大賢者は剣士がしたい

水止 鏡明

精霊魔法・・・グランドマスター《ガル》

(成功した。精霊は昔に契約してある1500年越しでもでてきてくれた)

【すまない。長いこと待たせた。だがあえて嬉しいぞ、ツクヨミ《月読命》】

【賢者様、私どもにとっては1500年など昨日のようでございますよ】

【それはいい。おれの腕鈍ってないか試してくれ】

【フフッその可愛い見た目のことですかな?】

【それには触れるな】



 おれは精霊語で話す。この言葉を使える者も、もう居ないだろう。

 喋れる精霊は上級精霊の《十二大精霊》だけだ。

 昔から精霊使いは上級魔法者より珍しいこの国に1人いるかいないかだろう。それに現在は中級精霊しか使役できない、それもありもう失われた言葉だ。

 なぜなら大精霊に関しては個々が強すぎたせいもあって殆どおれが使役している。条件は【基本的に自由にしていいその代わりこっちの世界では暴れるな。あと力を貸してほしい時はな・る・べ・く・来てほしい】と、大精霊は我儘なやつしかおらず、縛る方法がなかったのもあり曖昧なものにしてある。

 気に入ったやつも入れば気に入らないやつも居て、使役しても実際に力を貸してくれるのはたぶん3体だけだ。



 その内の1体ツクヨミ《月読命》夜と月の大精霊。

 主に目に関する精霊だ。見えないものを見る。攻撃を読む等。夜に効果のある精霊だが勝手に夜になるので気にしていない。

 見た目は黒い兎だ。真っ赤な月のような目をしている。



「悪いが。お前のトリックがわかればもう怖くない」

「へぇ攻撃もまともに与えられていないのに好きかっていうんだねぇ」



 正体がバレても全然動じないイリュウ堂々とした出で立ちは死線をくぐり抜けてきた証拠だ。若いのによくできやつだ。

 その後も攻撃を続けた。やはり剣自体に魔物をとりつかせ剣先を伸ばしたり、盾のような使い方で攻めてきていた。攻防一体、受けが下手な俺の方が攻め続けた。

 こっちも避けるのが精一杯だがツクヨミのおかげでことごとく決め手を避けている。



「やはりその魔物弱ってきているな。使いすぎに注意系だな」

 おれは弱ってきているスライムを見て言う。



「でも使い切れねぇんだよ。いくら剥がそうといくら遠くに飛ばそうとも絶対におれから離れない。お前ならこれ取ってくれるか?」

「そこまで使いこなして。なぜ嫌がる魔物の呪いと言ったか? それにしてはお前は元気だし強い、珍しく使いこなしているように見えるぞ」

 逆に魔物使いなど聞いたこともない。それが使用者に影響がなくここまでに使いこなせていればほぼ使役精霊と同じだ。



「そんなの関係ないんだよ。コイツはおれ以外を勝手に傷つける。村から追い出されたのもこれのせいだ。おれが、目つきが気に入らない、気持ち悪い、そう思われただけでコイツはお構いなしにそいつらを痛めつけてきた。こうやってヘラヘラしてないとまたおれに絡んでくるやつが傷つくんだよ」



