ゴブリンロード
第167話 晩餐
夜を迎えた野営基地のテント群の一角の大型テント。その中でユウトとモリード、デイタスは黙々と食事をとっている。三人は三枚のパンに溢れんばかりの肉や生鮮野菜が挟まれたサンドイッチで口の中をいっぱいにしていた。
「ふーっ。もう腹いっぱいだ」
一番早く食べ終わったユウトが満足げに口を開く。
「これは食いごたえがあった!ずいぶんと奮発したもんんだ。どの素材もかなり新鮮だったぞ」
最後の一口を頬張り、飲み込んだデイタスが嬉しそうに言った。
「確かにこれまでも普通に新しい食材だったけど今日は特別豪勢だったな。食事場の雰囲気はどうだった?やっぱり盛り上がってたのか?」
「いや、そうでもなかった。静かなもんでな。これまでの賑やかな様子はない」
「そっか。もう明日が本番だからだろうな・・・」
そう言いながらユウトは思いだす。鎧の最終調整を済ませ、モリードの仮設工房テントに戻ってくる間、野営基地の張り詰めた緊張感をひしひしと感じていた。
「デイタス、明日はハイゴブリン達の護衛をよろしく頼む」
「うむ、任せておけ。久々の戦場、武人としては胸が高鳴るものがある。必ず、役目を果たそう」
デイタスは高揚としつつ、覚悟の定まった頼もしい笑い声とともに答える。仮工房の隅にはデイタス用に用意され、ユウトが魔力を補充した魔術武器の大剣とデイタス自前の鎧が並べられていた。
そうしてユウトとデイタスが話している間にようやくモリードが食べ終わり、湯気立つお茶をぐいと飲んで一息つく。
「僕は明日までもうひと踏ん張りだな。他の部署の手伝いに行ってくるよ。もうこれ以上、大魔剣の調整がしようがないのは残念だけど」
「助かったよモリード。大魔剣は十分に仕上がってる。鎧との連携調整もやってもらって安定性は格段に良くなってる。安心して決戦に臨めるよ」
モリードはユウトの言葉に満足げに頷いた。
食事を終え、落ち着いたころ仮工房の入口を二人組がくぐってくる。
「失礼します。ここはモリードさんの工房で間違いありませんか?」
二重になった入口の二つ目から声がかけられた。
「あ、ラーラか」
「はっはい。モリードですっ」
モリードは緊張を隠せない固い声で慌てて返事を返す。その声に答えたように入口の垂れ幕をノエンが持ち上げ、ラーラが入ってきた。
「こんばんわ。ユウトもここにいたのね。ラトムは本当に役に立ってくれたわ」
「(無茶苦茶こき使われたっス・・・)」
ラトムは声に出さずにユウトにぼそりと愚痴をこぼす。
「それはよかった」
「本当よ。できるならずっと一緒にいて欲しいくらい」
「(ひぇっ)」
ラトムの声にならない動揺がユウトには聞こえた。
「残念だけど、ラトムは大事な仲間だからな。手放せないよ」
「あら残念」
ユウトの返答を聞いてラトムはふうとユウトの肩の上でぴょんぴょんと小さく二回跳ねて緊張した身体の力を抜く。そんなラトムと反対にモリードは肩をがちがちにこわばらせて立ち上がり向かってくるラーラを待ち構えていた。
「モリード、進捗を教えて」
ラーラはモリードの正面で立ち止まり温和な笑顔で尋ねる。
「ど、どうぞ。あちらに」
強張った声と動作でモリードは安置された魔大剣の方へとラーラを案内してユウト達から離れていった。
「なんでモリードはあんなに緊張しているんだ。魔大剣は十分に仕上がっていただろ?」
ユウトはモリードが精いっぱい魔大剣の説明をラーラに向かって行っているのを見ながら不思議そうにつぶやく。
「モリードさんに渡した資金はほぼ全て使い切っていたましたから、その経緯と成果の説明で緊張しているんでしょう」
ユウトの疑問に答えてくれたのはラーラについていかずにユウト達のそばに立つノエンだった。
ユウトは思わずノエンを見上げる。初めてノエンの声を聞いた気がした。
