おれたち天使の部屋の極悪兄弟

文戸玲

正弥の返事


 字のへたくそな人は例外なくみるに堪えないペンの持ち方をする。もちろん正弥もその例に漏れることなくお手本のような汚い持ち方でペンを走らせた。

「恋するウサギちゃん,こんばんわ。あなたの中で思いが固まったようでよかったです。確かに,あなたの言う通り,世の中愛情だけでは何もうまくいきません。私も,親の愛情を受けることなく成長してきました。それはそれで仕方のないことだと思います。人にはいろいろあるのですから。ただ,親の愛情があれば私は幸せになれたとは到底思えません。私の中に足りないものは愛だけではないのです。私に足りないものは,あなたのおっしゃるように,お金です。お金さえあればある程度のものは手に入ります。少々嫌な思いをさせられようが,何かしらで埋め合わせが出来ます。しかし,お金はそう簡単に増やすことはできません。人が一生で稼げるお金はある程度決まっているのです。公務員には公務員の生涯年収,医者には医者の生涯年収,高卒には高卒の稼げるお金というのはある程度の幅で決まっているのです。
 どうか,あなたの子どもが幸せになることを祈ります。返事は結構です。お幸せに」

 ふっと一息をついてペンを置いた。荒々しい手つきで封筒の中に便せんを入れる。

「思ったことを書いたんだろ? なにをそんなにいらいらしているんだよ」
「うるせえ。お前のせいだ」

 正弥は勢いよく立ち上がると入口へと向かっていった。

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