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【不気味!紫吹川事件編】第二十七話 紫吹川

 校舎の外れで白骨遺体が見つかった日から、麗人は三日も連続で学校を休んだ。

「麗人のやつ、どうしたんだろう。あいつ今まで風邪でも一回も学校休んだ事ないのに」麗人と同じクラスの生徒が廊下でそう話し込んでいた。

 白骨遺体発見の話題と麗人が休んでいる話題で持ち切りだ。
 窓からグラウンドを見下ろすと、杉林の方には目立つ黄色い立入禁止のテープが張られ警察の人達が調査に訪れているのが見える。
 TVや雑誌の報道関係者の姿もちらほらと目に入り、それに興奮する生徒も少なくない。
 呆れて教室に戻ろうと窓に背を向けるが目の端に見慣れた白い姿が映り、二度見する。
 白いフサフサした毛並みと、よく動く耳。

「千代?!」

 まさか、と思って窓から身を乗り出し、目を凝らす。
 杉林の向こう側には事情聴取の時に会った山辺警部と、以前家へ訪問して来た近江という青年の姿。そしてその隣に居るのは確かに白狐の千代助だ。見間違えるはずがない。
 放課後、すぐに杉林へ向かった。教室を出る前にまだ姿を確認できたから急げば会えるだろうと広いグラウンドの脇を走る。

「近江さん!」

 息を切らして、見覚えのある人物に声を掛けた。

「こんにちは、陽介くん。もう授業は終わったみたいだね」

 近江さんは先日と変わらない笑顔で挨拶をする。千代助は近江さんの隣で何食わぬ顔で尻尾を振っている。

「どうしてこんなところに居るんですか。千代まで」

「山辺警部から《五獣会ごじゆうかい》に協力要請があってね。この事件は呪術的なものが関わっているんじゃないかって、調査に来たんだ」

「五獣会?」

 どこかで聞いたような名前だが、話が見えてこない。
 近江さんは慌てて説明を入れる。

「あっ、そうか。陽介くんは知らなかったか。五獣会は、僕や大文字の所属する降魔師連盟だよ」

 なるほど、聞き覚えがあったのは爺やにかかってくる電話だ。「ゴジュウカイの者ですが」と何度か聞かれたんだ。
 降魔師連盟という事は、近江さんもやはり降魔師なんだろう。

「千代助は勝手で悪いと思ったけど、大文字に頼んで借りてきたんだ。彼は鼻が利くから」

 狐でも鼻が利くのか? と俺は千代助の顔をまじまじと見つめる。

「呪術の臭いは僕よりセンジュ――いや、千代助が詳しいから」

 降魔師連盟、呪術、白骨遺体……遺体発見だけでも相当だっていうのに、どうにもきな臭い話になってきた。
 近江さんと話していると、杉林の向こうから山辺警部がやって来た。
 近江さんに「ゴクローサン」と声を掛け、ふと俺の方を見る。

「君はこの前の……榊野、といったか」

 はい、と俺は頷く。つい三日前に事情聴取された身としてはなんとなく顔を合わせたい人物ではなかったが。

「君の話は近江さんから聞いている。榊野の現ご当主だそうじゃないか」

「と、当主っていうか……」

 そんな大それた呼び方をされたら、戸惑ってしまう。近江さんは焦る俺に笑顔で頷いて「当主だよ」と言って更に困惑させる。

「それでなんだけどね」

 まだ困惑したままの俺に、近江さんは話を切り出した。

「もし良ければ、今回の件に陽介くんも協力してくれないかな?」

「へっ?」

 俺は間抜けな声を上げた。

「見つかった遺体と死人憑きの犯人が繋がっている可能性が見えてきてね。この前も言ったけれど、無理にとは言わない。協力してくれないかな?」

 こんなに早く親父を殺した犯人と繋がる事柄と関わるなんて誰が思ったろう? 紫吹川の遺体の犯人が繋がっている? 顔が強張った。
 親父が人間に殺されたと知ってから、頭の中で色んな事がごちゃごちゃになっている。それは今でも。

「私からも頼む。事件を解決するために、お願いしたい」

 複雑な気分ではあるものの、断る理由もない。だが……

「正直言って俺、役に立てる気がしないです」

 親父を殺した犯人、紫吹川で見つかった遺体。
 そんな他人の命に関わるような重大な事件に関わるなんて…降魔師になりたての、しかも爺やに引きずられてなったみたいな素人より、場数を踏んでテキパキ悪霊退散できちゃう社司みたいなヤツの方が断然役に立てるんじゃないか。
 俺は卑屈になっていた。

「大丈夫、大文字から陽介くんの活躍は聞いてる。榊野の人間にしか使えない《浄眼じようがん》を扱えるキミが居てくれたら、心強いんだ」

 《浄眼》というのは、魍魎やはなちゃんの記憶を視たあの力の事だろうか?

