ゴブリンロード
第52話 ラトム
ユウトは手に残された丸薬の袋をのぞく。そこにユウトが入れていた赤い石はなくどうも丸薬の残りの数も少なくなっている気がした。
魔鳥の一部分だったあの赤い石が頭にのる小鳥へと形を変えた可能性をユウトは否定できない。まだ誰にも知られていない事実について後ろめたさを感じながら丸薬の小袋をガラルドに渡そうとした。
「丸薬はユウトがもっていろ」
ガラルドは差し出された丸薬を受け取らずそのまま振り向いて階段を下りて行ってしまう。ユウトはあっけにとられ仕方ないと数がずいぶん減ってしまった丸薬を腰に戻した。
「それじゃあレナ、ユウト。私たちは晩御飯にしようか」
ヨーレンが二人を誘う。
「ええ。行きますか」
「あ。オレはケランにおごってもらって済ませちゃったからもうしばらくここで橋を眺めてるよ」
予想外のユウトの答えにヨーレンは少し驚いていたがわかったと返事して階段を降りようとしたときだった。
「ヨー兄さん。私も同席させてもらいますね」
カーレンがすかさず声をかけ、ヨーレンの後姿は一瞬震える。カーレンはその旨をディゼルに伝えヨーレンの返事を聞かないまま三人とも階段を下りて行った。
「じゃあユウト。僕は見回りを続けるよ」
そう言ってディゼルもその場を後にした。残ったのは一体と一匹と一羽。
「よし。それじゃいろいろ話を聞かせてもらおうか」
ユウトはそう言うとあたりを見渡し人目につかなそうな場所をさがす。そして城壁の角にせり出した円形に広がった場所で塀を背にして座り込んだ。
目の前の地面に小鳥を下ろしユウトは向き合う。
「セブルの言葉が理解できたってことは普通にしゃべれるってことでいいんだよな?」
「あっはい。そっス。伝わるんスね。人語の発声はめっちゃ疲れるんで助かるっス」
小鳥は抑揚をつけながらピーピー鳴いているだけだがユウトのには意思が十分伝わる。
「命を救ってもらってホント感謝ッス!一生ついていくっス!」
そういいながら翼をばたつかせ小鳥は小さく跳ねている。
「なんで自分で魔物って言っちゃうかな。黙ってればただの鳥ってことでごまかせたでしょ」
セブルがボソッと問いかける。それを聞いた小鳥は「あっ」と言ってピタッと動きが止まり静止した。
「あはは。それでお前、名前はあるのか?」
「いいえ、ないッスネ。もしかしてつけてくれるんスカ!マジっスカ!」
小鳥の硬直は一瞬で解けてユウトに向き合う。鳥に表情はないはずだったが妙に期待感を抱いた眼差しをしている気がユウトにはした。
「そっか。基本魔物に名前は必要ないんだな。でもこれから不便だしつけとくか・・・。
うーむ。真っ赤な鳥、ホウオウ、フェニックス、ラー・・・よし、ラトムで行こう。
どうだ?」
「フゥーー。やったッス!うれしいッス!いい名前ありがとうございまッスーーー」
ラトムは甲高く叫ぶように鳴く。すかさずセブルがラトムにとびかかり抑え込んだ。
「調子にのらない!人目に付くと面倒でしょ」
セブルがラトムを取り押さえている様子はさながら獲物に襲い掛かる猫のようでユウトは殺してしまわないかと声には出さなかったが少し焦る。
「まぁセブルの言うとおりだ。落ち着けラトム。
それでセブルにもあわせて聞きたいんだけど、結局魔物って何なんだ?お前たちの以前の姿には思考が備わっていないように感じたが記憶はあるのか?」
セブルは覆いかぶさったラトムから離れ二匹とも黙る。ユウトには考え込んでいるように見えた。
まずセブルが先に語りだす。
「ぼんやりとですがユウトさんと出会うまでゴブリンをひたすら狩り続けた記憶があります。ただそれ以前の記憶はありません。体が覚えている機能は把握しています。思考力は確かに制限されていました」
次にラトムがしゃべりだす。
「オイラは何にも覚えてないっス。気づけばあの袋の中にいてびっくりしちゃって暴れちゃったっス。何をやったか覚えてないっスけど何ができるかはわかるっス」
「へぇ。どんなことができるんだ?聞いておきたい」
「ハイっス!光線吐けるっス!」
ラトムはそう言うと頭の細い飾り羽がくるりと巻いて円を作られ頭に輪っかを乗せたようなスタイルになる。そしてその輪っかはシャボン玉を作るときのように膜が張られた。その膜は透明度があり赤い色をしていた。
ユウトはその膜が魔力で出力された何かであることを瞬時に理解する。まずい、と思いおそらく光線を発射しようとしているラトムを止めようと身を乗り出しかけた時、すでにセブルがラトムを抑え込んでいた。
「だぁかぁらぁ調子に乗るなって言ったよねー。
ここで何かしたらユウトさんの立場が危うくなるでしょーがッ!」
セブルはさっきより激しくラトムをこねくり回す。
「ああぁ~。ごめんなさいっスぅ。ほんとに気をつけるっスぅ」
ラトムはもみくちゃにされながら謝罪している。
「本当に気を付けてくれ。他に何か能力はあるのか?」
「あっハイ。尾羽の大きな一枚は抜いて傷とかに触れさせると高速で回復させれるっス。抜いてすぐじゃないとダメなんスけど」
「おお。すごいなそれ。保険として十分使えそうだな」
「あ、ありがとうございまッス~」
ラトムはいまだセブルからもみくちゃにされ続けている。ユウトはセブルにそのぐらいにしておけと説得しラトムは解放された。
話が終わるころには夕日は沈みあたりは暗さを増してきている。ユウトは立ち上がりそこから橋の方を眺めると橋にともされた魔術灯の明かりが規則的に並び橋を照らしていた。
その明かりは緩やかに流れる河の水面に反射され縦に長い光の線を映し出し、水面に揺れてきらめいている。砦と橋以外の周辺に明かりがないため魔術灯の明かりはさらに映えてユウトには見えた。レナの言っていた通りの大石橋の夜景の姿をユウトはしばらくじっと眺め続けた
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