ゴブリンロード
第135話 引返
セブルの音にならない声。空気の震えよりも速く流れる意思の波は巨石の上で語らうユウトを飲み込んで過ぎ去っていった。
ユウトは確かにセブルの声を聴く。カーレンとの会話も構わず立ち上がると門の方を凝視した。
「カーレン、すまないけど行くよ」
そう言ってユウトは脚を前に出そうとしてカーレンに腕を掴まれる。予想外のことにユウトはカーレンに振り向いた。
「セブルですよね。意味は伝わりませんでしたけど何かあったことはわかります。
私も・・・行きます」
そう言ったカーレンの握る手にぐっと力がこもるのをユウトは感じ取る。ユウトは心を決めた。
「わかった。でも急ぎたい。だからちょっと強引だけど我慢してもらうよ」
素早くカーレンを横向きに抱きかかえあげると数歩進んで巨石の縁でしゃがみ込む。
「口を閉じていてくれ。今から跳ぶ」
そう言いながらユウトは両足の裏に魔力を集中させ圧力を高め始めた。
間もなくバンという破裂音をと共に巨石の側面を蹴りだすようにユウトは低く遠く跳び出す。そして長大な歩幅で草原の地面をえぐり飛ばしながら一直線でセブルの声の方へと駆け抜けた。
間もなく街道に設けられた門が見え、ユウトは最後の一歩で高く飛び上がる。ユウトに抱きかかえられているカーレンはぎゅっと目も口も手も閉じで高速の移動に耐えていた。
飛び上がった頂点でユウトは下を見下ろす。そこには一人の人物を数人が武器を持って取り囲んでいた。取り囲まれた男の傍らにはクロネコテンの姿をしたセブルを見つける。ユウトは男と構えられた武器との間に割り込むように着地した。
ユウトはフードをかぶり忘れたままの姿で武器を構えた門番たちにぐるりと鋭く眼光を飛ばす。ユウトの姿もさることながら突き刺さんばかりのユウトの視線に門番たちはその全員がたじろいで数歩あとずさった。
抱きかかえていたカーレンを下ろすとユウトはすぐにセブルの方へ駆け寄る。立ち上がったカーレンはあたりを見回しすぐさま距離を取った門番たちに向かい合った。
「わ、私は調査騎士団の者です。この場は私が責任を持ちますので今は武器を収めてください」
そう言ってカーレンは自身のマントをめくり、甲冑に施された紋章を見せる。門番たちは紋章を見るとすぐさま武器を下ろした。
ユウトはわき目も振らずセブルの元に駆け寄りしゃがみ込む。
「怪我はないか?何があった?」
「レナが一人で戦ってます!早く助けに行かないとっ!」
すがるようなセブルの言葉をユウトは真剣に聞き入る。そして腰の小袋から丸薬を取り出した。
「セブル、これで今すぐオレを連れて行ってくれ。全速力だ」
冷静にユウトは指示し、セブルは躊躇することなく丸薬を丸のみにする。脈打つセブルから距離を取るように立ち上がったユウトにカーレンが声を掛けた。
「ユウトさん。状況は御者の方から聞きました。今すぐ向かうのならどうか私も。これでも騎士団付きの魔導士。魔物との戦闘経験もあります。足手まといにはなりません」
ユウトはカーレンの申し出に対して一瞬の内に熟考する。この状況で足しになる戦力なら誰でも手犯して欲しかった。しかしヨーレンの妹という事実が引っかかる。それでも先ほどの巨石の上で手を握られた強い感触にカーレンの覚悟を見た気がした。
「一緒に来てくれ」
ためらいに後ろ髪をひかれながらもユウトは決断する。セブルがその間に姿を大型の獣へ変え終えた。
「セブル。カーレンも一緒に連れていく。行くぞ」
ユウトの声を聴いてセブルは石畳をなめるように素早く動いてユウトとカーレンにまとわりつき背に乗せる。そして間を置かず沈みかけた夕日の光を受けて駆け出していった。
ユウト達を呆然と見送るケランと門番たちの後方から人が集まってくる。その中にはマレイとヨーレンの姿があった。
「もうユウトは行ってしまったのか」
「はぁ、はぁ・・・そのようですね。ユウトを呼ぶセブルの声はただ事じゃありませんでした・・・はぁ」
息を整えながら門の前で合流したマレイとヨーレンは言葉を交わす。二人を見つけたケランはすぐさま駆け寄るとすでに何度目にもなる知らせを繰り返す。
「工房長、ヨーレンさん!街道の先でレナさんが魔物と戦っています。今すぐ救援隊を!ユウトと調査騎士団の方が先に向かいました」
「騎士団?!カーレンか?」
ヨーレンはケランの言葉から不安の覗く声色で聞き返す。
「え、ええ。確かユウトがそう呼んでいたと思います。自身から連れて行って欲しいと言って」
「・・・そうですか」
冷静さを取り戻した声でヨーレンはケランに答えた。
ヨーレンとケランが会話をしている内にさらに周辺の慌ただしさは増していく。マレイがその小柄な体格に似合わない大声で指示を出し、人が一気に統制を持って動き出していた。
救援の先陣を切ったユウト達の後詰の準備が着々と進む。その中にはレイノスを含む小鬼殲滅ギルドの面々もいた。
「みんな・・・どうか無事でいてくれ」
遠く夕やみの続く街道の先をヨーレンは睨みつけながらつぶやく。その頭上を真っすぐに一筋の赤い線が走った。
