ゴブリンロード
第111話 計略
「今、最も問題なのは魔獣だ。この国に送り込まれているゴブリンを狩るための魔獣は一体ずつであれば対処できないわけではない。身を隠す、各個撃破を行うことも可能だ。しかしごく最近、それまで個々で単独行動を行っていた魔獣たちがまるで号令が下ったかのように一か所に集まりだした」
「群れを組んだということか?」
ユウトは素直な疑問を投げかける。
「我もそう考えたが違った。魔獣たちはそれぞれ融合を重ね一体の巨大な魔獣になろうとしていた」
「巨大化をする意味があるのだろうか?ある程度の力を持っている魔獣であれば探索範囲を広げた方が効率的であると思うけれど」
ユウトに続いてヨーレンが尋ねた。
「我は普段、自身を探知されないようにするための魔術を使用している。それがガラルドに首を刎ねられた際に術が一定時間停止した。それで位置を知られたのだろう。正確な位置は掴めなくとも大体の場所さえわかったのだから強大な力でねじ伏せる、という考え方に方針転換したのかもしれん」
探知する、それを妨害する術式というものがどういう仕組みなのかはユウトにはわからない。ただロードの話しがそれまで引っかかっていた疑問の答えにつながった。
「もしかして、ロードが元の身体に首をつなげ直さなかったのってロード自身の死を偽装するためだったのか?」
不謹慎と思いつつも、ロードの行動の意図に気づくことができたことでユウトは若干の高揚感を得ている。
「そうだ。ギルドの目を誤魔化す意図もあったがな。しかしどれほど通用したかはわからない。あの大橋での魔鳥襲撃の一件は我を探していた可能性も拭いきれない」
ユウトに対して怒るでもなく悲しむでもない、全く感情の揺らぎを見せずロードは淡々と語った。
「その魔獣の集合体。仮の呼び名として大魔獣としよう。大魔獣は今、我が認知しているローゴブリンをすべて投入し操作することで誘導している。最終目的地はここからほど近い盆地の草原。可能な限り時間を稼いでいるが最大で二十日ほどだろうか。最後は我が探知妨害の術式を切っておびき寄せるつもりだ」
「盆地の草原とは星の大釜のことか」
ヨーレンがつぶやく。
「文字通りロードが最後のローゴブリンになるということなんだな・・・」
ヨーレンに続くようにユウトが目線を落としながら感想を語った。
「そしてその大釜の中心で我が魔術による攻撃を行う」
ロードの淡泊なものの言い方がユウトは気になる。何かを隠しているような気がした。
「ロードだけで?どういった魔術を使うつもりなんだ?どれほどの大魔獣への損害が期待できる?」
いぶかしんで疑う表情も隠さずユウトはロードに尋ねる。ロードは一瞬黙ったのちそれまでと変わらずユウトに答え始めた。
「肉体を分解した生み出した魔力を圧縮したのち熱変換する。一定範囲を焼きつくすことで打撃を与える術式だ。術式はジヴァとの取引で手に入れた」
「発動精度はわしが保証するよ。でもねぇ」
ジヴァは含みのある言い方をする。
「大魔獣に対して確実な損害を与えることはできる。しかし、この術式では倒しきれないことが予想させる。
そこで、だ。我の最後の術を発動後、そこからユウトに頼む。お前の手による明確な一撃によって大魔獣を討伐してもらいたい」
それまで淡々としてたいたロードの口ぶりに若干の熱をユウトは感じ取った。
「あくまでオレ一人で倒す必要があるんだな」
ユウトは念を押すように身体を前のめりにさせロードを見据えて確認する。
「そうだ。この決戦でお前には英雄になってもらう。
殲滅間際に追い込まれたローゴブリン達が最後のあがきに呼び出した大魔獣を命を懸けて打倒し、この国の窮地を救ったハイゴブリンの英雄。その信頼を持ってこの国においての生存権を勝ち取る。これが我の考えた計略だ」
ユウトは椅子の背もたれに身体をあずけてふうっと短く息を吐いた。
目線を落としてロードの思惑と筋書きを検証する。横で聞いていたヨーレンが我慢できない様子でロードに感想を投げかけた。
「危うい。まるで綱渡りだ。
ギルドや中央の騎士団を投入すれば大魔獣を倒しきることは可能だろう。しかしユウトにとどめを刺させて英雄としての印象を植え付けるというのは条件が複雑すぎる。印象なんて言うものを操作できるのか?」
ヨーレンの言いようは半ば怒りのような感情も合わさっているようにユウトには感じらる。
「できる」
ロードの返答は力強かった。
「印象を決定づけるには第三者による評価が必要だ。ここで重要なのはゴブリン殲滅ギルドと調査騎士団の二つ。ギルドは中央と民に対する影響力、調査騎士団は王家に対する影響力をそれぞれ持っていると分析した。
どちらも最前線で戦う実働部隊であり、その発表に信頼性もある。この二つの組織どちらとも交渉を締結できればユウトを英雄と認識させることができる」
「ではギルドと騎士団に嘘をついてユウトの手柄であると発表しろということなのか?」
ヨーレンは語気を強めて反論する。
「無論、偽りの発表を行わせることなど不可能だ。
大魔獣が生まれた原因、その誘導とお膳立てにゴブリンが関係していることは真実だ。だが必要なのは大魔獣をユウトが倒したという事実だけでいい。知らなければ嘘をついたことにはならない。
大魔獣への対応はローゴブリンとハイゴブリンたるユウトのゴブリン勢力のみで行うという前提であれば両組織は条件を呑むだろう。被害が出る可能性は低くなる。そしてこの決戦が成功するにせよ失敗するにせよ、ローゴブリンは死滅するのだからな。
