おれたち天使の部屋の極悪兄弟

文戸玲

かなりのあほ

 手紙を読み終え,二人で顔を見合わせた。
 何なんだよこれは,と最初に声を発したのは達也だった。なんでこんな手紙を投げ込んでくるんだ,と続けていった。貧乏ゆすりの激しさから目に見えない不安に駆られていることが伺える。

「悩みがあるから手紙に相談を書いたんだよ」

 今朝から剃っていないあごひげを指でつまみながら正弥は答える。正直、手紙の内容なんてどうだっていい。天井にある穴は地上からは確認できなかったし,自分たちがここに身を隠しているから注意喚起として落としたものでもない。何かの拍子にかつて書いた悩み相談の手紙が今このタイミングで落ちてきたか,突発的な出来事が起きたとしか考えられない。そんなことの原因を考えることにエネルギーを割くよりかは,これからのために体力を回復させることの方がよっぽど大事だ。もう気にせず横になって休もう,と声をかけようとすると,達也は嬉しそうに手紙を持って何か余計なことに首を突っ込もうとしている。

「それにしてもさ,こいつの文章はあほ丸出しだよな。義務教育受けてんのかよ」
「それはお前が言えることじゃないだろ」

 これまで何度も繰り返してきた言葉を返す。

「まあ,悩んでいるんだからさ。返事を返してやろうぜ」
「返事を返すって,天井から落ちてきたんだろ? どこへ返すんだよ。まさか,天井に投げ返すつもりか? こんな自分の中で答えが決まっているかのような文章に」
「正弥はほんとばかだなあ。入口に郵便受けがあっただろ。あそこに入れておけば悩みの主がとりに来るんだよ」

 ほんと脳みそからっぽなやつだ,と頭の中が空洞になっている達也が腰を上げて表へと向かった。相手にしていられない。正弥は床にあおむけになった。

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