「なるほど。結構な額だったし、多少は後ろめたさがあるのかもしれない、か」
ノエンを見上げながらユウトはにこやかに言葉を返す。よかったら座ってくれとデイタスが続けるとノエンは素直に椅子に腰かけ、さっそく話を切り出した。
「ユウトさん、実はお願いがあるのです。明日、僕も中央の警護として参戦させてもらえませんか?」
「えっ、オレとしてはありがたい・・・けど、中央で何を守るのか知ってるのか?」
唐突な申し出にユウトは驚く。
「ハイゴブリン達ということはもちろん承知しています」
躊躇なく答えるノエンにユウトは一瞬考え込んで口を開いた。
「ギルドも騎士団も護衛対象の詳細について知る者は少ないから人員は少ない。正直ありがたいけど、どうして?その理由を知っておきたい」
ユウトは初めてノエンと言葉を交わしている現状を不思議に感じている。いつもラーラのそばに寄り添い、その身を守る寡黙な護衛の印象しかなかっためだった。
「余計なおせっかいだと思うがラーラ殿の護衛はいいのか?」
一緒に話を聞くデイタスがユウトに続いて質問を重ねる。
「姉は明日、工房長の傍で事の始終を見届けるのでひとまず安心できます。そして参戦させてもらい理由ですが・・・ディゼル様と共に戦う機会が欲しいというよこしまなものです」
「ディゼルと知り合いなのか?」
ユウトにとって全く関連づかなかった名前に呆気にとられた。
「ええ、まぁ。申し訳ありませんが、今は詳しくは話せません。姉との合意が必要ですし、この内容についても口外しないでもらえば助かります」
ノエンの表情が強張っていることがユウトには見て取れる。
「ああ、わかった。戦力は一人でも多い方がいい。ノエンの実力はわからないけど、その役割を全力で臨んでくれるのなら不満はないよ。よろしくお願いする。ラーラとの合意もあるんでしょ?」
「ありがとうございます。姉の許可は取っています。足手まといにはなりません」
そう答えてようやくノエンの緊張は解かれ、うっすらと笑顔が垣間見えた。
「ふーっ。もう腹いっぱいだ」
一番早く食べ終わったユウトが満足げに口を開く。
「これは食いごたえがあった!ずいぶんと奮発したもんんだ。どの素材もかなり新鮮だったぞ」
最後の一口を頬張り、飲み込んだデイタスが嬉しそうに言った。
「確かにこれまでも普通に新しい食材だったけど今日は特別豪勢だったな。食事場の雰囲気はどうだった?やっぱり盛り上がってたのか?」
「いや、そうでもなかった。静かなもんでな。これまでの賑やかな様子はない」
「そっか。もう明日が本番だからだろうな・・・」
そう言いながらユウトは思いだす。鎧の最終調整を済ませ、モリードの仮設工房テントに戻ってくる間、野営基地の張り詰めた緊張感をひしひしと感じていた。
「デイタス、明日はハイゴブリン達の護衛をよろしく頼む」
「うむ、任せておけ。久々の戦場、武人としては胸が高鳴るものがある。必ず、役目を果たそう」
デイタスは高揚としつつ、覚悟の定まった頼もしい笑い声とともに答える。仮工房の隅にはデイタス用に用意され、ユウトが魔力を補充した魔術武器の大剣とデイタス自前の鎧が並べられていた。
そうしてユウトとデイタスが話している間にようやくモリードが食べ終わり、湯気立つお茶をぐいと飲んで一息つく。
「僕は明日までもうひと踏ん張りだな。他の部署の手伝いに行ってくるよ。もうこれ以上、大魔剣の調整がしようがないのは残念だけど」
「助かったよモリード。大魔剣は十分に仕上がってる。鎧との連携調整もやってもらって安定性は格段に良くなってる。安心して決戦に臨めるよ」
モリードはユウトの言葉に満足げに頷いた。
食事を終え、落ち着いたころ仮工房の入口を二人組がくぐってくる。
「失礼します。ここはモリードさんの工房で間違いありませんか?」
二重になった入口の二つ目から声がかけられた。