 そう言ってすべての剣を放り投げるイリュウ。

 さっきから口調も変わっているこのスライムの件で心が動いている証拠だ。

 投げた剣が上空で組み合わさり、その周りにスライムが覆い被さり20mほどのでかい剣の形に変え頭上から落ちてくる。



「お前ならコイツを消せるかと期待したがその程度じゃ無理そうだな……これで最後だ潰れて消えろ」

 そう言ってイリュウは剣の上に乗り魔力を注入し全力で仕掛けてきた。



「おいおい、おれのほうが押されているかの言いようだな。こういう時のためにとっておきもあるんだぜ。《月読命ツクヨミ》!」

 おれはいつものように指を構えた。

 それと同時にツクヨミが憑依する。憑依時は一発だけ精霊魔法を使える。ツクヨミが召喚できた際の攻撃もイメージはできている。

 憑依したツクヨミと似た姿になっている。黒いオーラが纏、手に魔力を溜め集中する。



「無域セロ」

 パチンッ



 その途端スライムは消え失せ、イリュウの魔力も根こそぎ奪っていった。そのまま真っ逆さまに落ちていくイリュウ。

 流石に大精霊魔法ほどの威力は詠唱がいる。まだまだ未熟だ。

 ツクヨミは《消滅魔法》の一種で【無有、有無】と言われている大精霊で魔力ごと消してしまう。要は見えないものを見て、見えるもの見えなくする。という意味だ。

 基本は魔力を奪う技だがイリュウのスライムのような、見えない召喚獣や精霊、魔物に特に有効な大精霊だ。

 大精霊魔法は上級魔法の更に上《限界魔法》と言われる魔法で、だいぶ疲れる。



「なんだよ、まだこんなに強いやつがいるのかよ……でも、ありがとうな」

 そう言って湖に落下し消えた。



 ザザァ・・・・・・・・・ザザ



「ここで映像が復活だぁ! 早く写せぇ」

 デン君が必死だ。



 そこに写っていたのはひとり歩くルーシュの姿だけ。

 試合は終わっていた。



「またこれかぁ!! なんでイリュウ選手の試合は見れない! 謎の多いイリュウ選手、何か怪しくなってきたぞぉ」

 会場は騒がしいようだった。



 そんなのほっといて医務室に来た。

「どうだ調子は」

「ああ、ありがとう……あのさ気を失っている間に夢を見たんだ。おれがあのスライムがいじめられていたのを助けた事がったんだ。その時スライムがおれのこと助けてくれるって言った気がしたんだ。そんな事とっくに忘れててさ、いつの間にか取り憑かれたなんて思ってって、バカみたいだろ……」

「そうか……良かったのか? 本当に居なくなってしまって」



 おれは申し訳無さそうに答えた。



「あはは、残念でしたぁ。コイツ何故か消えてないんだよな~引っかかったね」

 そう笑って話すイリュウ



「嘘だろ? おれ本気で消しにかかったぞ」

「おれも夢から覚めて焦ったんだけどねぇ。何故かそこに居たんだよ。ルーシュくんも大したこと無いんだね」

 そう笑いながらいつもの口調に戻ったイリュウの目は赤くなっていた。





 今日の事はお互い内緒にしてくれとイリュウに話し会場に戻ってきた俺

 大歓声かと思いきや、めちゃくちゃブーイングだった。

 おれもそのはず何も見れていなかったんだからな……

 もう一回しろだとか、優勝者はなしだとか、一からやり直せとか(これはジャックだ)色々言われた。

「うるせ~勝ちは勝ちだ。おれが一番だと認めろ」

 悪態をついてみんなとふざけていたが、そこにある男が来た。



「君がルーシュ君か。はじめまして《ガル》というものだ。」

(何だこの威圧感こいつがガル……でかい)



 そこに居たのはこの王国のギルド最上位グランドマスターの称号を持つ男、そして国王の居ない今実権を握る者の1人、そして世界最強の男ガル



「なかなかいい戦いっぷりだった。最・後・ま・で・見せてもらったよ」

(こいつモニター消してあったのに見てやがったのか。しかしおれを賢者だと知っているはずだし大丈夫か)



「あ、すいません、グランドマスターのガル様ですよね。ありがとうございます」

(何だ? このタイミングで何の用だ)



「なにか言いたそうだなルーシュ君」

「いえ、なぜこの様なところにと思いまして……」

(不気味だ。呼び出すでもなくこの状況、俺の実力を伺うようなタイミングで……こいつは警戒しないといけない)



「そう構えるでない。ここへは私用で来た」

「え? 私用?」

 おれが不思議に思うと



「パパ~~~」

(パパ!? こいつがパパ? だれだ誰のパパだ)

「おお、ここにいたか可愛い我が娘よ」

 そうやって飛びついたのはリリスだった。

「パパったら来るのが遅いっ」

「はっはっはっ、すまないすまない。だが決勝は今日だと書いてあったぞ?」

「もぉ~負けちゃったの! 昨日まで私戦ってたのにっ」

「そうであったか、悪いことをした。また機会があれば見せてくれるか」

「うんっ次は絶対来てね。次はもっと大きな戦いなんだからねっ」

「そういえばルーシュ君良いもの見せてくれた、楽しかったよ」

 そうやって親子水入らず話しながら歩いて出ていった。

(大精霊見られたのはしくったな)





「びっくりした……誰か知ってたか?」

 みんな知らなかったと内心焦ってたようだった。

「リリスのあの強さ納得行くな」

 みんなリリスの化け物っぷりも理解した。

「しかしルーシュも取り乱してたな、やっぱ威圧感すごかったか」

 ジャックが話してくる。

「身体がデカかったからな。それに掴みにくい人だと思った。まぁもういいだろパーティーに移ろうぜ、デン君」

 (リリスの父親、でもあの不思議な感じは何だ? 娘がいるなら怪しいやつではないのか?)

 気にはなったがせっかく勝ったんだ今は気にしないでおこう

 試合の後のことはデン君に任せた。



 場所は変わって食堂

「長い長いトーナメント戦が終わったのでお待ちかね! イタリアンパーティーだぁ! みんなお疲れ様~ このあとは思う存分楽しんでいってくれ!!せーのっ」

『カンパーイ!!!!!!!!!!』


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