「あの力が、役に立つんですか」

「僕たちに救えない人がキミによって救われるかもしれない。それだけじゃ駄目かい?」

「…………」

 俺だって血統でもなんでも、自分で役に立てるものなら立ちたい。そう思うけど、すぐに言葉が出て来ない。

「僕は陽介くんが降魔師になったばかりだっていうのは承知で頼んでいるんだ。危険があれば、僕や五獣会が補助する。……どうかな」

 近江さんは真剣な眼差しでじっと俺の眼を見つめた。
 千代助は早く答えろとでも言いたそうに俺のズボンに鼻をなすりつけ、顔を覗き込んでいる。

「わかりました。そこまで言うなら」

 もやもやとした感情は残るものの、千代助と近江さんの眼差しにほだされて首を縦に振った。

「ありがとう」

「少しでもこちら側の協力者が多ければ、助かる」

 近江さんと山辺警部は新たな協力者に微笑んだ。

「早速見てもらいたい写真がある」

 山辺警部はコートのポケットから十枚の写真を取り出して見せた。

「これは?」

 近江さんと俺はそれぞれ差し出された写真を数枚手に取り、食い入るように見た。
 見るにはあまり気持ちの良いものではない写真だ。
 写っているのはどれも頭蓋骨。

「見つかったホトケさん十体の頭蓋骨を撮影したものだ」

 異様に、全て不気味な帯状のもので目隠しされている。
 質感は布ではなく、紙だ。土で褐色ににじんだ紙に、びっしりと黒い文字らしき模様が書き込まれている。

「まだ身元は判明していないが、どれも死後一年から三年。見ての通り妙な目隠しがされている」

「呪符だね」近江さんは写真を見て呟く。
 山辺警部は新たに一枚の写真を取り出し、目立つようにひらひらと振った。

「そして、極めつけはこれだ」

 その写真は他の写真と変わらず頭蓋骨を写したものだったが、唯一異なるのは眼だ。目隠しの呪符が除かれ、遺体の眼球がこちらを睨みつけている。

「ちょっと待てよ……眼球?」

 白骨遺体に眼球? それも、ついさっきまで生きていたかのような……いや、今でも生きて動きそうなほど瑞々みずみずしい眼球だ。俺は息を呑んだ。

「検死によると、立ち会った連中が目隠しを外した際に眼球が動いた、睨まれたと言っているらしくてな。呪術と無関係というわけではないだろう?」

「そうだね。目隠しに書かれている呪詛が関係してる」

 近江さんはまじまじと眼球の写る写真を眺め、何やら閃いたのか俺の方へ視線を移した。

「陽介くん、ここで問題です」

 突然クイズを提案され、俺はたじろぐ。

「紫吹川の由来は何でしょう?」

「えっ? いやあ、突然そんな事訊かれても」

 地名の由来なんて、社会の授業で寧々川ねねがわ市という市名がぬえ(頭が猿で体は狸、手足は虎、尾が蛇、声はトラツグミという怪獣の名称)のなまった〝ネネ〟から名付けられたという話を聞いたくらいで、自発的に調べようと思った事もない。
 近江さんは「答えは」と言って続けた。

「昔、この辺りでは絶えず戦があって馬や人の血が多く流れた。それを人々は血が吹き出す様に見立てて〝血吹き川〟と呼んだ。その後、あるお坊さんが縁起でもないと〝紫吹川〟と改名したのが始まりだそうな」

 得意気に人差し指を立てて俺に聞かせる様子は、子供じみて見えた。俺がどう反応するべきか戸惑っている脇で、山辺警部は真面目に頷いて聞いている。

「ここまでは地元の資料にも載っているんだけどね、血吹き川と呼ばれる以前には既に〝死淵川しぶちがわ〟なんて縁起でもない名前で呼ばれていたんだ。どちらにせよ元の呼び名が訛って紫吹川になった、という事だね」

 死淵川――血吹き川でもゾッとする名前だっていうのに「死の淵にある川」だなんて悪寒すら覚える名前だ。
 しかし、それは紫吹川のほとりで遺体が見つかった事と関係があるのだろうか?

「近江さん。その名称とこの事件、関係あるんですか」

「もちろん」近江さんは即答した。

「死淵川は死の国と生の国を繋ぐ三途の川そのものだった、という話が古い降魔師達の間では有名でね。昔は死者の祟りを恐れて黄泉の近く……この死淵川のような場所に埋葬する習わしがあった。発見された遺体はその埋葬方法と似た状態で見つかっているんだ。目隠しとして巻かれていた呪符がそう。呪符を詳しく調べないと詳しくはわからないけれど、これは確かに降魔術によるものだ」

「じゃあ、降魔師が殺人を?」

「可能性は大、ってこと」

 聞いた話から、近江さんの述べた古い習わしを知っている古参降魔師が犯人像として思い浮かぶ。
 山辺警部は忘れていた、と思い出したように切り出す。

「近江さん、もう一枚写真があるんです」

 山辺警部は新たに一枚の写真を取り出した。

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