「あ、ラーラか」
「はっはい。モリードですっ」
モリードは緊張を隠せない固い声で慌てて返事を返す。その声に答えたように入口の垂れ幕をノエンが持ち上げ、ラーラが入ってきた。
「こんばんわ。ユウトもここにいたのね。ラトムは本当に役に立ってくれたわ」
「(無茶苦茶こき使われたっス・・・)」
ラトムは声に出さずにユウトにぼそりと愚痴をこぼす。
「それはよかった」
「本当よ。できるならずっと一緒にいて欲しいくらい」
「(ひぇっ)」
ラトムの声にならない動揺がユウトには聞こえた。
「残念だけど、ラトムは大事な仲間だからな。手放せないよ」
「あら残念」
ユウトの返答を聞いてラトムはふうとユウトの肩の上でぴょんぴょんと小さく二回跳ねて緊張した身体の力を抜く。そんなラトムと反対にモリードは肩をがちがちにこわばらせて立ち上がり向かってくるラーラを待ち構えていた。
「モリード、進捗を教えて」
ラーラはモリードの正面で立ち止まり温和な笑顔で尋ねる。
「ど、どうぞ。あちらに」
強張った声と動作でモリードは安置された魔大剣の方へとラーラを案内してユウト達から離れていった。
「なんでモリードはあんなに緊張しているんだ。魔大剣は十分に仕上がっていただろ?」
ユウトはモリードが精いっぱい魔大剣の説明をラーラに向かって行っているのを見ながら不思議そうにつぶやく。
「モリードさんに渡した資金はほぼ全て使い切っていたましたから、その経緯と成果の説明で緊張しているんでしょう」
ユウトの疑問に答えてくれたのはラーラについていかずにユウト達のそばに立つノエンだった。
ユウトは思わずノエンを見上げる。初めてノエンの声を聞いた気がした。
「なるほど。結構な額だったし、多少は後ろめたさがあるのかもしれない、か」
ノエンを見上げながらユウトはにこやかに言葉を返す。よかったら座ってくれとデイタスが続けるとノエンは素直に椅子に腰かけ、さっそく話を切り出した。
「ユウトさん、実はお願いがあるのです。明日、僕も中央の警護として参戦させてもらえませんか?」
「えっ、オレとしてはありがたい・・・けど、中央で何を守るのか知ってるのか?」
唐突な申し出にユウトは驚く。
「ハイゴブリン達ということはもちろん承知しています」
躊躇なく答えるノエンにユウトは一瞬考え込んで口を開いた。
「ギルドも騎士団も護衛対象の詳細について知る者は少ないから人員は少ない。正直ありがたいけど、どうして?その理由を知っておきたい」
ユウトは初めてノエンと言葉を交わしている現状を不思議に感じている。いつもラーラのそばに寄り添い、その身を守る寡黙な護衛の印象しかなかっためだった。
「余計なおせっかいだと思うがラーラ殿の護衛はいいのか?」
一緒に話を聞くデイタスがユウトに続いて質問を重ねる。
「姉は明日、工房長の傍で事の始終を見届けるのでひとまず安心できます。そして参戦させてもらい理由ですが・・・ディゼル様と共に戦う機会が欲しいというよこしまなものです」
「ディゼルと知り合いなのか?」
ユウトにとって全く関連づかなかった名前に呆気にとられた。
「ええ、まぁ。申し訳ありませんが、今は詳しくは話せません。姉との合意が必要ですし、この内容についても口外しないでもらえば助かります」
ノエンの表情が強張っていることがユウトには見て取れる。
「ああ、わかった。戦力は一人でも多い方がいい。ノエンの実力はわからないけど、その役割を全力で臨んでくれるのなら不満はないよ。よろしくお願いする。ラーラとの合意もあるんでしょ?」
「ありがとうございます。姉の許可は取っています。足手まといにはなりません」
そう答えてようやくノエンの緊張は解かれ、うっすらと笑顔が垣間見えた。
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