ゴブリンロード
第102話 剣戟
剣を構えるユウトはこの決闘の目標を考える。
まず一つは自身の命を守ること。ここで自身の命を落とせばガラルドはロードの取引を断り事態を静観しハイゴブリン達を見捨てることが予想できた。
もう一つはガラルドの命を奪わないこと。ガラルドの戦闘続行不能な状態に追い込むか繊維を喪失させることでこの場をおさめる。
ガラルドの手ごわさをユウトは理解している。これまでの張り詰めた緊張感の中で鍛え上げてきた技術とゴブリンに対する執念と戦略は到底かなわないとユウトはわかっていた。ただ一点、基礎的な身体能力においてまだ自身に分があるとユウトは考える。まだまだ付け焼刃な戦闘技術を豊富な魔力量で補うつもりでいた。
お互い向かい合って急ごしらえの戦略を組み立てるユウト。向かい合って幾分時間が経ち先に動いたのはガラルドだった。
一歩ずつ間合いを詰めてくる。ユウトは緊張で体が強張っていくのを感じた。ガラルドの隠そうともしない殺意は初めて出会った洞窟の時より疑念がない分より純粋な濃度の高さでユウトの感覚を刺激する。後ずさってしまいそうになるユウトは必死にこらえ、まるで反発するようにじりじりと足を前に出した。
そして全身の魔膜の流れを意識して調節し足の裏、かかとにに集中する。大工房での数日間の間に指導をしてもらった魔膜の修練を思い出しながら足と地の接地面の圧力を上げていった。狙った量の魔力が蓄積される。ユウトは覚悟を決め行動にでた。
魔膜によって圧縮された魔力を狙った一点で膨張させる。そのエネルギーを利用してユウトは飛んだ。石畳の上でたまる雨水が跳ね上げて低く早くガラルド目掛けてユウトは迫り急所を外した突きを放つ。ユウトの全体重を乗せた突然の突進に対してガラルドは慌てる様子もなく剣の腹であっさり突きの方向をそらしユウトをよけた。かわされたユウトは足を地に着け魔膜で強力に速度を落とし、その圧力を利用してまるで見えない壁を跳ね返えるようにガラルドに向けて二撃目を放つ。よけた態勢を狙った攻撃だったがガラルドはこれも難なく退けた。
ユウトはあきらめることなく三撃、四撃と斬りも織り交ぜながら連撃を放つ。しかしガラルドの身体を刃がとらえることはなかった。
ユウトはそれでも連撃を続ける。
そして何度か目の折り返しに力をためようと一瞬その動きが止まった瞬間。その一瞬を狙いすましたかのように縦にガラルドの剣が振り下ろされた。
次の一撃に向けた準備に意識を向けてしまっていたユウトにはその剣戟を受け止める余裕はない。態勢を崩すことをいとわず思い切りのけぞらせて回避に徹するのが精いっぱいだった。抑えきれなかった勢いをそのままに体をひねりながら吹き飛んで間一髪でかわす。ユウトの身体は飛び跳ねるボールのように石畳の上を転がり、四つん這いになって何とか態勢を立て直して止まった。
追撃を恐れてユウトはすかさず防御態勢を取るもガラルドはその場を動くことなくゆっくりとした動作で構え直している。ユウトの顔には額から頬にかけて鋭い切り傷が縦一線に刻まれ、雨に打たれて血がにじんだ。
ユウトは止めていた呼吸を再開してため込んだ肺の空気を吐き出す。数回大きな呼吸を繰り返し整え膝をついた態勢から立ち上がった。想像以上のガラルドの実力にユウトは手の先が震える感覚があることを認識する。侮っていたわけではなかった。しかしガラルドへの攻撃はことごとくかわされたことがにわかに信じられない。的確な見切りに合わせた最小の動きで圧倒的ともいえる身体能力の差を埋められ、さらに反撃された。
ガラルドを殺さず戦闘不能にしようなんていう発想の甘さをユウトは悔いる。
一連のユウトとガラルドのやりとりの様子を一定の距離を保って見つめる人々。そのうちの一人、レナは間合いを取って構え直すユウトを見て胸をなでおろした。そして隣のヨーレンに尋ねる。
「ヨーレンさん。あたし見てられない。何かあたし達でできることはないの?」
ヨーレンはレナの方をみることなく、歯がゆそうな表情で答えた。
「私は命じられてしまった限りは立会人の任を努めなければならない。我々は二人の決着がつくまで手が出せない」
レナは「決着のあと・・・」とつぶやきヨーレンの肩を掴む。
「今、研究中の治癒魔術。実用性はどのくらいある?」
するどい剣幕でレナはヨーレンに尋ねる。ヨーレンはふと何かを思いついたように顔の硬直が弛緩した。
「使えなくもない・・・ロードの言っていた万能細胞の発想は導入できるかも。
よし、レナ。私はここから動けない。工房からノノと機材一式を大至急持ってきてくれ。間に合うかどうかはわからないが最善を尽くそう」
ヨーレンの顔つきは決意に固まる。それから一人ぶつぶつと何かを確認するように視線を外さず唱え始めた。
「わかった。すぐに連れてくる」
レナは答え、すぐに何かを探し始める。それはすぐに見つかった。
呆然と眺める人々が肩続くった円形の内側に暗い物体がレナの視界がとらえる。雨に濡れ切った毛を垂れさがらせながらじっとユウトを見つめているセブルだった。
