ゴブリンロード
第106話 雨後
セブルはレナを乗せひた走る。丸薬を使用した状態に比べればその速度は劣るものの街中を移動するどんなものより早く、そして機敏だった。
過ぎ去る街並みの人々はどこかよそよそしくざわめいている。過ぎ去っていくセブルを言葉に言い表せない不安な表情で見送っていた。その原因は非常事態を告げる二本の大柱のせいだったのかもしれないし、ユウトとガラルドの決闘だったのかもしれない。そんな不安な視線を気にも留めずセブルはただ全力で走った。
ヨーレンの工房は間もなく視界に入る。セブルは四つ足すべてで踏ん張ると石畳を濡らした雨水を跳ねて滑りながら急減速した。速度は落ちるものの工房正面口を通り過ぎそうな勢いを保っている。入口に達しそうになったところでセブルは毛をからませていたレナを開放し、両足を地につけさせた。
レナは残った勢いに身を任せ走り出し、工房入り口へ直行。そのまま扉を強く叩いて叫んだ。
「ネイラ!レナだっ!緊急の要件。すぐに開けて!」
扉を叩きだして間もなく扉は開く。レナは流れるように中に入り、レナのすぐ後ろに着いたセブルも身体を滑り込ませた。
ネイラは真剣な面持ちでレナとセブルとを出迎える。レナはネイラの前を通り過ぎ、歩みを止めず進み続ける。ネイラはレナの後を追うように歩いた。
「ノノはいる?」
「ええ、奥の工作室に。それで今はどんな状況?」
レナは奥に向けて歩きつづける。
「今、ガラルド隊長とユウトで決闘をしている。おそらくどちらかが死ぬまでやるはず」
「そうか・・・」
ネイラは驚くこともなく何かを察したようにつぶやいた。
そうしている間にレナは工作室の戸の前にたどり着き二度叩く。
「ノノ!頼みたいことがあるの!ヨーレンさんから言付かってる。入るよ」
扉越しに声を上げノノの返答を待たず戸を開けた。
明けた先の部屋には様々な工作機器があふれている。ちょうどノノは皮手袋を外そうとしていたところで急に入ってきたレナにきょとんとしていた。
「聞いてノノ。これはヨーレンさんから緊急の頼み。今ある研究中の治癒魔術の機材一式を持って広場に一緒に来て」
レナはノノの正面まで歩みを進めるとノノの両肩をぎゅっと掴む。
「わ、わかったわ。すぐに準備する」
ノノはレナの勢いに圧倒されながら慌てながらも慎重に荷物をまとめ始める。それほど時間がかかることもなくノノは肩掛けの鞄を背負い準備を終えた。
「よし、ついてきて」
レナは有無を言わさずノノの手を引き正面出入り口の広間に連れてくる。
「じゃあセブル。あとはお願い」
声を掛けられたセブルはノノの後方から股をくぐり自身の身体に毛をからませる。ノノを固定させると戸惑うノノに気を遣うことなくネイラが開け放った扉から飛び出していった。
その後姿を見送ったレナは呆然と立ち尽くす。そんなレナの後頭部を軽くはたいたのはネイラだった。
「何をぼうっとしているんだ。私たちも向かうんだろ。ここで事の顛末への知らせが来るのを待ってるつもりか?」
「・・・すぐに出る」
レナはむっとしながら肩に担いでいた魔槍を立てかけ扉から外に出る。ネイラもレナに続いて外にでると扉を施錠した。
二人は揃って雨の中を駆け出す。セブルほどではないが魔膜を利用した走法でみるみる加速していった。ネイラはロングスカートを片手で持って裾を上げ、レナに負けない速度で描けていく。レナも必死に食らいつきながらセブルとノノの後を追って駆け抜けた。
ユウトの視界には雲に差し込む白い光が写る。霧雨のような雨粒が舞い、雨はもう止もうとしていた。ゆっくりと身体を起こす。身体の感覚は希薄で疲労感を強く感じた。ふと左腕を見ると手がない。痛みはなく、血だけがあふれていた。意識を集中させると魔膜で覆われ血は止まる。あたりを見回すと赤い斑点が同心円上に散っていた。その先を見ると男が一人倒れている。周囲はどこまでも静かだった。
何かが座った足元に降り立つ。それは赤い鳥だった。その鳥は何かをユウトに語り掛けるが音は聞こえない。しかし別の何かが感じ取れた。
「ユウトさん!ユウトさんっ!大丈夫っスか!」
名前を呼ばれ、ユウトのぼんやりとした意識は徐々に鮮明さを取り戻す。自身の状況を一つ一つ振り返り始めた。
ガラルドとの最後の攻防をたどり自身が魔剣の爆発によって吹き飛ばされたことまで認識する。咄嗟に全身の魔膜を膨張させ防御を行っていたことでダメージを減少させる試みはおおむね成功したのだと分析した。それでも鼓膜までは完全に守り切れなかったようでキーンという音が鳴り響いている。徐々に聴覚を取り戻しながらユウトは立ち上がった。
ユウトは握り締めていた魔剣の柄を落とし金属音が響くのがほんのり感じる。ラトムは滞空するように飛び上がり、ユウトへ切実に声を掛けた。
「ユウトさん。今こそオイラの飾り羽を使ってくださいっス。今なら切り落とされた腕だってもとに戻せるっス」
「すごいな。そんな治癒力があるのか」
そう言いながらユウトは足を引きずるように真っすぐ正面へと歩き始める。たどり着いたのは大の字に横たわるガラルドだった。
