ゴブリンロード

水鳥天

第123話 激励

 ユウトはセブルが突然カーレンに向かって話しかけたことに驚く。カーレンの反応から完璧に言葉が通じているわけではないことはわかるが全く通じていないわけでもない様子だった。

「セブルっていうんだ。カーレンの今の気持ちがわかるって言ってる。セブル自身も蚊帳の外に出されてしまう経験があるからって」

 ユウトはかいつまんでセブルの言っていた内容をカーレンに伝える。その内容にユウト自身も思い当たる節があり、セブルに対して申し訳ない気持ちになった。

「ななぅ。うなぉな、なーうなぅなう(カーレンのがんばりは誰かが必ず見ているよ。今は悔しいかもしれないけれど、いつか必ずやってくる一瞬がある。その一瞬の時のために今をがんばろうよ)」

 セブルの語った内容をユウトはできるだけ正確に通訳する。

「なうなぁなう(つらいことがあったならボクの毛並みを触らせてあげるから元気出して)」

 そう言ってセブルはヴァルの頭の上でその毛を細く膨らませて樽のように毛が膨らんで丸くなった。

 カーレンはすんと鼻から息を吸ってしゃがみ込み片手でセブルを撫でると固かった表情がふわりと明るくなる。

「ありがとう、セブル」

 優しく語り掛けるカーレンにセブルも鳴いて答えた。

 セブルとカーレンの様子にユウトも胸を撫でおろす。するとそれまでユウトのフードの中に隠れていたラトムがぱっと飛び立ちカーレンの腕にふわりと舞い降りた。

「カーレン、ガンバッテル、オイラ、モ、オウエン、スル」
「誰カニ頼ッテモ、イイ」

 ラトムとヴァルも続けてカーレンに声を掛ける。カーレンは一編に魔物達に励まされ、その顔は驚きと恥ずかしさ、感謝が入り混じった複雑な表情になっていた。

「カーレン。オレの知る限りのことを教えるよ。カーレンにも手伝ってもらうことになると思うしな」
「えっ、はい!お願いします」

 ユウトに声を掛けられカーレンはユウトに慌てて目を移しセブルから手を放して立ち上がる。手が離れたのを確認してセブルは元の姿になってユウトに飛び移ってフードに戻り、ラトムもユウトの肩にとまった。

 それからカーレンはユウトの横に並んで歩き始め、ユウトは役場での会合の内容や決闘の話、自身の立場を説明する。時折カーレンからの質問にも答えつつ工房に向かって緩やかに歩き続けた。

 カーレンとじっくり話してみて、ユウトにはカーレンが自身の子供っぽさをひた隠しにして背伸びしてきたのだろうと感じる。一通り説明も終わってユウトは思い切ってヨーレンのことを尋ねてみた。

「なぁカーレン。オレはヨーレンと一緒に行動することが多かったんだけど未だにヨーレンのことをよく知らない。最初は反対していたゴブリンの計略にオレが参加することについても、ちゃんと決心を語ると了承して自身を顧みず手伝ってくれてる。それがどうも妙に感じられるんだよな。
 カーレンから見てヨーレンはどんな兄だったんだ?昔からそんな感じだったのか?」

 ユウトもカーレンも正面を見ながら歩みを進めていてお互いに顔は見えない。カーレンはユウトの質問に少し間をおいて話始めた。

「私から見てヨーレン兄さんは信念の人です。私よりずっと魔導の才能を持っていながら魔術に転向しました。その理由をちゃんと説明してくれたことはなかったけれど、魔導の家系から外れる大変さはわかるので、すごく強い思いがあったんだろうと感じます。その表れに、かなりの危険性をはらんでいる白灰の魔女の元へ弟子入りしてしまうほどですから。
 もしかしたら、ユウトさんが人という立場を捨ててゴブリンとして生きていくことへの決断と行動に自身と重なるものがあっただろうし、その意志の強さを確かめたかったんじゃないでしょうか」

 カーレンはとても冷静で分析するように自身の考えを述べる。その内容にユウトは違和感は感じなかった。そしてやはりジヴァに弟子入りしようとするのは異常な行動であることを再確認する。カーレンはさらに言葉を続けた。

「兄さんがそういった変化に反応するのは自身が家系から抜けたことで家名の跡継ぎが私になってしまったことへの後ろめたさがあるからなのかもしれません。
 私は納得してるし、こうして騎士団にも入れたのも家名を継げたからこそなので不満はないんです。けど兄さんはそうは思っていないみたいで腫れ物を扱うような態度はさみしいですね。
 まぁ私も兄さんのその態度の反動からか顔を合わせると私の方もつい口うるさくなってしまうんですけど」

 言葉の最後は恥ずかしそうに笑いながらカーレンは語る。ちょうどその時役場の方から正午を合図する鐘の音が数回鳴り響いた。

 ユウト達が歩く道には賑わいはなく閑静とした街並みが続いている。建ち並ぶ建物からは昼時の食事のおいしそうな匂いがユウトには感じられた。

「答えてくれてありがとうカーレン。話しにくいこともあったと思うけどヨーレンのことが知られてよかった。
 オレはこの姿になってからヨーレンには助けてもらってばかりでね。こうして一度飛ばされた腕もヨーレンの技術でつなぎ押してもらえたんだ」

 そう言いながらユウトは包帯で巻かれた吊り下げている左腕を少し前に出す。

「そうだったんですかっ!ヨー兄さんもしっかり目標に近づいているみたいでよかった」

 身体を傾けのぞき込むカーレンの表情はユウトがそれまで見てきたどの表情より一番うれしそうに見えた。

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