姉の友達vs妹の友達
チャーハン
「へえ、そっか。アタシと好きな食べ物まったく一緒だな」
「ですね。てか、水瀬さんがだいぶ男子よりな気が……」
「う、うるせーな。美味いもんは美味いでいいんだよ」
水瀬さんの好きな食べ物はハンバーグとカレーらしい。自分と一緒なのには驚いた。
彼女は窓の外に目をやり、頬を赤く染めながら話を続けた。
「うちのチビ達も好きで、よく作ってるんだよ」
「そうなんですか」
「ああ。こう見えて結構料理上手いぞ」
「俺も割と上手いですよ。自分で言うのもなんですが」
「はあっ!?嘘だろ!?」
「いや、驚きすぎでしょ。ウチは父さん母さんが今海外いるから、料理は自分達でやるんですよ。まあ、姉さんが料理好きだから、半分以上は姉さんですけど」
ちなみに、千秋はヘタクソである。何というか、これはわざとやっているんじゃないかと思うようなミスを連発するのだ。野菜炒めを作る際に、砂糖と塩を素で間違えそうになった時は姉さんと二人がかりで阻止した。
「なんかお前が料理してる姿想像したらウケるな」
「何でですか。結構いけてるかもしれないですよ。何なら高い位置から塩コショウかけましょうか?」
「あっはっはっはっは!!」
おい、笑いすぎじゃありませんかね?いや、自分で想像してもあまり様になってなかったけど。
「じゃあ、そのうちどっちが美味いハンバーグ作るか勝負してみるか?」
「……負けたらものすごい罰ゲームが待ってそうなので、遠慮しておきます」
「んなことしねえよ!お前の中で、アタシはどういうキャラになってんだ」
「……泣く子も黙るヤンキー」
「おい、割と見たまんまじゃねえか。そういう奴はこうしてやる!」
水瀬さんは、がばっと飛びかかってきて、俺の脇腹をくすぐり始めた。
「ちょっ、いきなり何を……!あはははっ!あ、そこは……!」
「はっ、どうだ。チビ達もソッコーでギブアップするアタシの得意技だ」
「あははっ……ちょっ、もう勘弁……」
「逃がすかっ…………あ」
ふと今の態勢が気になり、どちらもピタリと硬直する。
水瀬さんは、逃げようとした俺を捕まえることに夢中になりすぎ、馬乗りになっていた。
「「…………」」
何故かどちらも声を発せず、じっと見つめ合う。
控えめな甘い香りが鼻腔をくすぐり、ラフなジャージ越しに伝わる柔らかな感触が理性を揺さぶる。
そんな淡い静寂に、何だかふわふわした気分になっていると、頬をじんわり赤くした水瀬さんの唇が動き始めた。
「な……」
「「ただいまー!!」」
「姉さん、子供の教育によくない。場所は考えて」
「な……あ……~~~~!!!」
あっという間の出来事だった。
何の前触れもなく入ってきたちびっこ達。
ぼーっとこちらを見て、淡々と口を開く少女。
顔を真っ赤にして、言葉にならない言葉を吐き出した水瀬さん。
一瞬で離れていったが、ほんの少しだけ名残惜しさがそこにあった。
*******
「……ふう、なんかわりいな。ドタバタして」
「あ、ああ、まあ大丈夫ですよ……その、こちらもすいませんでした……色々と」
水瀬さんの発狂が収まってから、ひとまず二人して頭を下げる。
その様子を彼女の妹や弟から見られながらというのは、なんだか気恥ずかしい。それに、自分もいつの間にか火照っていたようで、頬がじんと熱い。当たり前だ。あんなの反応しない奴のほうがどうかしてると思う。
「…………」
「?」
視線を感じたので目を向けると真帆ちゃんが、じーっとこちらを見ていた。
「な、何かな?」
「おにーさん、女難の相が出てる。なんちゃって」
「……あ、うん」
「真帆。テキトーな事言うなよ。お前のテンションだと冗談に聞こえねえんだから」
「うん。だから、なんちゃってって最後に付けた」
真帆ちゃんは、すちゃっと眼鏡をかけ直してから頷いた。意外と冗談好きらしい。ただ、女難の相は案外嘘とは言えない気がするから怖い……。
「そういや、そろそろ昼飯の時間だな……直登、お前も食ってくだろ?食ってこうぜ。食ってけよ」
「何故繰り返し……まあ、食わしてもらえるんならありがたくいただきますけど」
こうして、俺は水瀬家にて昼食をいただくことになった。
*******
「……お前、本当にそこそこ手際がいいな。特別上手いわけじゃないけど」
「そりゃどうも」
褒められてるとは素直に受け取りづらい言い方に苦笑いしながら、俺は玉ねぎをみじん切りにしていた。
昼食はチャーハンに決定したので、割とよく作るし、黙って待ってるのも気まずいので、手伝いを申し出たのだ。
「こりゃあ、来週のハンバーグ対決が楽しみだ」
「いやいや、なんで来週の予定が確定してんですか。それに来週は……」
「ああ、そうだったな……チッ」
今の舌打ちは間違いなく真冬ちゃんに向けられたものだ。怖いなぁ……どうか殴り合いになりませんように。
こちらの視線を察したのか、水瀬さんは気まずそうな表情を見せた。
「おっと、いけねぇ……まあ、その……気が向いたら、また来いよ。多分、その、退屈はしないから」
「……はい」
自然に出てきた返事に、彼女は小さく笑い、調理に集中し始めた。
出来上がったチャーハンはいい香りがして、いつも自分で作るチャーハンよりも美味しかった。
