おれたち天使の部屋の極悪兄弟

文戸玲

きっかけ



 正弥,と達也は呼びかけた。仰向けになって天井を見つめながら話しかけているが,その目からは何かこれから大切な話をするための意思のようなものが読みとれた。達也はいつも,まじめな話をするときには人の目が見れない。

「お前さ,なんでコンビニで万引きなんてしたの?」
「そんなことかよ。それはお互い様だし,今更なんだっていうんだよ」
「おれが話をしているのは,小学生の頃の話だ」

 双子って不思議だと不意に思う。きっと自分が小学生の頃の悪い記憶を思い起こしていたタイミングで,達也も似たようなシーンを思い出していたのだろう。何か目には見えない糸のようなものでつながっていて,どこかで思考がリンクしているのかもしれない。

「ああ,なんか高校生がよくやってたから,俺もやってみようと思ったんだよ。簡単そうにやってたから楽勝って思ってたのに,すぐにばれたけどな」

 目をぱちくりさせて逡巡したのち,納得がいかないという風に首を振った。

「くそが付くほどまじめな正弥が物を取ったっていうんだから,びっくりしたよ。今日もさ,とりあえず食い物を目的にした万引きだっただろ。それなのに,正弥は食い物をまったくもって帰ってこなかった。何が目的だったんだ?」

 達也は天井に向けていた顔をこちらに傾けた。だが,その目の焦点はこちらの顔ではなく,斜め上の遠くのほうにあっていた。まるできまりが悪くてわざと目をそらす後輩のようだった。
 何がきっかけでそう思ったのかはわからない。ただ,話してもいいかなと思った。


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