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【不気味!紫吹川事件編】第二十八話 禁忌の呪

 新しく取り出された写真には、頭蓋骨から取り外された呪符が一枚に伸ばされた状態で写っていた。土の色が付着している上に、書かれているミミズのようにのたくった文字は湿気のせいなのか滲んで余計に解読不能になっている。

「降魔師が関係していると判ったら、こちらとしてはあんたらに頼るしかない。犯人の動機でもなんでも、手がかりがあれば良いんだが」

 降魔師といっても俺には降魔術の術の字もさっぱりわからない。山辺警部と一緒に近江さんの解答を待った。
 写真を数分吟味した近江さんは、険しい表情を見せた。

「これは、霊魂や妖かしを使役するための法〝朱眼あかめ寄せ〟だ……」

「朱眼寄せ?」

 近江さんは俺の問いかけに頷いてみせた。

「人間や牛、馬なんかの生贄を捧げて呪符で雑霊や魍魎を呼んで捕え、それを餌に強力な妖かしをおびき寄せる呪法だよ」

「妖かしを?」

「うん。昔の降魔師は力を持った霊魂や妖怪の類を使役して一人前と見られていてね。昔はよく使われた法だったようだけど、より強力なものを望むなら相当な生贄を必要とする上、術者自身にも代償として危険が及ぶから今は禁呪として五獣会で厳重に封じているはずなんだ。それなのに、こんな形で使われているなんて……」

「禁呪の情報が外部に漏洩してると?」

 山辺警部は近江さんに訊ねる。

「そうであれば、管理不行き届きで五獣会の責任は重大だね。管理下の降魔師達については調査しているところだ」

 近江さんは、五獣会を信じているだろう。五獣会管理下の漏洩ではないというニュアンスで答えた。

「五獣会の調査はまだ時間がかかるし、今着目するべきは術に不可解な点がある事だ。生贄、呪符、土地……あとは仕上げの香だけなのに、朱眼寄せのまじないが完成されていない」

 完成していれば犯人は強力な妖かしを使役し、紫吹川の遺体に続いて凶悪な犯行に及ぶ可能性も恐らく出てくる。完成していないだけマシなんじゃないかと俺は思った。

「なるほど。犯人がどんな思惑で術を完成させなかったのか、だな」

 山辺警部も近江さんと共に頭を捻るが、これ以上ここで問答しても答えは出ないだろうと「今日はここまででいいだろう」と解散の合図を出した。

 その時、俺の足元で会話を聞いていた千代助の耳がしきりに動いたと思うと、千代助は身の毛を逆立て、杉林に向かって吠えだした。

「千代?」

 近江さんは千代助が吠え立てる杉の木の上を鋭い視線で睨む。
 千代助や近江さんほどではないが、心地悪い空気が杉林の向こう側から押し寄せてくるのを感じ、俺は体中を緊張させる。山辺警部は何も気付いていないようで「どうした?」と俺達の様子を窺う。
 数秒としない内に杉林の上から縦一直線に風が走り、枝葉が割れ、何かが勢いよくこちらへ近付いてくる。
 近江さんは「危ない!」と叫び、両手を伸ばして山辺警部と俺を突き飛ばした。
 突き飛ばされた直後、ヒュッと風が掠めたような音が鳴り、近江さんの腕から鮮血が宙に散った。

「お、近江さん」

 近江さんの腕からぽたぽたと血が流れ出る。千代は毛を逆立て、辺りを警戒している。

「術が未完成の上、生贄までとられたせいで、集まっていた魍魎達が痺れを切らしたみたいだよ」

 山辺警部はそこに居るモノの姿を視認できていないようだが、俺の目には様々な動物の形容をかたどった禍々しいモノが俺達を取り囲んでいる様が視える。

「結界を張って、祓う」

 近江さんはグラウンドに生徒や警官がいないのを確認すると「山辺さんは警察の方を連れて、なるべくグラウンドから離れてください」と声を張って言った。

「あ、ああ」

 山辺警部は慌てて杉林の方へ駆けて行く。
 魍魎が山辺警部に害を為さないか、心配そうに警部の背中を追う。

「視えない人間には魍魎も気付きにくいから大丈夫、まだ僕らに注目してる。油断しないで」

 近江さんは俺に注意を促した。
 魍魎達がキィキィと声をたて、じりじりと俺達との距離を縮めてきたところで、近江さんは深呼吸をしてゆっくりまぶたを閉じた。
 耳鳴りがして、ぴんと張り詰めた空気が辺りに広がる。俺達の周囲だけがまるで今まで居た場所と隔離されたような違和感がある。これが結界というものなんだろう。