「ですね。てか、水瀬さんがだいぶ男子よりな気が……」
「う、うるせーな。美味いもんは美味いでいいんだよ」
水瀬さんの好きな食べ物はハンバーグとカレーらしい。自分と一緒なのには驚いた。
彼女は窓の外に目をやり、頬を赤く染めながら話を続けた。
「うちのチビ達も好きで、よく作ってるんだよ」
「そうなんですか」
「ああ。こう見えて結構料理上手いぞ」
「俺も割と上手いですよ。自分で言うのもなんですが」
「はあっ!?嘘だろ!?」
「いや、驚きすぎでしょ。ウチは父さん母さんが今海外いるから、料理は自分達でやるんですよ。まあ、姉さんが料理好きだから、半分以上は姉さんですけど」
ちなみに、千秋はヘタクソである。何というか、これはわざとやっているんじゃないかと思うようなミスを連発するのだ。野菜炒めを作る際に、砂糖と塩を素で間違えそうになった時は姉さんと二人がかりで阻止した。
「なんかお前が料理してる姿想像したらウケるな」
「何でですか。結構いけてるかもしれないですよ。何なら高い位置から塩コショウかけましょうか?」
「あっはっはっはっは!!」
おい、笑いすぎじゃありませんかね?いや、自分で想像してもあまり様になってなかったけど。
「じゃあ、そのうちどっちが美味いハンバーグ作るか勝負してみるか?」
「……負けたらものすごい罰ゲームが待ってそうなので、遠慮しておきます」
「んなことしねえよ!お前の中で、アタシはどういうキャラになってんだ」
「……泣く子も黙るヤンキー」
「おい、割と見たまんまじゃねえか。そういう奴はこうしてやる!」
水瀬さんは、がばっと飛びかかってきて、俺の脇腹をくすぐり始めた。
「ちょっ、いきなり何を……!あはははっ!あ、そこは……!」
「はっ、どうだ。チビ達もソッコーでギブアップするアタシの得意技だ」
「あははっ……ちょっ、もう勘弁……」
「逃がすかっ…………あ」
ふと今の態勢が気になり、どちらもピタリと硬直する。
水瀬さんは、逃げようとした俺を捕まえることに夢中になりすぎ、馬乗りになっていた。
「「…………」」
何故かどちらも声を発せず、じっと見つめ合う。
控えめな甘い香りが鼻腔をくすぐり、ラフなジャージ越しに伝わる柔らかな感触が理性を揺さぶる。
そんな淡い静寂に、何だかふわふわした気分になっていると、頬をじんわり赤くした水瀬さんの唇が動き始めた。
「な……」
「「ただいまー!!」」
「姉さん、子供の教育によくない。場所は考えて」
「な……あ……~~~~!!!」
あっという間の出来事だった。
何の前触れもなく入ってきたちびっこ達。
ぼーっとこちらを見て、淡々と口を開く少女。
顔を真っ赤にして、言葉にならない言葉を吐き出した水瀬さん。
一瞬で離れていったが、ほんの少しだけ名残惜しさがそこにあった。
*******
「……ふう、なんかわりいな。ドタバタして」
「あ、ああ、まあ大丈夫ですよ……その、こちらもすいませんでした……色々と」
水瀬さんの発狂が収まってから、ひとまず二人して頭を下げる。
その様子を彼女の妹や弟から見られながらというのは、なんだか気恥ずかしい。それに、自分もいつの間にか火照っていたようで、頬がじんと熱い。当たり前だ。あんなの反応しない奴のほうがどうかしてると思う。
「…………」
「?」
視線を感じたので目を向けると真帆ちゃんが、じーっとこちらを見ていた。
「な、何かな?」
「おにーさん、女難の相が出てる。なんちゃって」
「……あ、うん」
「真帆。テキトーな事言うなよ。お前のテンションだと冗談に聞こえねえんだから」
「うん。だから、なんちゃってって最後に付けた」
真帆ちゃんは、すちゃっと眼鏡をかけ直してから頷いた。意外と冗談好きらしい。ただ、女難の相は案外嘘とは言えない気がするから怖い……。
「そういや、そろそろ昼飯の時間だな……直登、お前も食ってくだろ?食ってこうぜ。食ってけよ」
「何故繰り返し……まあ、食わしてもらえるんならありがたくいただきますけど」
こうして、俺は水瀬家にて昼食をいただくことになった。
*******
「……お前、本当にそこそこ手際がいいな。特別上手いわけじゃないけど」
「そりゃどうも」
褒められてるとは素直に受け取りづらい言い方に苦笑いしながら、俺は玉ねぎをみじん切りにしていた。
昼食はチャーハンに決定したので、割とよく作るし、黙って待ってるのも気まずいので、手伝いを申し出たのだ。
「こりゃあ、来週のハンバーグ対決が楽しみだ」
「いやいや、なんで来週の予定が確定してんですか。それに来週は……」
「ああ、そうだったな……チッ」
今の舌打ちは間違いなく真冬ちゃんに向けられたものだ。怖いなぁ……どうか殴り合いになりませんように。
こちらの視線を察したのか、水瀬さんは気まずそうな表情を見せた。
「おっと、いけねぇ……まあ、その……気が向いたら、また来いよ。多分、その、退屈はしないから」
「……はい」
自然に出てきた返事に、彼女は小さく笑い、調理に集中し始めた。
出来上がったチャーハンはいい香りがして、いつも自分で作るチャーハンよりも美味しかった。
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