ゴブリンロード
第171話 成果
この日の野営基地は夜となっても魔術灯が輝き眠ることがない。そして空の端が白み始めた。地平線から光が差し、千切れた雲から空に影が線が伸びる。気温は一段と落ち外にいる見張りや荷物を運ぶ人々の口から白い息が漏れた。
ユウトは朝日のかすかな光を感じ取り瞼をゆっくりと持ち上げる。ユウトに覆いかぶさる平たいセブルのおかげで寒さを感じることはなかった。ぬくもりに包まれながらもう少しまどろんでいようかとユウトは考える。しかしその思惑とは裏腹にゴブリンの身体の感覚は否応なく鋭敏になりユウトの眠気をはらしていった。意識がはっきりしてしまうと、もう決戦に関連したことしかかんがえられなくなってしまう。ユウトは二度寝をあきらめゆっくりと息を吸い、手を伸ばして身体を大きくのけぞらせた。
「・・・ユウトさん?おはようございます」
ユウトの動きに反応してセブルが眠そうな鳴き声と共に挨拶をする。
「おはようセブル。もう少し寝てようかとも思ったんだけど目が冴えてしまった。起きるよ」
セブルは身体を縮めてネコテンの姿に戻った。
セブルの身体の上で眠っていたラトムは寝台の上に残され、まだ瞳を閉じて頭をこっくりさせていた。
「ほらっ。ラトム起きなよ。置いてっちゃうよ」
セブルの前足で揺さぶられたラトムは「はいっス・・・」とつぶやきながらむくりと立ち上がる。ユウトは立ち上がり掛けてあったマントを羽織ってフードを脱ぎ簡単に身なりを整えていた。
「じゃあ行こうか」
「承知シタ」
ヴァルが声を発し、それまで接地していた体がふわりと低く浮遊する。セブルはユウトの肩へ飛び乗り、マントのフードの縁に取り付いた。
「えっとえっとユウトさん、ラトムがまだ・・・」
セブルはユウトの耳元で申し訳なさそうに報告する。ユウトは寝台の上でいまだふらふらしながら足踏みしていた。
「いつもより早起きしてしまったし、しょうがない」
ユウトは両手でラトムをそっとすくいあげて片手に移すと脱いだフードの中へとゆっくり移す。
「しばらくしたらラトムも目がさめるだろ。さて、と今日が正念場か・・・やってみせるさ」
ユウトは鼻から大きく息を吸って胸を張って背筋を伸ばすとテントから颯爽と出て行った。
モリードの仮設工房の周りは他のテントと比べ広く間を空いている。その空間では今、デイタスが自身専用の魔術大剣を振るい、ピタリとその剣先を制止させてはまた振るという動作を繰り返していた。
そして制止した剣先をゆっくりと下げ、構えを解き、ふうと白い息が勢いよく吐かれる。そこに声を掛けたのはユウトだった。
「気合が入ってるな。デイタス」
デイタスはその体から薄っすらと湯気を立ち昇らせながらユウトに振り向く。
「おはよう!ユウト。俺は今日という日を待ち望んでいたからな!中央の騎士団を除隊してまで追い求めた魔術式の大剣。これでようやく戦場に立つための準備が整ったのだ。恐れより歓喜が勝ってしまうというものだ」
デイタスはそう言ってにかっと輝く笑顔を見せた。
「間に合ってよかったよ。デイタスが参戦してくれるととても心強い。大剣の扱いに関してはオレの師匠だからな」
「はははッ!まかせておけ。それでユウトは大魔剣の機関を発動させにきたんだろう?それはもうモリードがやってくれているぞ」
「モリードが?またどうやって?」
「見る方が早い。さぁ中に入ろう。朝食も準備してあるぞ!」
デイタスはそう言うと魔術大剣を立てかけてあった鞘へと丁寧に収め、仮設工房に入っていく。ユウトもデイタスに続いた。
仮設工房に入りデイタスの大きな背中から室内が開けると中央の台に置かれた大魔剣にいくつか線が伸びて箱につながれている。その横にはモリードが大魔剣の様子を観察していた。
「モリード、今日はオレが起動しなくてよかったのか?」
大魔剣の乗った台を挟んでモリードに向かい合うユウトは大魔剣を見下ろしながら訪ねる。
「起動準備に使われる魔力量が一番多いからね。本番前くらいは僕の方で何とかしたかったから余った魔力をかき集めてきたんだ」
「そうだったのか・・・ありがとうモリード。寝てないんじゃないか?」
うつむいていたモリードは上目遣いににやりとユウトを見た。
「いよいよ今日、ボクの研究成果物が最大限度の実力を発揮しようとしているんだ。興奮して寝れないんだよ。確かにしんどいけれど今日までは大丈夫」
ユウトは気迫のこもったモリードの眼差しに不意を突かれて驚く。
「ああ、わかった。無理はしすぎるなよ」
そう言ってその場を離れ、デイタスが用意する朝食の並んだ机に向かった。
「おはようございますっス。寝ぼけててお手数おかけしてしまったっス」
しっかりと覚醒したラトムが居心地悪そうにユウトの肩によじ登ってくる。
「気にしなくていいんだ。ちょっとオレの気持ちが焦ってたのかもしれない。オレもラトムくらいの余裕を持っておかないとな」
「ややっ、そんなことないっスよー」
ラトムは頭をかく。
「うん?ラトムは褒められてないと思うけど?」
「ラトムハ前向キ、ダナ」
セブルとヴァルがラトムの反応に対して指摘した。
それからユウトとデイタス、セブルとラトムは大魔剣にかかりっきりのモリードをおいて朝食を取る。ヴァルはモリードの手伝いを申し出てモリードに尋ねられて観測した数値を答えていた。
