ゴブリンロード
第196話 黒波
なだらかな丘陵地に生い茂る新緑の草原。その上を小さく黒い点が動いているのにユウトは気づいた。その黒点は二つ、三つと増え続ける。点は面となり、さらに増え続けながらユウト達の方へと近づいて来ていた。
そのときセブルがヴァルの上から飛び降りて迫る黒い波を待ち受ける。近づいてきた事でその正体にユウトは気づいた。
「あれは・・・クロネコテンか!」
黒い波と化したクロネコテン達のさらに後方に、走って追いかけているメルの姿を確認することができる。走りながら口を開くメルの声は「まってー」と叫んでいるようであった。
そして迫りくる黒波に向けてセブルも叫ぶ。
「止まれっ!止まれー!」
セブルの声と共に黒波を形成するクロネコテン達は一斉に制動を掛ける。しかしそれはあまりに急に行ったためか勢いが余り、後続ともみくちゃになりながら黒い雪崩へと変貌してしまった。
それぞれのクロネコテンがふわふわにした毛を伸ばしたためか、より体積が大きくなったように見える。「あっ」と言ってセブルは先に黒い雪崩にのまれていき、ユウトとヨーレンも逃げようにもすでに難しく、なすがままにふわふわした黒い雪崩に包まれた。
いくらふわふわと言っても圧がないわけではなく耐えきれずにユウトとヨーレンはゆっくりと尻もちを付くようにして倒れ込む。しかしユウトに地面と衝突するような衝撃は感じられなかった。
あたりを密集するクロネコテンに全身を包まれてユウトは暖かさを感じている。すぐに流れは止まり、次第に毛が収縮していくと座り込んでいるユウトとその周囲を取り囲む無数クロネコテンが現れた。
じっとユウトを見上げるクロネコテン達。その瞳はみな黄色く輝いていた。
時折瞬きをしていた瞳が一斉ににゅっと高くなる。そして人型を成した。その姿はセブルに似ている。しかし細部は完璧ではなく、耳はネコテンのもので尻尾を残したままだった。
そして、じりじりとほとんどない隙間をユウトに向けて詰めると手を伸ばしてくる。ユウトは少し驚き動揺するが焦りはなかった。
ユウトに向けられる視線に敵意が感じられない。それは波のように迫ってき来る時からだった。
亜人の形をしたクロネコテン達はユウトにそっと手をふれるときゅっと寄り添う。そして身体を密着させ顔をこすりつけてきた。
緊張感がほぐれ、ユウトはほっとする。しかしそれは瞬く間に過ぎ去っていった。
クロネコテン達は止まることを知らず、後列が進行し続け、ユウトはしだいに飲み込まれていく。全身をクロネコテン達に取り囲まれて身動きが取れなくなってしまった。
あごの下から頭をこすりつけたりして間近にクロネコテン達の体温の暖かさを感じる。密着の度がすぎ、それまで息を止めていたユウトは思わず鼻で空気を吸ってしまった。
しまった、と内心ユウトは自身に向けて悪態を思いながら全身を硬直させると、心を無にするよう努める。そこに「こらッ!」と強い語気でセブルの掛け声が掛かった。
クロネコテン達はピタリと動きを止める。そして次にセブルが「整列ッ!」と号令を掛けると一斉にユウトの身体から離れ、行動を起こした。
解放されたユウトは、はあっと大きく息を吐いて全身の力を抜く。クロネコテン達はというとわき目もふらず一心に行動し、セブルの前で一定間隔に縦横そろえた整列を作るとセブルに注目していた。
セブルは先頭の端にいる一匹のクロネコテンを見て声を掛ける。
「オリオ・・・みんなにつられちゃだめでしょ?」
「ごめんなさいです!ねぇさま。自制がきかなくて、つい・・・」
オリオと呼ばれたクロネコテンは居心地悪そうに頭をかいた。
ユウトはヨーレンに手を借りながら立ち上がると、整列したクロネコテン達を見下ろす。
「そうか。この子達が・・・」
「はい。どうにか助けられたネコテン達です」
ユウトの声にセブルが振り向き、見上げながら答えた。
