ゴブリンロード

水鳥天

第115話 博打

 ユウトは一通りの説明を終えて一息つく。モリードは瞳をきょろきょろとさせ、話の内容を飲み込めていない様子だった。デイタスとラーラは真剣な表情で考えこんでいる。最初に声を上げたのはラーラだった。

「にわかに信じがたい点はあるけれど内容は理解したわ。ただ、なぜそれを私に伝える必要があったのかしら?二度ほどしか顔を合わせていない私にそんな重要なことを話してしまうのは危険を伴うと思うのだけれど」

 ラーラは疑いの目を持ってユウトに質問する。ユウトはラーラの視線を正面から受け止めて答えた。

「古いゴブリンを一掃する対価に新しいゴブリンを国民として受け入れさせるという目的。この話が漏れて周りに知れ渡ってしまうと作戦を成功させられなく危険はわかってる。でもその危険を冒しても支援を得られそうなのであればまずは話を聞いてもらおうと考えていた。それだけ今、とにかく急がないと間に合わないと感じている。
 もちろん人を選ばないわけじゃない。ラーラは大橋砦で唯一、自発的にオレに声を掛けてきた。ゴブリンのオレに対して先入観を持たず、冷静に話しができる人物だからこそ善人にせよ悪人にせよこの話しを理解してもらえるはずだと思った」

 ユウトはそう言いながら腰の鞄から大橋砦でラーラからもらった金属のプレートを取り出して見せる。

「この金属板も誰にだって渡しているわけじゃないだろ?」

 ごく自然体で語るユウトに対し、ラーラは少し考えて固い表情で口を開いた。

「わかったわ。それでユウトは私に何をして欲しい?」
「魔術大剣の開発に資金支援をお願いしたい」

 ユウトはラーラの質問に対してすぐに返答する。さらに言葉を続けた。

「この作戦でオレは劇的に大魔獣を倒しきり、強い印象を与えないといけない。オレが知る限りもっとも威力が高く、印象的な武器は今、開発中のこの魔術大剣だ。でもこの魔術大剣は実戦の使用にまだ耐えられない。それは扱っていてよくわかってる。そして短期間で完成度を引き上げるためには資金が必要なんだ」

 そこまで言い終わるとユウトはモリードとデイタスの方へ体を向ける。

「後追いになってしまってしまうけど二人にもお願いしたい。この魔術大剣を使わせて欲しい。そして安定性の引き上げとオレに大剣の指導を頼みたいんだ」

 投げかけられたモリードはそれまでの挙動不審が嘘のように落ち着いてにっとユウトへ笑顔で返す。その様子にユウトは驚くようにまばたきした。

「ユウトの言ってた作戦のことは僕には正直よくわからない。でもこの大剣の仕上げにちゃんとした資金援助がもらえるならどんな短期間でも喜んで挑ませてもらうよ」

 頼もしく語るモリードにデイタスも続く。

「劇的な大魔獣の討伐に大剣が使われたのなら誉れ高い栄誉だ。存在価値を見直されるいい機会となる。私も喜んで手伝おう」

 二人の返答にユウトは「二人ともありがとう」と笑顔で答える。そして三人は一人目を伏せて思案をしていたラーラに注目して答えを待った。

 緊張感が漂う工房内でラーラはしばらく間をおいてから三人を見て口を開く。
「弟のノエンと少し話してもいいかしら」

 そう言いながらラーラは後ろに控えていた男を手で指した。

「うん。大丈夫、待つよ」

 ユウトが返事をするとラーラはすっと立ち上がり後ろに控えていたノエンと部屋の隅に進んでユウト達に背を向ける。ユウトからは二人の話声は聞き取れないほど遠かった。

「ノエン。私はここで賭けに出ようと考えてる。でも・・・」
「ここからはもう引き返せない、ということだね」
「ええ。想定していたよりずっと状況は切迫しているわ。ただ見返りも大きい」
「俺もここが勝負の出所だと思う。やろう」

 ラーラとノエンはお互いに顔を見合わせると振り返り元の位置に戻る。ラーラの雰囲気がどこか変わったようにユウトには感じられた。

「提案があるわ」
「言ってくれ」
「この工房への資金提供をするにあたってポートネス商会ではなく私たちが新たに立ち上げるクエストラ商会とモリード工房の独占契約を結んでもらいたい」

 思いがけない条件にユウトは首をひねる。ラーラは言葉を続けた。

「この提案でユウト達の利点はこの戦いの思惑を秘密にできることよ。ポートネス商会と契約するには私の知っている情報は全て伝えなければならない。もちろん誤魔化すこともできるけど私はそんな危険を背負いたくない。
 だから私が嘘をつかず危険性を可能な限り下げる方法として私たちの立ち上げる商会と契約を結んでもらうの」

 ラーラの話を聞きながら今度はユウトが考えこむ。

「もちろんユウト達の不利益もある。資金はこれまでに私たちで蓄えてきたものだからポートネス商会と比べれば格段に落ちるわ。それに独占契約だからモリード工房で開発された技術の魔術具の取引は私たちの紹介を必ず通してもらう」

 考え込んでいたユウトはにやりと口をゆがませてラーラへ語り掛け始めた。

「その提案、ポートネス商会から見れば裏切りに近い。それでもオレたちに掛けてくれるのならオレは受けたいと思う。モリード、デイタス。どうだろう?」

 ユウトは二人に目線を向ける。二人は力強く頷いて返した。

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