まず一つは自身の命を守ること。ここで自身の命を落とせばガラルドはロードの取引を断り事態を静観しハイゴブリン達を見捨てることが予想できた。
もう一つはガラルドの命を奪わないこと。ガラルドの戦闘続行不能な状態に追い込むか繊維を喪失させることでこの場をおさめる。
ガラルドの手ごわさをユウトは理解している。これまでの張り詰めた緊張感の中で鍛え上げてきた技術とゴブリンに対する執念と戦略は到底かなわないとユウトはわかっていた。ただ一点、基礎的な身体能力においてまだ自身に分があるとユウトは考える。まだまだ付け焼刃な戦闘技術を豊富な魔力量で補うつもりでいた。
お互い向かい合って急ごしらえの戦略を組み立てるユウト。向かい合って幾分時間が経ち先に動いたのはガラルドだった。
一歩ずつ間合いを詰めてくる。ユウトは緊張で体が強張っていくのを感じた。ガラルドの隠そうともしない殺意は初めて出会った洞窟の時より疑念がない分より純粋な濃度の高さでユウトの感覚を刺激する。後ずさってしまいそうになるユウトは必死にこらえ、まるで反発するようにじりじりと足を前に出した。
そして全身の魔膜の流れを意識して調節し足の裏、かかとにに集中する。大工房での数日間の間に指導をしてもらった魔膜の修練を思い出しながら足と地の接地面の圧力を上げていった。狙った量の魔力が蓄積される。ユウトは覚悟を決め行動にでた。
魔膜によって圧縮された魔力を狙った一点で膨張させる。そのエネルギーを利用してユウトは飛んだ。石畳の上でたまる雨水が跳ね上げて低く早くガラルド目掛けてユウトは迫り急所を外した突きを放つ。ユウトの全体重を乗せた突然の突進に対してガラルドは慌てる様子もなく剣の腹であっさり突きの方向をそらしユウトをよけた。かわされたユウトは足を地に着け魔膜で強力に速度を落とし、その圧力を利用してまるで見えない壁を跳ね返えるようにガラルドに向けて二撃目を放つ。よけた態勢を狙った攻撃だったがガラルドはこれも難なく退けた。
ユウトはあきらめることなく三撃、四撃と斬りも織り交ぜながら連撃を放つ。しかしガラルドの身体を刃がとらえることはなかった。
ユウトはそれでも連撃を続ける。
そして何度か目の折り返しに力をためようと一瞬その動きが止まった瞬間。その一瞬を狙いすましたかのように縦にガラルドの剣が振り下ろされた。
次の一撃に向けた準備に意識を向けてしまっていたユウトにはその剣戟を受け止める余裕はない。態勢を崩すことをいとわず思い切りのけぞらせて回避に徹するのが精いっぱいだった。抑えきれなかった勢いをそのままに体をひねりながら吹き飛んで間一髪でかわす。ユウトの身体は飛び跳ねるボールのように石畳の上を転がり、四つん這いになって何とか態勢を立て直して止まった。
追撃を恐れてユウトはすかさず防御態勢を取るもガラルドはその場を動くことなくゆっくりとした動作で構え直している。ユウトの顔には額から頬にかけて鋭い切り傷が縦一線に刻まれ、雨に打たれて血がにじんだ。
ユウトは止めていた呼吸を再開してため込んだ肺の空気を吐き出す。数回大きな呼吸を繰り返し整え膝をついた態勢から立ち上がった。想像以上のガラルドの実力にユウトは手の先が震える感覚があることを認識する。侮っていたわけではなかった。しかしガラルドへの攻撃はことごとくかわされたことがにわかに信じられない。的確な見切りに合わせた最小の動きで圧倒的ともいえる身体能力の差を埋められ、さらに反撃された。
ガラルドを殺さず戦闘不能にしようなんていう発想の甘さをユウトは悔いる。
一連のユウトとガラルドのやりとりの様子を一定の距離を保って見つめる人々。そのうちの一人、レナは間合いを取って構え直すユウトを見て胸をなでおろした。そして隣のヨーレンに尋ねる。
「ヨーレンさん。あたし見てられない。何かあたし達でできることはないの?」
ヨーレンはレナの方をみることなく、歯がゆそうな表情で答えた。
「私は命じられてしまった限りは立会人の任を努めなければならない。我々は二人の決着がつくまで手が出せない」
レナは「決着のあと・・・」とつぶやきヨーレンの肩を掴む。
「今、研究中の治癒魔術。実用性はどのくらいある?」
するどい剣幕でレナはヨーレンに尋ねる。ヨーレンはふと何かを思いついたように顔の硬直が弛緩した。
「使えなくもない・・・ロードの言っていた万能細胞の発想は導入できるかも。
よし、レナ。私はここから動けない。工房からノノと機材一式を大至急持ってきてくれ。間に合うかどうかはわからないが最善を尽くそう」
ヨーレンの顔つきは決意に固まる。それから一人ぶつぶつと何かを確認するように視線を外さず唱え始めた。
「わかった。すぐに連れてくる」
レナは答え、すぐに何かを探し始める。それはすぐに見つかった。
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