クロネコテン達は几帳面に整列しながらも、それぞれが人型になったりそわそわしながらユウトに注目している。そこへようやくメルが息を切らせながらやってきた。
「ユウトさん、目覚められたんですね。ほっとしました」
息を整えてからメルはユウトに話しかける。
「心配かけさせてしまって申し訳ない、メル。クロネコテン達の世話をしてもらってみたいでありがたいよ」
「みんなすごく聞き分けがよくて驚いています。ただ、なんだかすごくユウトさんの事が気になる?みたいですね。親愛というか好意といった感じでしょうか。こんな一斉に勝手な行動をとるとは思わなかった」
そう言ってメルは不思議そうにクロネコテン達を見渡した。
「ソレハ、セブルカラ複製サレタ感・・・」
「黙ってなよ、ヴァル」
突然、語りだしたヴァルだったがセブルの威圧的な低い声で静止される。
「えっ、セブルどうしたの?そんな不機嫌そうな鳴き声、やなことでもあった?」
メルにはセブルの言葉は低い鳴き声としか聞き取られなかったらしかった。
心配そうに膝をついてセブルをなでるメルの姿を見て、ユウトはメルにクロネコテン達を任せたのは正しい判断をしたと思った。
セブルは人型に身体を変えてメルに答える。
「大丈夫だよメル。みんなは落ち着かせたからもうメルを無視したりはしない、はずだから。困った時はオリオを頼ってね」
「うん。わかったわ、セブル。ありがとう」
そう言ってメルは立ち上がってユウトの方を向いた。
「それでは、この子たちをもう少し遊ばせてきますね。訓練の進みもいいので近いうちに糸が取れるようになると思いますよ。それでは」
「引き続き、よろしく頼むよ。メル」
ユウトはメルの言葉に手を上げながら返事をする。メルは頷いてクロネコテン達の方へ手を挙げて近づき、元来たほうへと進み始めた。
「よーし、みんな行くよー」
オリオがさらに促し、クロネコテン達はユウトを振り返りながらその場を離れていく。そんな後ろ姿をユウト達は見送った。
そのときセブルがヴァルの上から飛び降りて迫る黒い波を待ち受ける。近づいてきた事でその正体にユウトは気づいた。
「あれは・・・クロネコテンか!」
黒い波と化したクロネコテン達のさらに後方に、走って追いかけているメルの姿を確認することができる。走りながら口を開くメルの声は「まってー」と叫んでいるようであった。
そして迫りくる黒波に向けてセブルも叫ぶ。
「止まれっ!止まれー!」
セブルの声と共に黒波を形成するクロネコテン達は一斉に制動を掛ける。しかしそれはあまりに急に行ったためか勢いが余り、後続ともみくちゃになりながら黒い雪崩へと変貌してしまった。
それぞれのクロネコテンがふわふわにした毛を伸ばしたためか、より体積が大きくなったように見える。「あっ」と言ってセブルは先に黒い雪崩にのまれていき、ユウトとヨーレンも逃げようにもすでに難しく、なすがままにふわふわした黒い雪崩に包まれた。
いくらふわふわと言っても圧がないわけではなく耐えきれずにユウトとヨーレンはゆっくりと尻もちを付くようにして倒れ込む。しかしユウトに地面と衝突するような衝撃は感じられなかった。
あたりを密集するクロネコテンに全身を包まれてユウトは暖かさを感じている。すぐに流れは止まり、次第に毛が収縮していくと座り込んでいるユウトとその周囲を取り囲む無数クロネコテンが現れた。
じっとユウトを見上げるクロネコテン達。その瞳はみな黄色く輝いていた。
時折瞬きをしていた瞳が一斉ににゅっと高くなる。そして人型を成した。その姿はセブルに似ている。しかし細部は完璧ではなく、耳はネコテンのもので尻尾を残したままだった。
そして、じりじりとほとんどない隙間をユウトに向けて詰めると手を伸ばしてくる。ユウトは少し驚き動揺するが焦りはなかった。
ユウトに向けられる視線に敵意が感じられない。それは波のように迫ってき来る時からだった。