「これを使って」

 近江さんはコートの内側から木製の棒のようなものを取り出し、俺の手元へ放った。
 受け取ってみると、棒ではなく鞘のようで、引くと鈍色に光る刀身が覗いた。

「ウソっ?! これって本物、ですか」

 俺はつい、驚きのあまりすっとんきょうな声を上げてしまった。
 だが、ふざけている場合ではなかった。周囲の禍々しい魍魎達は、隙を狙って今にも襲い掛からんとしている。

「それは降魔刀。人外のものしか斬れない刀だ。それを使って、魍魎を浄化して!」

 近江さんはそう言ってから、コートの両袖から小刀を器用に取り出して両手に携え、待っていたとばかりに襲い掛かる魍魎を次々と斬りつけ、倒していく。
 その襲撃が火蓋を切ったのか、俺の方にも魍魎達は襲い来る!
 迷っている暇はない。勢いよく鞘から刀身を引き抜く。この世のものとは思えないキラリと一筋の青い光を湛えた刀身が露わになると、周囲の魍魎達は身を怯ませた。この刀がどんなものか、彼らにはわかっているようだ。

「お前達に恨みはないけど、覚悟しろよ……!」

 刀の扱いなんて剣道部に入った事もなければ、包丁すらまともに扱えた事もない俺だ。からっきしである。
 一振り、二振りしてもすばしっこい魍魎には当たりはしないものの、降魔刀の光を恐れているのか、魍魎達は怯んだ様子を見せる。
 しかし、当たらないとわかると、当然、魍魎は付けあがってくる。こいつの刀は当たらないぞと、馬鹿にでもしているかのように、牙を剥いて襲撃を開始する。

「うわぁーーーーっ!」

 魍魎に囲まれた俺は声を上げて思いきり刀を振り回した。もうこうなればヤケだ。
 振り回した刀は偶然にも運の悪い魍魎に命中し、刀身が魍魎の胴体を割いた。見事真っ二つになった魍魎の体は硝子が散ったように砕け、光の筋となって天へと昇っていく。
 刀を振り回した挙句、どっと疲れた俺は息を切らして後退する。浄化できた魍魎は一体だけ。まだ数十体は下らない。
 後ろからキィキィと魍魎の声が聞こえ、振り返ると、魍魎が鋭い爪を俺の首元にたてようとしていた。油断した! と後悔しても遅い。次に激痛が走るだろうと目を強く瞑ると、千代の声と共に魍魎の気配が消えた。
 千代が助けてくれたらしく、目を開けると魍魎を噛み砕く千代の姿があった。

「さ……サンキューな、千代」

 ひょっとすると命の危機だったかもしれないと思うと声が震える。千代は呆れたような面持ちで、ふうと息を吐いた。
 近江さんは残りの魍魎を両手の小刀で手早く浄化していった。あんなに居た魍魎が、もうどこにも見当たらない。

「よかった、お互いに無事みたいだね。お疲れ様」

 お疲れ様、と言われても俺はたった一体しか退治できず、その上、千代に助けられる始末だったと情けなさで一杯だ。
 ふと地面を見ると、近江さんの腕から血がぽたぽた落ちていた。
 さっき俺と山辺警部を庇ってついた腕の傷からだ。

「近江さん腕、早く手当しないと」

 近江さんは「大丈夫」と平気そうに笑っているが、こんなに出血しているとそんなに悠長に見ていられない。
 保健室に行けば消毒と止血くらいしてもらえるのではと近江さんに提案しようとした矢先、女子の悲鳴がグラウンドに響き渡った。

「きゃぁあーーーーっ!!!」

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