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バツ×ばつ×バツ【下】

Pt.Cracker

【真の敵!魂を弄ぶ者編】第五十話 無愛想なアイツと一緒?

 大橋邸に向かう中、大橋社長は車内で俺達に説教をたれていた。
 死人憑きとわかっていながら逃しただのなんだのと、自分は腰を抜かしていたくせにうるさい事この上なく、初対面では「お願いします」なんて頭を下げていたのに、手のひらを返したような態度だ。

「まあいい。念のためにもう一人、信頼の置ける奴を呼んである。そっちはとうに到着しているだろう」

 大橋社長のその言い分に、ハナから俺達を信用していないのかと呆れる。
 通りがけのついでとはいえ、リムジンで送迎してくれるだけまだ軽く扱われていないと思っていいのだろうか。ただ、この人なら高級車を不特定多数の人に見せびらかしたかったんじゃないかという疑念も浮かぶ。
 俺達を乗せたリムジンは人気のない緩やかな坂を上って行く。フロントガラスの向こうに、洋風の黒い柵と美しく整えられた常緑樹に囲まれた立派な豪邸が見えてきた。
「あれが私の家だ」大橋社長は鼻を高くして言った。
 邸宅の横に備えられた駐車場へリムジンは停車し、運転手によってドアが開かれ、俺達は車外へ出た。
 駐車場には白いワゴンが駐車しており、付近にはマイクやカメラといった機材と数人の人影があった。その中で小動物のように忙しなく動いていた中年男性は大橋社長の姿に気付くと小走りで社長の前へ駆けつけ、挨拶をした。

「あっ、どうも。ヒガシTVの小暮です。先にお邪魔させてもらっています」

 大橋社長は「どうも」と笑顔を作って応える。後ろから続いて挨拶に来た、仲間と思われる男女三人を見て、小暮は大橋社長に紹介する。

「こっちはカメラ担当の久遠、マイクの内田と……こちらはリポート担当の小林エレナちゃん」

「どぅも~、エレナでーす! 今日はぁ、よろしくお願いしまぁ~すっ!」

 この間延びした、子供がお遊戯会でも始めるんじゃないかという喋り方の女性は、メディアで人気上昇中のぶりっ子タレントだ。
 俺達以外に「もう一人、信頼の置ける奴を呼んである」と言っていたからには、小林エレナを含むこの団体ではないだろう。
 しかしどうして、ヒガシTVとタレントがこんな場所に?

「大橋社長? どういう事ですか、これは」

 近江さんは俺と同じ疑問を抱いたのか、ヒガシTVと名乗る団体を指し、大橋社長に訊ねた。これでは死人憑きになった妻の一江さんを助けるどころか、見世物にするつもりにしか思えない。

「どういう……って、そのままだよ。死人憑きの恐怖をメディアに公表して世間に知らしめるんだ。あの社司君にも来てもらっている。社君は?」

 辺りを見回す大橋社長に対して、小暮という男は忙しく頭を下げて謝罪する。

「すみません。お宅の周辺が気になると言って、マネージャーと呑気に散歩に出掛けてしまって。そろそろ戻って来ると――ああ、戻って来たようです」

 向こうから黒いスーツを着た女性と歩いて来る社司の姿を捉え、小暮は額の汗を安っぽいハンカチで拭った。

「社、司っ?」

 俺は驚いて、名前を口に出してしまった。
 大橋社長は誇ったように笑みを浮かべ「そうだ」と頷く。その横顔は「お前達の比ではないだろう」とでも言っているようで気分が悪い。
 大橋社長は自分から進んで社司に近付き、愛想良く右手を差し出し握手を求めた。

「やあやあ、君がかの有名な霊媒師、社司君か! 今回は宜しく頼みますよ」

 右手を差し出す大橋社長に対し、社司は握手を返すどころか、フンと鼻を鳴らして社長の前を通り過ぎる。大橋社長はハトが豆鉄砲を食らったような表情のまま硬直し、差し出した右手を引っ込められずに、目だけが通り過ぎる社司の背中を追っていた。
 マネージャーらしき黒スーツの女性は気まずそうに社長と司を見比べ、慌てて「お待たせしてすみませんでした」と頭を下げた。
 その様子を見ていた小暮は社長に取り繕おうと必死に弁解する。