ユウトは確かにセブルの声を聴く。カーレンとの会話も構わず立ち上がると門の方を凝視した。
「カーレン、すまないけど行くよ」
そう言ってユウトは脚を前に出そうとしてカーレンに腕を掴まれる。予想外のことにユウトはカーレンに振り向いた。
「セブルですよね。意味は伝わりませんでしたけど何かあったことはわかります。
私も・・・行きます」
そう言ったカーレンの握る手にぐっと力がこもるのをユウトは感じ取る。ユウトは心を決めた。
「わかった。でも急ぎたい。だからちょっと強引だけど我慢してもらうよ」
素早くカーレンを横向きに抱きかかえあげると数歩進んで巨石の縁でしゃがみ込む。
「口を閉じていてくれ。今から跳ぶ」
そう言いながらユウトは両足の裏に魔力を集中させ圧力を高め始めた。
間もなくバンという破裂音をと共に巨石の側面を蹴りだすようにユウトは低く遠く跳び出す。そして長大な歩幅で草原の地面をえぐり飛ばしながら一直線でセブルの声の方へと駆け抜けた。
間もなく街道に設けられた門が見え、ユウトは最後の一歩で高く飛び上がる。ユウトに抱きかかえられているカーレンはぎゅっと目も口も手も閉じで高速の移動に耐えていた。
飛び上がった頂点でユウトは下を見下ろす。そこには一人の人物を数人が武器を持って取り囲んでいた。取り囲まれた男の傍らにはクロネコテンの姿をしたセブルを見つける。ユウトは男と構えられた武器との間に割り込むように着地した。
ユウトはフードをかぶり忘れたままの姿で武器を構えた門番たちにぐるりと鋭く眼光を飛ばす。ユウトの姿もさることながら突き刺さんばかりのユウトの視線に門番たちはその全員がたじろいで数歩あとずさった。
抱きかかえていたカーレンを下ろすとユウトはすぐにセブルの方へ駆け寄る。立ち上がったカーレンはあたりを見回しすぐさま距離を取った門番たちに向かい合った。
「わ、私は調査騎士団の者です。この場は私が責任を持ちますので今は武器を収めてください」
そう言ってカーレンは自身のマントをめくり、甲冑に施された紋章を見せる。門番たちは紋章を見るとすぐさま武器を下ろした。
ユウトはわき目も振らずセブルの元に駆け寄りしゃがみ込む。
「怪我はないか?何があった?」
「レナが一人で戦ってます!早く助けに行かないとっ!」
すがるようなセブルの言葉をユウトは真剣に聞き入る。そして腰の小袋から丸薬を取り出した。
「セブル、これで今すぐオレを連れて行ってくれ。全速力だ」
冷静にユウトは指示し、セブルは躊躇することなく丸薬を丸のみにする。脈打つセブルから距離を取るように立ち上がったユウトにカーレンが声を掛けた。
「ユウトさん。状況は御者の方から聞きました。今すぐ向かうのならどうか私も。これでも騎士団付きの魔導士。魔物との戦闘経験もあります。足手まといにはなりません」
ユウトはカーレンの申し出に対して一瞬の内に熟考する。この状況で足しになる戦力なら誰でも手犯して欲しかった。しかしヨーレンの妹という事実が引っかかる。それでも先ほどの巨石の上で手を握られた強い感触にカーレンの覚悟を見た気がした。
「一緒に来てくれ」
ためらいに後ろ髪をひかれながらもユウトは決断する。セブルがその間に姿を大型の獣へ変え終えた。
「セブル。カーレンも一緒に連れていく。行くぞ」
ユウトの声を聴いてセブルは石畳をなめるように素早く動いてユウトとカーレンにまとわりつき背に乗せる。そして間を置かず沈みかけた夕日の光を受けて駆け出していった。
ユウト達を呆然と見送るケランと門番たちの後方から人が集まってくる。その中にはマレイとヨーレンの姿があった。
「もうユウトは行ってしまったのか」
「はぁ、はぁ・・・そのようですね。ユウトを呼ぶセブルの声はただ事じゃありませんでした・・・はぁ」
息を整えながら門の前で合流したマレイとヨーレンは言葉を交わす。二人を見つけたケランはすぐさま駆け寄るとすでに何度目にもなる知らせを繰り返す。
「工房長、ヨーレンさん!街道の先でレナさんが魔物と戦っています。今すぐ救援隊を!ユウトと調査騎士団の方が先に向かいました」
「騎士団?!カーレンか?」
ヨーレンはケランの言葉から不安の覗く声色で聞き返す。
「え、ええ。確かユウトがそう呼んでいたと思います。自身から連れて行って欲しいと言って」
「・・・そうですか」
冷静さを取り戻した声でヨーレンはケランに答えた。
ヨーレンとケランが会話をしている内にさらに周辺の慌ただしさは増していく。マレイがその小柄な体格に似合わない大声で指示を出し、人が一気に統制を持って動き出していた。
救援の先陣を切ったユウト達の後詰の準備が着々と進む。その中にはレイノスを含む小鬼殲滅ギルドの面々もいた。
「みんな・・・どうか無事でいてくれ」
遠く夕やみの続く街道の先をヨーレンは睨みつけながらつぶやく。その頭上を真っすぐに一筋の赤い線が走った。
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