話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

バツ×ばつ×バツ【下】

Pt.Cracker

【真の敵!魂を弄ぶ者編】第五十一話 切り裂くもの

 大橋社長が電話から戻ってすぐ、社長の案内で死人憑きとなった大橋一江夫人を隔離しているという地下へと向かった。
 地下部屋に入って初めに目に入ったのは数えきれない酒瓶と酒樽。

「ワインセラーです。この奥の部屋に死人憑きを隔離しています」

 大橋社長は胸を誇らしげに張り、ワイン棚の間を練り歩く。これでは死人憑きを世間に知らしめるのではなく、自分の屋敷自慢をしているだけだ。

「普段は保管庫として使用している部屋なのですが、死人憑きになった家内の暴れようは手のつけられるものではありませんでした。男四人でようやくロープで縛り付け、ここへ閉じ込めたんです」

 問題の部屋は保管庫として頑丈に造られた壁と鉄製の扉に阻まれている。鉄製の扉には、物々しく何重にも鍵が掛けられていた。

「うわ~、厳重じゃないですかぁ。いかにも何かいそう……でも社長さん、縛ってあるならこんなところに閉じ込めなくてもいいじゃないですかぁ? 死人憑きって言っても~、奥さんなんでしょ~?」

 小林エレナの間延びした声が薄暗いワインセラーに響く。

「あれはもう人間じゃありません……それを、皆さんに知ってもらいたいのです。死人憑きという恐ろしい存在を!」

 大橋社長の言葉に、ディレクターと呼ばれていた小暮という男は親指を立て「いいね」と囁いた。久遠という筋肉質な男はカメラを抱え、内田というふくよかな男はマイクを掲げ、鉄製の扉に向かう小林エレナと大橋社長、社司を撮っていた。
 司は無理矢理、ディレクターと呼ばれていた小暮という男にカメラの前へ引っ張り出され、不機嫌な面持ちで先頭に立って扉の前へ進む。
 俺達が前に出ようものなら、小暮に「困りますよー」と遮られるのだから、手の施しようが無い。
 さっきからこんな調子で茶番劇が繰り広げられている。
 奥には鉄製の古びた扉が見え、その周辺はワイン樽や棚が置いてある場所に対して雑多に物が置かれ、通路が狭くなっていた。

「社先生、この扉の向こうです。何か感じますか」

 扉の前に到着した大橋社長は、いかにも心霊番組といったフリで司に訊ねる。
 司は無言で扉の向こうを睨む。
 俺や近江さんも、扉の向こうから人ならざるものの気配を感じている。司も恐らくは、気配に気付いているはずだ。

「ね、ねえ、開けるの?」

 小林エレナは無言で扉を睨み付ける司の様子に動揺する。大橋社長と小林エレナは司に目で訴えるが、司はじっと扉を睨んだまま動かず、痺れを切らした小暮は「時間が勿体ない、早く開けて」とカンペを掲げた。
 大橋社長は頷き「それでは、開けます」と宣言して錠前の鍵を開けていく。

「ま、待って。それはダメだって……」

 向こうに居る死人憑きは、扉が開いたら俺達に襲い掛かるつもりだ。扉の向こうから放たれる殺気が、俺たちの存在に気付いて膨れ上がっている。俺が制止しようとしても、ヒガシTVの連中が前に出る事を許さない。社司と月影さんは彼らを止める様子を見せないどころか、動こうともしない。
「近江さん」降魔師としてベテランの近江さんなら、この場をどうにかしてくれるのではと助けを求めるが、近江さんは難しい顔をして言った。

「ごめん。狭い通路にこの人数じゃ、全員を助けるのは難しいよ」

「えっ?」

 解錠の音がする度、扉の向こうからは嫌な気配が漂ってくる。気配が段々と膨れ上がる度、俺の脳が警鐘を鳴らす。

「駄目だ! 扉から離れて!」

 近江さんは叫んだ。
 小暮は目を吊り上げ「声を上げるな!」と憤怒したが、そんな場合じゃない。司は大橋社長と小林エレナを突き飛ばした。

「いったぁい! なにすんのよぉっ!」

 突き飛ばされ、床に尻餅をついた小林エレナが声を上げた直後、久遠の抱えていたカメラが音を立てて割れ、レンズが飛散した。

「な、なんだよこれぇっ……!」

 久遠は自分の腕を見て唸った。
 久遠の腕には、深い傷が刻まれていた。だが、それは割れたレンズが刺さったわけではなさそうだ。見るとカメラから離れていた司の頬にも刃物が掠ったような痕がつき、血が滲みはじめている。
 久遠は遅延して込み上げてきた傷の痛みにもだえ、使い物にならなくなったカメラを床に投げ出す。血が止まるようにと強く腕を抑えるが、逆に傷から血が溢れてくる。

「は、早く手当しないとー!」

 内田もマイクを投げ出し、ウエストポーチからタオルを取り出して、久遠の傷口を塞ごうとする。大橋社長は久遠の傷を見て硬直している。
 司は半開きになっていた鉄の扉を閉め、扉の向こうを睨んだ。閉められた扉の向こうから、扉を激しく叩く音が響き、大橋社長とヒガシTV一行は恐怖に肩を竦ませた。

「皆さんはここから退去して下さい」

 司は扉から背を向けずに、ヒガシTV一行に向かって言った。

「言われなくてもそうしますぅ~! 気味悪すぎっ」

 小林エレナは頬を膨らませ、小暮が引き留めるのも無視して足早にワインセラーから出て行った。
 流石に大橋社長も命が惜しいのか、私も、と階段の方へ足を向ける。が、小暮は「僕ぁ残りますからね」とわざわざ手を上げて宣言した。
「携帯電話のカメラでも、十分なメディアになりますからね」と言って、携帯電話を取り出して、カメラを鉄製の扉に向ける。俺は生まれてこのかた持った事は一度もないが、現代の携帯電話に搭載されているカメラとマイクの性能は、プロ仕様よりは劣るといえ、下手なカメラを購入するより性能が良いともっぱらの話だ。

「死ぬぞ」

 司は真顔で小暮に言い放った。顔の皮が厚い小暮にも恐怖心は多少なりあるようで、司の言葉にたじろいて見せる。

「小暮さん、戻りましょう。ハナから社先生は撮影に反対でしたし、身をもって僕もその意味が十分わかったっす。やらせとは違うんすよ、モノホンなんすよ」

 ふうふうと息を切らし、冷汗をハンカチで拭きながら内田は小暮に訴えかけた。臆病なだけかもしれないが、この状況では小暮と比べると良識があるように見える。
 しかし、内田の言葉にも鼻を鳴らし耳を傾けない始末だ。

「お前達だけで戻ればいいさ。社とそこの、えー……霊能者だかなんだか知らないが――専門の人間が居るんだ。大丈夫だろう」

 そう言った小暮に内田は冷たい一瞥をくれてから、放心状態の久遠を連れ、ワインセラーを出て行った。

「バツ×ばつ×バツ【下】」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ホラー」の人気作品

コメント

コメントを書く