ゴブリンロード

水鳥天

第142話 魔物

「なるほど・・・ユウトはどのくらい魔物について知っているだろうか?」

 ユウトの質問に対してヨーレンは唐突に質問で返す。

「あっ、確かによく知らない。一般常識もあるかどうか怪しい」
「安心して、それが普通だよ。質問に答える前に前提として私の知っている魔物の知識を伝えておこう」

 ユウトは頷き、ヨーレンは落ち着いた声で説明を始める。

「魔物とそれ以外を分けるのに最もわかりやすい違いは核があるかどうかなんだ」
「と、いうことはオレに核があるのか?」
「もちろんだ」

 先ほどまで戦った魔獣に見た核が今の身体にもあるということにユウトは声を上げずにおどろいた。

「ただ魔物と言ってもその区分けの中でさまざまに分類される。高度な知能、意識を持つものもいれば意思がなく特定の行動を行うだけのモノもいる。
 例えば魔女の館にいるジェスやロードもそれに当てはまる。この二人は高い知能に知識もある。私よりずっとね。
 ただ、そんな魔物はとても稀だ。大半は動物と変わらない。数は少ないけど野性として生きる魔物もそれなりにいるんだ。ネコテンなんかがそうだね」

 ユウトは商人のラーラやギルドのメルがクロネコテンの毛について興味を持っていたことを思い出す。交易品として魔物が取り扱われるほどに日常生活に浸透しているということなのだと考えた。

「そして、もっとも厄介なのが人に危害を加える魔物だ」

 ヨーレンの言葉に重さが現れる。

「それらの魔物は特別強力ななにかしらの能力を持ち、特定の行動、破壊活動を行う。代表的なのは非常に攻撃性が強い魔獣だと思う。とても稀な例だけど大橋砦でユウトが戦った魔鳥もそうだ。
 カーレンが所属している調査騎士団はそう言った魔物の調査をしたり居住地域に近づいた魔物を追い払ったり討伐を行っている。対魔物に秀でた部隊だ。
 でも・・・もっとも人々に影響を与えた魔物はゴブリンだったわけなんだけど」

 ヨーレンは一度視線を外してから力を抜いてユウトへ向き直る。

「概ね魔物というのはこの三つに分けられると私は考えている。ただ一般的には魔物と会話、意思疎通を行うことはとても困難だからジェスのような存在は認知されていない。だからラトムのように言葉を発する魔物はかなり驚かれたけど、言葉を復唱するだけの鳥と思っている人は多いと思う」

 ユウトは高い位置で滞空しながら周辺を照らし続けるラトムを見上げた。

「それでやっと質問のセブルの件だ。ユウトが初めて師匠と会って館の中で話をしている時、セブルとラトムは中から追い出されてきた。そのときジェスとのやり取りを遠巻きに見ていてセブルには知性があると確信していたんだ。だから指輪を外してセブルの言葉を聞いてもそれほど驚かなかった、というわけだ」

 ユウトはしばらく黙って考える。自身の思い過ごしだったのだろうかと。セブル自身の御願をユウトにすることは初めてではなかっただろうかと思いだす。慌ただしくなった決戦への準備にセブルに何か変化があったのではないかという考えがよぎった。

「考えすぎても答えはでないぞ。聞けば返してくれるんだ。目を覚ました時に直接尋ねればいいだけだろう」

 突然の声にユウトは顔を上げて聞こえてきた方向を見る。そこにはマレイが歩み寄ってきていた。

「聞いていたのか?」

 ユウトは理由のわからない恥ずかしさから思わず尋ねてしまう。

「私は耳がいいんだ。それに魔物の声はよく透るしな。それで話は終わったのか?」
「え、ええ。終わっています」

 ヨーレンが気圧されながら道を空けるように後ずさりながら返事を返した。

「そうか。ユウト、まずはご苦労だった。怪我はないな?」

 マレイは大股で歩み寄りユウトに相対する。

「切り傷、擦り傷程度ですんだ。問題ない」
「それは結構だ。君に贈り物がある」
「贈り物?」

 マレイから予想もできない言葉が出てきたことにユウトは怪訝な顔になる。

「鎧だよ。それも大工房が特注でこしらえたものだ。本来、君用ではないから寸法を合わせる必要がある。明日にも基地の工場に顔をだしてくれ。
 それでヨーレン」

 ユウトの返事も聞かずにマレイはヨーレンへ話を振った。

「はいっ」
「私が乗ってきた馬車が来ている。まとめて戻るから準備をさせろ。馬車はあれだ」

 そう言ってマレイは停めてある馬車を指さす。ユウトとヨーレンが馬車を見た時にはすでにマレイは歩きだしていた。

「マレイ!その鎧の送り主って誰なんだ?」

 ユウトは咄嗟に遠ざかっていくマレイの後姿に声を上げて質問する。マレイは歩きながら半身になってユウトを見て答えた。

「ガラルドだっ!」

 それだけ答えてすぐに後姿に戻る。その答えにユウトとヨーレンは目を見開いて驚いていた。

「・・・意識がもどったのか」

 ヨーレンがぽつりとつぶやく。ユウトはその事実に複雑な思いも抱いた。

 安心、喜び、不安と重なっていくがそれでも助かったということにほっとする安堵の気持ちが最も大きい。割り切ったと思っていてもどこか気になる小さな棘がほろりと抜け落ちるような気がしていた。
 

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