第62話　判定

「はぁ。何とか大丈夫みたいですね」

　ユウトに駆け寄ろうとしていたヨーレンはユウトがセブル、ラトムと平気そうに接している様子を確認して安心する。ため息をついて駆け寄ろうとした勢いを落としマレイの横で立ち止まる。

「うん。思っていた以上だな。こいつは使える」

　マレイは息も切らさず満足げに語った。

「あそこまでする必要ないじゃないですか。ユウトが受け止めるのを失敗したなら良くて脱臼、悪くて腕が吹き飛びかねない威力でしたよ」

　ヨーレンがあきれた顔でマレイに不満を述べる。

「いやぁ悪い癖だな。良い性能であれば限界を調べたくなってしまう」

　マレイは悪びれた様子もなく楽しそうだった。
　そこへレナが合流する。

「ユウトはどうでした？」
「十分だったよ。久しぶりに体が動かせてすっきりした。工房長なんて面倒な役割は誰かに任せたいよ」

　マレイはぐうっと組んだ手を空に向けて伸ばした後肩を回しながら語る。

「そんなこと言っても誰か他の方が工房長やってたら口うるさくダメだしとたくさん注文付けて突き上げるじゃないですか。誰もやりたがりませんよ」

　ヨーレンがあきれたようにマレイに反論した。

「それは残念だ」

　マレイがため息交じりに語りながらヨーレンに預けていた上着に袖を通していると立ち上がったユウトとガラルドが集まってくる。

「ユウト、試験は合格だ。十分に役割を果たせるだろう。明日からにもさっそくやってもらいたいところだが・・・白灰に診てもらうのが先か、ヨーレン」

　ユウトに向けて語り掛けていたマレイは最後にヨーレンに話を振る。

「はい、そのつもりです。ユウト、明日一緒に出掛けるからそのつもりでいて欲しい。あとガラルド隊長もお願いします。えっとレナは・・・」
「あたしも行きます。一度会ってみたかったんですよ白灰の魔女に」

　レナはどこか期待感を持って楽しそうにしていたが、ヨーレンはどこか心配そうな複雑な表情にユウトには見える。

「待て。レナはチョーカーの装着を急いでおいた方がいい認証も必要だからガラルドも残ってくれ。それとレナには投擲魔槍開発部から要請のあった新規の魔槍と使用感についての報告を求められているから顔を出しておいてくれ」
「わかりました」
「わかった」

　レナとガラルドから了承の返事がある。レナは先ほどまでの期待感が裏返りがっかりしているよだった。それから待ち合わせの時間などの細かい打ち合わせを行い一通り終わるとマレイが思い出したように語りだす。

「ああそれと手紙にあった魔剣を見せてくれ。今、誰がもっている？」
「オレだ。魔剣はこれで間違いない」

　ユウトは腰に携えていた柄のみとなった魔剣をマレイへ手渡す。マレイはまじまじと魔剣を観察したのち分析を語りだした。

「ふむ、なるほどな。大量魔力の出力と入力で魔力蓄積部品だった刀身が熱と高圧で結晶化したか。仮説はあったが本当にできるとはな。確かにこれに食いつく連中は多いだろう。
　ユウト、この魔剣を預かってもいいか？」
「構わない。それにもともとはガラルドの持ち物だし」
「そうか、構わないなガラルド。明日は白灰の領域に入るために魔術柵領域から一度出なければならない。代わりの魔剣を用意しておこう。
　以上だ。大分時間を食ってしまったな。楽しかったぞユウト」

　マレイはそういうとユウト達を残してすたすたと歩いてその場を後にする。離れたところに待機していたと思われる数人と合流し話しながら塔の屋上から去っていった。

「なんというか。見た目にそぐわず豪快な人物なんだな。マレイって」

　マレイを見送りながらユウトは感想を述べる。

「今日はまだ機嫌がいい方だったから幸運だったかもね。やりたいこととやらないといけないとこが多すぎて結構イライラしてること多いから」

「そうなのか。若そうに見えるのにすごいな。拳を放つ瞬間、魔膜で圧縮した魔力を放出させて勢いを増してたりしてすごかった」

　ユウトの言葉にヨーレンは何かズレを感じて察しがついたのか少し笑いながらユウトに話す。

「工房長は女性のノームだよ。人としての見た目以上にずっと歳を取ってる大先輩だ。まぁ具体的な年齢を聞く勇気はないんだけどさ。ユウトは女性のドワーフを見るのは初めてだったのか」

　ヨーレンから語られるる事実にユウトは驚く。

「ドワーフって大橋砦で橋の整備をやっていた人たちだよな？女性と男性であんなに見た目が違うのか？」
「そうなんだよ。坑道を掘って穴倉で生活することが多いドワーフは対外的に接するのを男性のドワーフばかりにして女性のドワーフの存在を隠してみたいなんだ。わざわざ女性のドワーフにも髭が生えては男性ドワーフと見分けがつかない、なんて噂を意図的にドワーフ達は流してたくらいだ。確かにユウトみたいに未だに工房長みたいな女性のドワーフを間近で見たことある人は少ないかもしれないな。
　都市で多人種の中で生活している女性ドワーフはまだ珍しい。まぁ工房長はあの通り活発な人だから坑道に収まっていられなかったんだろうけど」

　ユウトはドワーフの男性と女性であまりに違う見た目そのものに驚いたのだがヨーレンは少し的外れな解説をする。

「マレイさんに髭はどうやって沿っているんですか、なんて聞いたらとんでもない目に合うから気を付けといた方がいいよ」

　親切にレナはマレイの逆鱗を教えてくれる。ユウトは思い出してみるとマレイの顔の側面にあった一対の三つ編みは長いもみあげを隠すためだったのかもしれない、と考えたが藪蛇をつつくようなことは避けようと一人誓った。