど、ついこの流れに逆らいたくなり、つい口を開いてしまう。

「あ、俺もそういえば……」
「お兄さん、今日はよろしくお願いしますね♪」

 俺が口を開くより先に、真冬ちゃんは天使のような、という表現すら生温いくらいの極上の笑顔を見せた。
 それだけで俺は確信した。
 あ、この子、俺を逃がす気ねえわ。
 

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品