過ぎ去る街並みの人々はどこかよそよそしくざわめいている。過ぎ去っていくセブルを言葉に言い表せない不安な表情で見送っていた。その原因は非常事態を告げる二本の大柱のせいだったのかもしれないし、ユウトとガラルドの決闘だったのかもしれない。そんな不安な視線を気にも留めずセブルはただ全力で走った。
ヨーレンの工房は間もなく視界に入る。セブルは四つ足すべてで踏ん張ると石畳を濡らした雨水を跳ねて滑りながら急減速した。速度は落ちるものの工房正面口を通り過ぎそうな勢いを保っている。入口に達しそうになったところでセブルは毛をからませていたレナを開放し、両足を地につけさせた。
レナは残った勢いに身を任せ走り出し、工房入り口へ直行。そのまま扉を強く叩いて叫んだ。
「ネイラ!レナだっ!緊急の要件。すぐに開けて!」
扉を叩きだして間もなく扉は開く。レナは流れるように中に入り、レナのすぐ後ろに着いたセブルも身体を滑り込ませた。
ネイラは真剣な面持ちでレナとセブルとを出迎える。レナはネイラの前を通り過ぎ、歩みを止めず進み続ける。ネイラはレナの後を追うように歩いた。
「ノノはいる?」
「ええ、奥の工作室に。それで今はどんな状況?」
レナは奥に向けて歩きつづける。
「今、ガラルド隊長とユウトで決闘をしている。おそらくどちらかが死ぬまでやるはず」
「そうか・・・」
ネイラは驚くこともなく何かを察したようにつぶやいた。
そうしている間にレナは工作室の戸の前にたどり着き二度叩く。
「ノノ!頼みたいことがあるの!ヨーレンさんから言付かってる。入るよ」
扉越しに声を上げノノの返答を待たず戸を開けた。
明けた先の部屋には様々な工作機器があふれている。ちょうどノノは皮手袋を外そうとしていたところで急に入ってきたレナにきょとんとしていた。
「聞いてノノ。これはヨーレンさんから緊急の頼み。今ある研究中の治癒魔術の機材一式を持って広場に一緒に来て」
レナはノノの正面まで歩みを進めるとノノの両肩をぎゅっと掴む。
「わ、わかったわ。すぐに準備する」
ノノはレナの勢いに圧倒されながら慌てながらも慎重に荷物をまとめ始める。それほど時間がかかることもなくノノは肩掛けの鞄を背負い準備を終えた。
「よし、ついてきて」
レナは有無を言わさずノノの手を引き正面出入り口の広間に連れてくる。
「じゃあセブル。あとはお願い」
声を掛けられたセブルはノノの後方から股をくぐり自身の身体に毛をからませる。ノノを固定させると戸惑うノノに気を遣うことなくネイラが開け放った扉から飛び出していった。
その後姿を見送ったレナは呆然と立ち尽くす。そんなレナの後頭部を軽くはたいたのはネイラだった。
「何をぼうっとしているんだ。私たちも向かうんだろ。ここで事の顛末への知らせが来るのを待ってるつもりか?」
「・・・すぐに出る」
レナはむっとしながら肩に担いでいた魔槍を立てかけ扉から外に出る。ネイラもレナに続いて外にでると扉を施錠した。
二人は揃って雨の中を駆け出す。セブルほどではないが魔膜を利用した走法でみるみる加速していった。ネイラはロングスカートを片手で持って裾を上げ、レナに負けない速度で描けていく。レナも必死に食らいつきながらセブルとノノの後を追って駆け抜けた。
ユウトの視界には雲に差し込む白い光が写る。霧雨のような雨粒が舞い、雨はもう止もうとしていた。ゆっくりと身体を起こす。身体の感覚は希薄で疲労感を強く感じた。ふと左腕を見ると手がない。痛みはなく、血だけがあふれていた。意識を集中させると魔膜で覆われ血は止まる。あたりを見回すと赤い斑点が同心円上に散っていた。その先を見ると男が一人倒れている。周囲はどこまでも静かだった。
何かが座った足元に降り立つ。それは赤い鳥だった。その鳥は何かをユウトに語り掛けるが音は聞こえない。しかし別の何かが感じ取れた。
「ユウトさん!ユウトさんっ!大丈夫っスか!」
名前を呼ばれ、ユウトのぼんやりとした意識は徐々に鮮明さを取り戻す。自身の状況を一つ一つ振り返り始めた。
ガラルドとの最後の攻防をたどり自身が魔剣の爆発によって吹き飛ばされたことまで認識する。咄嗟に全身の魔膜を膨張させ防御を行っていたことでダメージを減少させる試みはおおむね成功したのだと分析した。それでも鼓膜までは完全に守り切れなかったようでキーンという音が鳴り響いている。徐々に聴覚を取り戻しながらユウトは立ち上がった。
ユウトは握り締めていた魔剣の柄を落とし金属音が響くのがほんのり感じる。ラトムは滞空するように飛び上がり、ユウトへ切実に声を掛けた。
「ユウトさん。今こそオイラの飾り羽を使ってくださいっス。今なら切り落とされた腕だってもとに戻せるっス」
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そう言いながらユウトは足を引きずるように真っすぐ正面へと歩き始める。たどり着いたのは大の字に横たわるガラルドだった。
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