姉の友達vs妹の友達

差等キダイ

雨、そして相合い傘

「まさか、いきなり雨が降るとは……」

 学校帰り、突然の雨に見舞われた俺は、公園の東屋で雨宿りをしていた。
 ぶっちゃけ家まではまだ距離がある。
 まあ、雨の中走って帰っても構わないんだけど、途中で雨が上がって損した気分になるのは避けたい。
 かといって、そこそこ長い時間待ったけど、雨が上がらず、時間を無駄にして、結局ずぶ濡れも嫌だ。
 ……あと15分。あと15分だけ待って、それでも止まなかったら、濡れてでも走って帰ろう。
 そう決意してから、どのくらい経っただろうか、再び携帯で時間を確認しようとしたところで、誰かがこちらに駆け寄ってくるのが見えた。あれは……女の子?
 小柄な女の子が慌ててこちらに走ってくる。まあ間違いなく雨宿りを求めてきてるんだろう。
 無事に女の子が東屋に逃げ込み、乱れた息を整えているのを見ていると、その女の子が顔見知りなのに気づいた。

「……真冬ちゃん?」
「え?」

 声をかけてみると、彼女は顔を上げた。よかった。人違いじゃなかった。

「あ、お兄さん。こんにちは……偶然ですね……ふぅ」

 真冬ちゃんは、濡れた髪を撫でながら、笑顔を見せた。少し疲れ気味の笑顔と濡れた長い黒髪のせいか、彼女は少し大人っぽく見える。

「お兄さんも雨宿りですか?」
「まあ、そんなとこ」
「いきなりですもんね。今日は家には誰もいないし、もう困っちゃいました……あはは」

 喋り方可愛いっ!なんて考えながら、なるべく年上の男らしく冷静にクールに立ち振る舞おうとすると……いや、無理ですね。これは……だって冷静にクールとか言っちゃってるもん。
 すると、真冬ちゃんはこちらを見て、くすっと微笑んだ。

「お兄さんって、なんか見てて飽きないですね」
「……そんな挙動不審になってた?」

 たまに考え事をしている時にキョロキョロしたり、そわそわしたりするのだが、どうやら好印象を与えたようで何より。
 彼女はまるでいいとこのお嬢様みたいな、上品な笑みを向けてきた。

「ふふっ、ウチで飼ってる猫みたいでしたよ」
「へえ、猫飼ってるんだ」
「はい。ショウっていう男の子なんですけど……」

 それから彼女は、愛猫について語り始めた。どうやらイタズラ好きな猫らしい。ウチは母さんが猫アレルギーだから飼えないもんなぁ……。
 話していると、いつの間にか結構時間は過ぎていたが、雨があがる気配はなかった。もう予定の15分はとっくに過ぎているし、行くしかないか……まあ、色々と予定を変更しなきゃだけど。

「じゃあ、俺が傘買ってくるから待ってて」
「え?で、でも濡れちゃいますよ!」
「大丈夫大丈夫。4月だから、もうだいぶ暖かいし」

 テキトーな言い訳だけ置いて、俺は近くのコンビニまで全速力で駆け抜けた。まあ、そんな足速くないんだけど。

 *******

「ふぅ……お待たせ」
「だ、大丈夫ですか!?ずぶ濡れですよ!」

 真冬ちゃんはポケットからハンカチを取り出し、わざわざ額の水滴を拭ってくれるが、焼け石に水といったところだ。
 まさか、東屋を飛び出してから、急に雨が強くなるとは……。
 さらに、傘はしっかりゲットしたのだが……。

「はい、これ」
「あ、ありがとうございます……あれ?でも、お兄さんの分は?」
「あー……実はそれ1本しかなくて……まあ、俺はもうこんなだし、走って帰るから」
「だ、だめですよ。風邪ひいちゃいます」

 真冬ちゃんは、傘を広げ、こちらに差し出してきた。

「じゃあ行きましょう!」
「え?でも……」
「ほらほら、はやくしないと……」

 どうやら相合い傘で帰るのは確定らしい。まあ、あんまそういうの気にしない女子もいるんだろう。こっちは少し緊張してるけど。いや、待て。妹の友達だぞ。そう考えたら、あまり緊張しな……無理か。
 俺は極力肩が触れないよう、コンビニで売っていた小さな傘の下に身を滑り込ませた。

 *******

 まるで二人三脚のように、せっせと並んで歩いていると、真冬ちゃんがちらちらこっちを見ているのに気づいた。

「あの……お兄さん」
「何?」
「えっと……左肩濡れてますよね?」
「……そう?ずぶ濡れだったから、全然わかんなかった」
「ご、ごめんなさい……」
「あー、それより、余所見してたら転ぶよ」
「あ、はい!ふふっ」
「どうかした?」
「いえ、やっぱりお兄さんって、優しいなって……」
「…………」

 最後のは照れくさくて、聞こえないふりをしてしまった。

 *******

 それから早足でなんとか家にたどり着く。
 すると、まるで見計らったかのようなタイミングで、玄関のドアが開き、千秋が顔を出した。

「お~、兄貴おかえり~……って、ウソぉ!?なんでふゆっちがここにいるの?」
「あはは……ちーちゃん、さっきぶりだね」
「実はかくかくしかじかでな」
「いや、それじゃわからないから。てか、タオル貸すからふゆっちも入りな」
「え?でも……私、そんなに濡れてないよ?」
「いいから。兄貴がお世話になったから、お礼しなくちゃし」
「お世話になったのは、私のほうなんだけどな……じゃあ、ちょっとだけ、お邪魔します」

 千秋が駆け足でタオルを取りに行くのを見送ってから、念のため真冬ちゃんに声をかけた。

「そういや真冬ちゃん、一応もう六時近いし、家に連絡入れとかなくて大丈夫?」
「あ、気にしなくていいですよ。私、両親嫌いなんで」
「そっかぁ…………ん?」

 彼女のさらりとした声のトーンで聞き流してしまいそうになったが……あれ?今、さらりとすごいこと聞かされた気がするんだけれど。
 

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