ゴブリンロード
第116話 契約
ユウトはラーラ、ノエンの二人を視界に入れるように向き直る。
「オレ達は二人の商会と契約するよ」
ユウトの言葉を聞いてラーラも口だけの笑顔を作って返す。その笑顔には緊張と高揚が入り混じったものにユウトには見えた。
「わかったわ。契約のための書類はすぐに用意する。この工房の責任者はモリードでよかったかしら?」
「う、うん。そうだよ」
モリードは緊張を隠せないように見えるが、声には強い意志が感じられた。
「署名はあなたにお願いするからよろしくね。そして・・・」
ラーラはノエンに目配せする。するとノエンは腰の鞄から薄い箱を取り出した。箱は木製ではあるものの四隅には金属で補強され頑丈そうに見える。その箱をラーラは受け取ると留め具を外してユウト達に開けて中身を見せた。
そこには鈍い金色の長方形した板が収められている。その形は大橋砦でラーラに渡された金属製の板と似ており、その表面には字が彫り込まれていた。
「これは私たちがこの大工房にある中央役場に預けているお金よ。これをあなた達に預ける。好きなだけ使うといいわ。出し惜しみはしないで」
「ええっ!」
モリードは驚きの声を上げる。モリードの驚きようとラーラの説明の意味からユウトは察するに預金通帳かキャッシュカードに近いものなのだろうと考えた。
「私たちがいかに本気かという証明と思って」
「うん。ありがとう。有効に活用させてもらう」
ユウトはラーラから木箱を受け取るとそのままモリードに渡す。モリードは持った木箱をわなわなと凝視していた。
「それとユウト、そのポートネス商会の紹介板を返してもらってもいいかしら?」
「え?ああ、どうぞ」
ユウトは持ちっぱなしになっていた金属板をラーラに返す。ラーラはその金属板を少し眺めてから両端を手で持つとふん!と声が聞こえそうなくらい力一杯の力で金属板を曲げて見せた。
その場の全員が呆気にとられる。ラーラは息を切らして曲げた金属板をノエンに渡し、身に着けた鞄から新しい金属板を取りだしてユウトに差し出した。
「ハァ・・・ハァ・・・これ、新しい私たちの紹介板よ。これからどうぞ、御ひいきにね」
ラーラの様子にユウトは驚きながら黙って新しい紹介板を受け取る。相変わらず何が書かれているかはわからなかったが、どことなくポートネス商会の物より厚みが増して豪華になっているような気がした。
「さて、それではまずは工房長に報告をしておきましょう。誰か同行してくれないかしら」
息を整えたラーラは立ち上がってユウト達全員に声を掛ける。工房長という言葉を聞いた途端にモリードとデイタスはは目をそらした。
「僕は魔術大剣の調整にさっそく取り掛かって忙しいから無理かなぁ」
「私はさっそく資金の受け取りのための見積もりをしよう」
二人の言動から遠回しに工房長と会いたくない願望がユウトには見える。苦笑しながらユウトはラーラに答えた。
「オレが一緒に行くよ。マレイにも話は通しておかないといけないしな」
「ええ、そうね。とりあえず中央役場に向かいましょう」
ユウトとラーラ、ノエンはモリードとデイタスに軽く挨拶をして工房から出る。ヴァルも忘れず共に中央役場を目指して歩き始めた。
ユウトと別れたヨーレンは足早に歩みを進めている。その向かう先は中央役場だった。
「レイノス副隊長になんて伝えようか。ガラルド隊長とユウトの決闘の件は伝え方を間違うと大変なことになるだろうな。噂で知る前にどうにかしないと」
ぶつぶつとヨーレンは一人つぶやく。そうして歩き続け、中央役場に迫ったその時、中央役場の入口の反対にある馬車の乗り入れ口がいつもより少し騒がしいことに気づいた。ヨーレンは立ち止まりその方向に目をやる。そこにはゴブリン殲滅ギルドの面々が馬車から降りている最中だった。
「え?どうしてここに?まだ次回の遠征の予定組も何もできてないはず、報告だって・・・」
「ヨーレン!」
足を止めていたヨーレンに声を掛けられる人物がいた。その声のする方へ顔を向けると少し離れたところにレイノスが手を上げてその存在を主張していた。
そしてその隣はヨーレンにも見覚えがある人物がいる。調査騎士団のディゼルだった。二人はヨーレンの元へと近づいてくる。ヨーレンは思いがけない急な展開に対して焦りの表情を隠せないでいた。
「ちょうどよかったぞ、ヨーレン。今から工房の方へ呼びに行こうとしていたところだ。
こちらは調査騎士団のディゼルだ。ここに向かう際にたまたま出会ったんだ」
「ええ、大石橋での一件ではディゼルさんの活躍を見させてもらいました」
ヨーレンはにこやかな表情で答える。
「ディゼルでかまわないよ。できれば私もヨーレンと呼ばせて欲しい。大橋砦では話ができなくて残念だった。カーレンからとても優秀なのだと聞かされているよ」
「カーレンが私のことを!?・・・あっ、いえ申し訳ない。まさかカーレンが私の話題を誰かに対して話すとは思ってもいなかったものでつい取り乱してしまった」
ヨーレンは慌てふためいてしまった態度を急いで取り繕う。
「それでヨーレン。ガラルドは今どこにいる?」
レイノスの何気ない質問で驚いて少し緩んでいたヨーレンの表情は重いものになった。
「はい。ガラルド隊長のことについて重要なお話があります。これはディゼルが大工房に来た理由にも関係するはずです。お二人ともまずは一緒に工房長のところへ行きましょう。そこで今の状況について説明します」
腹をくくったようなヨーレンの雰囲気にレイノスとディゼルもすぐに何かを察して空気が張る。そして三人は連れだってすぐ前にある中央役場の入口をくぐった。