ユウトは朝日のかすかな光を感じ取り瞼をゆっくりと持ち上げる。ユウトに覆いかぶさる平たいセブルのおかげで寒さを感じることはなかった。ぬくもりに包まれながらもう少しまどろんでいようかとユウトは考える。しかしその思惑とは裏腹にゴブリンの身体の感覚は否応なく鋭敏になりユウトの眠気をはらしていった。意識がはっきりしてしまうと、もう決戦に関連したことしかかんがえられなくなってしまう。ユウトは二度寝をあきらめゆっくりと息を吸い、手を伸ばして身体を大きくのけぞらせた。
「・・・ユウトさん?おはようございます」
ユウトの動きに反応してセブルが眠そうな鳴き声と共に挨拶をする。
「おはようセブル。もう少し寝てようかとも思ったんだけど目が冴えてしまった。起きるよ」
セブルは身体を縮めてネコテンの姿に戻った。
セブルの身体の上で眠っていたラトムは寝台の上に残され、まだ瞳を閉じて頭をこっくりさせていた。
「ほらっ。ラトム起きなよ。置いてっちゃうよ」
セブルの前足で揺さぶられたラトムは「はいっス・・・」とつぶやきながらむくりと立ち上がる。ユウトは立ち上がり掛けてあったマントを羽織ってフードを脱ぎ簡単に身なりを整えていた。
「じゃあ行こうか」
「承知シタ」
ヴァルが声を発し、それまで接地していた体がふわりと低く浮遊する。セブルはユウトの肩へ飛び乗り、マントのフードの縁に取り付いた。
「えっとえっとユウトさん、ラトムがまだ・・・」
セブルはユウトの耳元で申し訳なさそうに報告する。ユウトは寝台の上でいまだふらふらしながら足踏みしていた。
「いつもより早起きしてしまったし、しょうがない」
ユウトは両手でラトムをそっとすくいあげて片手に移すと脱いだフードの中へとゆっくり移す。
「しばらくしたらラトムも目がさめるだろ。さて、と今日が正念場か・・・やってみせるさ」
ユウトは鼻から大きく息を吸って胸を張って背筋を伸ばすとテントから颯爽と出て行った。
モリードの仮設工房の周りは他のテントと比べ広く間を空いている。その空間では今、デイタスが自身専用の魔術大剣を振るい、ピタリとその剣先を制止させてはまた振るという動作を繰り返していた。
そして制止した剣先をゆっくりと下げ、構えを解き、ふうと白い息が勢いよく吐かれる。そこに声を掛けたのはユウトだった。
「気合が入ってるな。デイタス」
デイタスはその体から薄っすらと湯気を立ち昇らせながらユウトに振り向く。
「おはよう!ユウト。俺は今日という日を待ち望んでいたからな!中央の騎士団を除隊してまで追い求めた魔術式の大剣。これでようやく戦場に立つための準備が整ったのだ。恐れより歓喜が勝ってしまうというものだ」
デイタスはそう言ってにかっと輝く笑顔を見せた。
「間に合ってよかったよ。デイタスが参戦してくれるととても心強い。大剣の扱いに関してはオレの師匠だからな」
「はははッ!まかせておけ。それでユウトは大魔剣の機関を発動させにきたんだろう?それはもうモリードがやってくれているぞ」
「モリードが?またどうやって?」
「見る方が早い。さぁ中に入ろう。朝食も準備してあるぞ!」
デイタスはそう言うと魔術大剣を立てかけてあった鞘へと丁寧に収め、仮設工房に入っていく。ユウトもデイタスに続いた。
仮設工房に入りデイタスの大きな背中から室内が開けると中央の台に置かれた大魔剣にいくつか線が伸びて箱につながれている。その横にはモリードが大魔剣の様子を観察していた。
「モリード、今日はオレが起動しなくてよかったのか?」
大魔剣の乗った台を挟んでモリードに向かい合うユウトは大魔剣を見下ろしながら訪ねる。
「起動準備に使われる魔力量が一番多いからね。本番前くらいは僕の方で何とかしたかったから余った魔力をかき集めてきたんだ」
「そうだったのか・・・ありがとうモリード。寝てないんじゃないか?」
うつむいていたモリードは上目遣いににやりとユウトを見た。
「いよいよ今日、ボクの研究成果物が最大限度の実力を発揮しようとしているんだ。興奮して寝れないんだよ。確かにしんどいけれど今日までは大丈夫」
ユウトは気迫のこもったモリードの眼差しに不意を突かれて驚く。
「ああ、わかった。無理はしすぎるなよ」
そう言ってその場を離れ、デイタスが用意する朝食の並んだ机に向かった。
「おはようございますっス。寝ぼけててお手数おかけしてしまったっス」
しっかりと覚醒したラトムが居心地悪そうにユウトの肩によじ登ってくる。
「気にしなくていいんだ。ちょっとオレの気持ちが焦ってたのかもしれない。オレもラトムくらいの余裕を持っておかないとな」
「ややっ、そんなことないっスよー」
ラトムは頭をかく。
「うん?ラトムは褒められてないと思うけど?」
「ラトムハ前向キ、ダナ」
セブルとヴァルがラトムの反応に対して指摘した。
それからユウトとデイタス、セブルとラトムは大魔剣にかかりっきりのモリードをおいて朝食を取る。ヴァルはモリードの手伝いを申し出てモリードに尋ねられて観測した数値を答えていた。
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