両勢力はユウトが討伐を失敗したときのための後始末として高みの見物をしてもらえばいい」
ロードは自身の死を前提とした計略を平然と語ってヨーレンに考えを返した。
「群れを組んだということか?」
ユウトは素直な疑問を投げかける。
「我もそう考えたが違った。魔獣たちはそれぞれ融合を重ね一体の巨大な魔獣になろうとしていた」
「巨大化をする意味があるのだろうか?ある程度の力を持っている魔獣であれば探索範囲を広げた方が効率的であると思うけれど」
ユウトに続いてヨーレンが尋ねた。
「我は普段、自身を探知されないようにするための魔術を使用している。それがガラルドに首を刎ねられた際に術が一定時間停止した。それで位置を知られたのだろう。正確な位置は掴めなくとも大体の場所さえわかったのだから強大な力でねじ伏せる、という考え方に方針転換したのかもしれん」
探知する、それを妨害する術式というものがどういう仕組みなのかはユウトにはわからない。ただロードの話しがそれまで引っかかっていた疑問の答えにつながった。
「もしかして、ロードが元の身体に首をつなげ直さなかったのってロード自身の死を偽装するためだったのか?」
不謹慎と思いつつも、ロードの行動の意図に気づくことができたことでユウトは若干の高揚感を得ている。
「そうだ。ギルドの目を誤魔化す意図もあったがな。しかしどれほど通用したかはわからない。あの大橋での魔鳥襲撃の一件は我を探していた可能性も拭いきれない」
ユウトに対して怒るでもなく悲しむでもない、全く感情の揺らぎを見せずロードは淡々と語った。
「その魔獣の集合体。仮の呼び名として大魔獣としよう。大魔獣は今、我が認知しているローゴブリンをすべて投入し操作することで誘導している。最終目的地はここからほど近い盆地の草原。可能な限り時間を稼いでいるが最大で二十日ほどだろうか。最後は我が探知妨害の術式を切っておびき寄せるつもりだ」
「盆地の草原とは星の大釜のことか」
ヨーレンがつぶやく。
「文字通りロードが最後のローゴブリンになるということなんだな・・・」
ヨーレンに続くようにユウトが目線を落としながら感想を語った。
「そしてその大釜の中心で我が魔術による攻撃を行う」
ロードの淡泊なものの言い方がユウトは気になる。何かを隠しているような気がした。
「ロードだけで?どういった魔術を使うつもりなんだ?どれほどの大魔獣への損害が期待できる?」
いぶかしんで疑う表情も隠さずユウトはロードに尋ねる。ロードは一瞬黙ったのちそれまでと変わらずユウトに答え始めた。
「肉体を分解した生み出した魔力を圧縮したのち熱変換する。一定範囲を焼きつくすことで打撃を与える術式だ。術式はジヴァとの取引で手に入れた」
「発動精度はわしが保証するよ。でもねぇ」
ジヴァは含みのある言い方をする。
「大魔獣に対して確実な損害を与えることはできる。しかし、この術式では倒しきれないことが予想させる。
そこで、だ。我の最後の術を発動後、そこからユウトに頼む。お前の手による明確な一撃によって大魔獣を討伐してもらいたい」
それまで淡々としてたいたロードの口ぶりに若干の熱をユウトは感じ取った。
「あくまでオレ一人で倒す必要があるんだな」
ユウトは念を押すように身体を前のめりにさせロードを見据えて確認する。
「そうだ。この決戦でお前には英雄になってもらう。
殲滅間際に追い込まれたローゴブリン達が最後のあがきに呼び出した大魔獣を命を懸けて打倒し、この国の窮地を救ったハイゴブリンの英雄。その信頼を持ってこの国においての生存権を勝ち取る。これが我の考えた計略だ」
ユウトは椅子の背もたれに身体をあずけてふうっと短く息を吐いた。
目線を落としてロードの思惑と筋書きを検証する。横で聞いていたヨーレンが我慢できない様子でロードに感想を投げかけた。
「危うい。まるで綱渡りだ。
ギルドや中央の騎士団を投入すれば大魔獣を倒しきることは可能だろう。しかしユウトにとどめを刺させて英雄としての印象を植え付けるというのは条件が複雑すぎる。印象なんて言うものを操作できるのか?」
ヨーレンの言いようは半ば怒りのような感情も合わさっているようにユウトには感じらる。
「できる」
ロードの返答は力強かった。
「印象を決定づけるには第三者による評価が必要だ。ここで重要なのはゴブリン殲滅ギルドと調査騎士団の二つ。ギルドは中央と民に対する影響力、調査騎士団は王家に対する影響力をそれぞれ持っていると分析した。
どちらも最前線で戦う実働部隊であり、その発表に信頼性もある。この二つの組織どちらとも交渉を締結できればユウトを英雄と認識させることができる」
「ではギルドと騎士団に嘘をついてユウトの手柄であると発表しろということなのか?」
ヨーレンは語気を強めて反論する。
「無論、偽りの発表を行わせることなど不可能だ。
大魔獣が生まれた原因、その誘導とお膳立てにゴブリンが関係していることは真実だ。だが必要なのは大魔獣をユウトが倒したという事実だけでいい。知らなければ嘘をついたことにはならない。
大魔獣への対応はローゴブリンとハイゴブリンたるユウトのゴブリン勢力のみで行うという前提であれば両組織は条件を呑むだろう。被害が出る可能性は低くなる。そしてこの決戦が成功するにせよ失敗するにせよ、ローゴブリンは死滅するのだからな。
両勢力はユウトが討伐を失敗したときのための後始末として高みの見物をしてもらえばいい」
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