「オレ達は二人の商会と契約するよ」
ユウトの言葉を聞いてラーラも口だけの笑顔を作って返す。その笑顔には緊張と高揚が入り混じったものにユウトには見えた。
「わかったわ。契約のための書類はすぐに用意する。この工房の責任者はモリードでよかったかしら?」
「う、うん。そうだよ」
モリードは緊張を隠せないように見えるが、声には強い意志が感じられた。
「署名はあなたにお願いするからよろしくね。そして・・・」
ラーラはノエンに目配せする。するとノエンは腰の鞄から薄い箱を取り出した。箱は木製ではあるものの四隅には金属で補強され頑丈そうに見える。その箱をラーラは受け取ると留め具を外してユウト達に開けて中身を見せた。
そこには鈍い金色の長方形した板が収められている。その形は大橋砦でラーラに渡された金属製の板と似ており、その表面には字が彫り込まれていた。
「これは私たちがこの大工房にある中央役場に預けているお金よ。これをあなた達に預ける。好きなだけ使うといいわ。出し惜しみはしないで」
「ええっ!」
モリードは驚きの声を上げる。モリードの驚きようとラーラの説明の意味からユウトは察するに預金通帳かキャッシュカードに近いものなのだろうと考えた。
「私たちがいかに本気かという証明と思って」
「うん。ありがとう。有効に活用させてもらう」
ユウトはラーラから木箱を受け取るとそのままモリードに渡す。モリードは持った木箱をわなわなと凝視していた。
「それとユウト、そのポートネス商会の紹介板を返してもらってもいいかしら?」
「え?ああ、どうぞ」
ユウトは持ちっぱなしになっていた金属板をラーラに返す。ラーラはその金属板を少し眺めてから両端を手で持つとふん!と声が聞こえそうなくらい力一杯の力で金属板を曲げて見せた。
その場の全員が呆気にとられる。ラーラは息を切らして曲げた金属板をノエンに渡し、身に着けた鞄から新しい金属板を取りだしてユウトに差し出した。
「ハァ・・・ハァ・・・これ、新しい私たちの紹介板よ。これからどうぞ、御ひいきにね」
ラーラの様子にユウトは驚きながら黙って新しい紹介板を受け取る。相変わらず何が書かれているかはわからなかったが、どことなくポートネス商会の物より厚みが増して豪華になっているような気がした。
「さて、それではまずは工房長に報告をしておきましょう。誰か同行してくれないかしら」
息を整えたラーラは立ち上がってユウト達全員に声を掛ける。工房長という言葉を聞いた途端にモリードとデイタスはは目をそらした。
「僕は魔術大剣の調整にさっそく取り掛かって忙しいから無理かなぁ」
「私はさっそく資金の受け取りのための見積もりをしよう」
二人の言動から遠回しに工房長と会いたくない願望がユウトには見える。苦笑しながらユウトはラーラに答えた。
「オレが一緒に行くよ。マレイにも話は通しておかないといけないしな」
「ええ、そうね。とりあえず中央役場に向かいましょう」
ユウトとラーラ、ノエンはモリードとデイタスに軽く挨拶をして工房から出る。ヴァルも忘れず共に中央役場を目指して歩き始めた。
ユウトと別れたヨーレンは足早に歩みを進めている。その向かう先は中央役場だった。
「レイノス副隊長になんて伝えようか。ガラルド隊長とユウトの決闘の件は伝え方を間違うと大変なことになるだろうな。噂で知る前にどうにかしないと」
ぶつぶつとヨーレンは一人つぶやく。そうして歩き続け、中央役場に迫ったその時、中央役場の入口の反対にある馬車の乗り入れ口がいつもより少し騒がしいことに気づいた。ヨーレンは立ち止まりその方向に目をやる。そこにはゴブリン殲滅ギルドの面々が馬車から降りている最中だった。
「え?どうしてここに?まだ次回の遠征の予定組も何もできてないはず、報告だって・・・」
「ヨーレン!」
足を止めていたヨーレンに声を掛けられる人物がいた。その声のする方へ顔を向けると少し離れたところにレイノスが手を上げてその存在を主張していた。
そしてその隣はヨーレンにも見覚えがある人物がいる。調査騎士団のディゼルだった。二人はヨーレンの元へと近づいてくる。ヨーレンは思いがけない急な展開に対して焦りの表情を隠せないでいた。
「ちょうどよかったぞ、ヨーレン。今から工房の方へ呼びに行こうとしていたところだ。
こちらは調査騎士団のディゼルだ。ここに向かう際にたまたま出会ったんだ」
「ええ、大石橋での一件ではディゼルさんの活躍を見させてもらいました」
ヨーレンはにこやかな表情で答える。
「ディゼルでかまわないよ。できれば私もヨーレンと呼ばせて欲しい。大橋砦では話ができなくて残念だった。カーレンからとても優秀なのだと聞かされているよ」
「カーレンが私のことを!?・・・あっ、いえ申し訳ない。まさかカーレンが私の話題を誰かに対して話すとは思ってもいなかったものでつい取り乱してしまった」
ヨーレンは慌てふためいてしまった態度を急いで取り繕う。
「それでヨーレン。ガラルドは今どこにいる?」
レイノスの何気ない質問で驚いて少し緩んでいたヨーレンの表情は重いものになった。
「はい。ガラルド隊長のことについて重要なお話があります。これはディゼルが大工房に来た理由にも関係するはずです。お二人ともまずは一緒に工房長のところへ行きましょう。そこで今の状況について説明します」
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