亜人の形をしたクロネコテン達はユウトにそっと手をふれるときゅっと寄り添う。そして身体を密着させ顔をこすりつけてきた。
緊張感がほぐれ、ユウトはほっとする。しかしそれは瞬く間に過ぎ去っていった。
クロネコテン達は止まることを知らず、後列が進行し続け、ユウトはしだいに飲み込まれていく。全身をクロネコテン達に取り囲まれて身動きが取れなくなってしまった。
あごの下から頭をこすりつけたりして間近にクロネコテン達の体温の暖かさを感じる。密着の度がすぎ、それまで息を止めていたユウトは思わず鼻で空気を吸ってしまった。
しまった、と内心ユウトは自身に向けて悪態を思いながら全身を硬直させると、心を無にするよう努める。そこに「こらッ!」と強い語気でセブルの掛け声が掛かった。
クロネコテン達はピタリと動きを止める。そして次にセブルが「整列ッ!」と号令を掛けると一斉にユウトの身体から離れ、行動を起こした。
解放されたユウトは、はあっと大きく息を吐いて全身の力を抜く。クロネコテン達はというとわき目もふらず一心に行動し、セブルの前で一定間隔に縦横そろえた整列を作るとセブルに注目していた。
セブルは先頭の端にいる一匹のクロネコテンを見て声を掛ける。
「オリオ・・・みんなにつられちゃだめでしょ?」
「ごめんなさいです!ねぇさま。自制がきかなくて、つい・・・」
オリオと呼ばれたクロネコテンは居心地悪そうに頭をかいた。
ユウトはヨーレンに手を借りながら立ち上がると、整列したクロネコテン達を見下ろす。
「そうか。この子達が・・・」
「はい。どうにか助けられたネコテン達です」
ユウトの声にセブルが振り向き、見上げながら答えた。
クロネコテン達は几帳面に整列しながらも、それぞれが人型になったりそわそわしながらユウトに注目している。そこへようやくメルが息を切らせながらやってきた。
「ユウトさん、目覚められたんですね。ほっとしました」
息を整えてからメルはユウトに話しかける。
「心配かけさせてしまって申し訳ない、メル。クロネコテン達の世話をしてもらってみたいでありがたいよ」
「みんなすごく聞き分けがよくて驚いています。ただ、なんだかすごくユウトさんの事が気になる?みたいですね。親愛というか好意といった感じでしょうか。こんな一斉に勝手な行動をとるとは思わなかった」
そう言ってメルは不思議そうにクロネコテン達を見渡した。
「ソレハ、セブルカラ複製サレタ感・・・」
「黙ってなよ、ヴァル」
突然、語りだしたヴァルだったがセブルの威圧的な低い声で静止される。
「えっ、セブルどうしたの?そんな不機嫌そうな鳴き声、やなことでもあった?」
メルにはセブルの言葉は低い鳴き声としか聞き取られなかったらしかった。
心配そうに膝をついてセブルをなでるメルの姿を見て、ユウトはメルにクロネコテン達を任せたのは正しい判断をしたと思った。
セブルは人型に身体を変えてメルに答える。
「大丈夫だよメル。みんなは落ち着かせたからもうメルを無視したりはしない、はずだから。困った時はオリオを頼ってね」
「うん。わかったわ、セブル。ありがとう」
そう言ってメルは立ち上がってユウトの方を向いた。
「それでは、この子たちをもう少し遊ばせてきますね。訓練の進みもいいので近いうちに糸が取れるようになると思いますよ。それでは」
「引き続き、よろしく頼むよ。メル」
ユウトはメルの言葉に手を上げながら返事をする。メルは頷いてクロネコテン達の方へ手を挙げて近づき、元来たほうへと進み始めた。
「よーし、みんな行くよー」
オリオがさらに促し、クロネコテン達はユウトを振り返りながらその場を離れていく。そんな後ろ姿をユウト達は見送った。
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