ゴブリンロード

水鳥天

第6話 診療


 医者と思われるその男は一度ユウトの方にも視線を移すがすぐにガラルドの方へ視線を戻した。ガラルドの返答を聞かないまま白衣の男は目の前にある折り畳み式の椅子へ座るようにうながす。

 ユウトは医者が最初に診るのがガラルドであることに少し驚く。ここまでガラルドに着いてきたがケガを負っているようなそぶりや違和感に一切気が付かなかったからだ。

 ガラルドは嫌がるそぶりを見せず椅子へ座ると鎧を外しだした。兜を取り、順序良く鎧を外していく。

 そしてユウトはガラルドの顔を見てさらに驚いた。ガラルドの戦闘での動きや声、歩き方から中年ぐらいではないかと考えていた。だがその顔には深いしわが刻まれ、くぼんで奥まった目、真っ白な頭髪、眉、無精髭。そのどの要素からもかなりの歳を重ねた老人である。

さらに体中には大小問わず傷跡が目立ち歴戦を重ねてきたことがわかる。全盛期を通り過ぎていることはユウトの目にも明らかだった。それと同時にこんな体で先ほどの戦闘で鬼気迫る動きを取っていたことが不思議にも感じてもいた。

 医者はガラルドが取り外した鎧や鎖帷子を整理したのち、椅子に腰かけガラルドと向き合う。

「今回はどこに傷を負われましたか?」

 穏やかな声でガラルドへ医者は語り掛ける。

「ああ。胸の方をやられた。初めて見た攻撃だ。何とか鎧で受け止め切れたがかなりの衝撃を受けている」

 ガラルドの報告を聞きながら医者は手のひらをガラルドの胸のあたりにかざす。その手のひらはかすかに輝いているようにユウトには見えた。医者はその手をガラルドにギリギリ触れない近さで上下左右に体になぞって動かしていたが表情が険しくなっていく。そしてあきれたような怒っているいるような様子で症状をガラルドへ伝えだす。

「かなりの重傷ですね。強めの治癒術式で対応します。ですが薬を使った反動までは押さえきれませんよ」

「承知の上で使っている。治癒を頼む」

 ガラルドは全く動揺もなく悪びれた様子も見せない。

 薬とは何のことだろうかとユウトは思ったが今ここで聞けるような雰囲気ではなかったのでだまったいた。

 あきらめの表情に変わった医者は小さくため息をつき、かざした手をそのままに何かをぶつぶつと唱える。するとその手の平が先ほどの光よりさらに増して輝きだす。しばららくそのままの体制で静止したのち輝きがしぼんでなくなり手を下した。

「終わりました。完全に回復するまでいつもより時間がかかるので気を付けてください。戦闘行動のような激しい動きは禁物です。絶対安静ですよ」
「気を付ける」

 医者は念を入れて注意を促す。ガラルドの短い返事からまた無理をしそうな雰囲気が漂っているのをユウトにも読み取れる。

「それで・・・」

 一通りガラルドに対して注意をし終わり、治療の様子を眺めていたユウトの方へ医者が視線を移した。

「君は何者なんですか?」
「あ、名前はユウト。どうしてこんな体になってしまったかわからないけど人間だ」

 唐突に話を振られてユウトは慌てながら返事と自己紹介をした。声が少し裏がってしまう。

「私はヨーレン。この隊の医師をやっている。よろしくユウト」
「・・・よろしく」

 ユウトはこの世界に来て初めて殺気を向けてこなかったヨーレンに対して動揺した。この姿に嫌悪感を抱かない人がいるのかと驚きもしている。

「危ない所をユウトによって助けられている。とりあえず本人の意見を信用することにした。だが人であると確信はない。どう思うヨーレン」

 ガラルドはヨーレンにユウトの身体を見てもらいたいと頼んだ。

「わかりました。ユウト、体を見せてもらってもいいかい?」
「自分の身体がどうなっているのかさっぱりわからなくて困ってる。こちらかもお願いするよ」

 ユウトはガラルドと入れ替わりに椅子へ座り、ヨーレンは先ほどガラルドへやったように手をユウトの身体へかざした。ヨーレンの手の平がまたかすかに光を放つ。それからガラルドの時と比べてより念入りに時間をかけ、ヨーレンは手をかざし続けた。そして手の光は収まるとヨーレンはじっと考え込んでしまった。

「どうだったヨーレン。オレの身体は人なんだろうか?」

 ユウトはヨーレンの沈黙に我慢できず自身の身体の容態を尋ねる。うつむき気味に顎に手をあてて考え込んでいたヨーレンは慎重に語り始めた。

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