「やや、すみません大橋社長。社はあのような態度ですけれども、プロですので依頼はきっちりとこなして見せます。撮影は我々にお任せください」

 社長はようやく正気を取り戻し、咳払いして言った。

「わかっている。外では何ですし、屋敷へ入りましょう」

 社長が行きましょうと勧めると、取材陣はワゴンの前に出していた機材を持ち、大橋社長と小暮に続き屋敷へと入って行った。

「僕たちも行こうか」

 大橋社長らの背中を睨んでいた俺は近江さんに声を掛けられ、渋々屋敷へと足を運んだ。




 高価そうなシャンデリア、絨毯、彫像に絵画……屋敷の内装は思った通り、贅を尽くしたような絢爛けんらんさだった。
 入ってすぐ、十数人の使用人が一同に社長と俺達客人を迎えた。俺達が驚く様に、大橋社長は得意気な笑みを浮かべる。
「皆さん、こちらへ」大橋社長は使用人の一人にお茶を持って来るようにと伝えてから、俺達を屋敷の一室へ案内する。
 その途中、大橋社長の胸ポケットから携帯電話の音が鳴り響く。

「おっと。すみませんが部屋で掛けてお待ちください」

 大橋社長はそう言って、案内した部屋の扉を開いてから携帯電話を片手に廊下の奥へと姿を消した。
 ヒガシTVの連中はぞろぞろと案内された部屋へ入り、機材を床やテーブルに置き、部屋の豪華な装飾を眺めたり、椅子に座って携帯電話をいじり始めたりと統一性のない行動をとってた。
 部屋の中は会議室のように長いテーブルと何台もの椅子が置いてあり、テーブルの上には生花が生けられている。秋らしい、ふんわりとしたキンモクセイの花の香りがほのかに漂っている。
 俺も椅子に座って待とうと思い、テーブルの前まで来たはいいものの、片一方はヒガシTVの連中が置いた機材が邪魔で通れず、もう一方には社司が座っていて気まずい。が、座るならそっちを通るしかない。立って待つのも悪いだろうし、止むを得ないと思い切って社司の後ろを通ろうとした。

「お前も呼ばれて来たのか」

 通り掛かった俺に、社司は横目で睨みつけてきた。

「ああ。まさか社司とTV取材が来るとは聞いてなかったけど」

 喧嘩を吹っ掛けられているようで気分が悪かったが、顔に出してしまったら負けのような気がして、笑顔を作って司に向き直り、返答した。

「ところで、そちらは?」司は近江さんを見て問う。

 俺に対しては〝お前〟なのに、近江さんは〝そちら〟なんだなと俺は心の中で皮肉を呟く。
 近江さんはいつもと変わらない愛想の良い笑みで応えた。

「近江です。社司くん……降魔師の間でもキミの名前はよく聞いてるよ」

「恐縮です」

 司は近江さんに頭を下げた。俺や大橋社長の前と、随分態度が違う。
 結局、俺と近江さんは社司が座る席の後ろを通ってようやく椅子に着いた。近江さんが先に窓側へ座ってしまったせいで、俺は司と椅子をひとつまたいだだけの位置に座る羽目になった。
 俺が席に着くと、司はこちらを見ないまま独り言のように呟く。

「言っておくが、俺もお前やヒガシTVが来るとは聞かされていない。俺が連れて来たのは月影だけだ」

 さっき俺が言った「社司とTV取材が来るとは聞いてなかった」に対する弁明だろう。よっぽどTV取材と一緒にされたくなかったと見る。
 月影、というとマネージャーと呼ばれていた黒いスーツの女性だろうかと、司の後ろの壁際に立ち、手帳を覗いていた彼女に目をやる。
 腰まで伸びた長く美しい黒髪と、真っ赤な口紅で彩られたふくよかな唇。人間離れした妖艶さがあり、一度見たら忘れられないくらいの美人だ。それなのに、注目する前までは存在という存在が感じられなかった。なんとも不思議な人だ。
 俺の視線に気付き、月影さんは柔らかな微笑みで返してくれた。

「ご挨拶が遅れました。社司のマネージャーをしております、月影ソラと申します。以後お見知り置きを」

 月影さんは丁寧に頭を下げ、近付いて名刺を差し出す。俺は慌てて椅子から立ち上がり「ご丁寧にどうも……」と両手で名刺を受け取った。美人には弱いもので、近くに居るだけで緊張してしまう。営業スマイルであっても、向けられた微笑みがまた眩しくて仕方がない。
 月影さんはそのまま、壁際へ戻る。

「月影さんは座らないんですか」

「お構いなく。私はここで良いのです」

 月影さんは微笑んでそう言ったが、司も自分のマネージャーなんだからもう少し気遣うとかできないのかと、俺は微動だにしない無愛想な男の横顔を睨み付け着席した。
 小暮というネズミのような男は社司がさも自分達とセットですといった態度を取っていたというのに、司と月影さんはヒガシTVとは全くの別行動とは、一体どういう事なのだろう。
 どうにせよ、この一件にメディアを招いた大橋社長の行動は褒められたものではない。嫌な胸騒ぎがする。

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