世界樹とハネモノ少女 第一部

流川おるたな

マイセン町長

 ペタリドの中央に位置する町の集会所には、町長のマイセンを中心として、役人や商人、医者や狩人などの代表者が集まり緊急会議が開かれていた。
 無論、リゲール事件の真相を確かめ、対応策を話し合うための会議である。
 早朝からダリガ山へ入った捜索隊も呼び出されていた。
 マイセン町長が会議を進行する。
「まずは捜索隊のリーダーは説明をしてくれるかな?」
 捜索隊のリーダーは、狩人の中でも高年齢になるベテランで名をワッドいう。
「では説明させてもらう。朝一番でリゲールの妻であるミルシェ婦人より、夫のリゲールが昨日の朝から山へ狩に出たまま家に帰らず心配になり、今朝方一番に自警団へ届け出てて我々捜索隊が結成され山に入った」
 リゲールはセトと同い年で、性格はセトに似てとても真面目で近所では愛妻家としても知られ、子供は現在までに20歳の息子と18歳になる娘がいた。
 ワッドが説明を続ける。
「捜索隊は10人編成でリゲールが通りそうな道を個別に分かれて捜索した。そこから2時間ほどで隊員の一人が道の傍に無惨な姿で横たわるリゲールの死体を発見した」 
 広大な山の中にあった死体をたった2時間で発見できたのは、狩人達には長年の暗黙のルールとして狩場の範囲がある程度決まっている事と、臭いに敏感で鼻が効くといった要素があったからである。
「ここに居るセトは、リゲールと昨日の朝たまたま会って話をしている。少しセトの話を聞いてもらおう」
 セトが此処で話す事はワッドとの段取りに有ったので本人は別段慌てる事もなく話し出す。
「昨日の朝は山へ入り1時間ほど歩いているとリゲールを見かけて挨拶を交わし少し雑談をしました。その時の彼の様子はいつもと変わらず至って元気でした。会話した後は分かれて互いの狩場へ向かいました。私がリゲールを見たのはそれが最後です...」
 此処まで話すとセトに様々な想いが湧き出し目から大粒の涙が溢れた。
 だが、服の袖でサッと涙を拭き、意を決して魔物と対峙した時の事を話し説明した。
 説明を終えると、その場に居た全員が騒つき出す。
 そんな中マイセンが口を開いた。
「セトを襲った魔物とリゲールを襲った魔物が同じとは限らん。魔物は既に複数が山に存在している可能性すらある。私としてはこれ以上の犠牲者が出る前に、アディア王国本城へ応援を求めようと思うのだがどうだろうか?賛成の者は挙手してくれ」
 未知の魔物への恐怖心からか、ほぼ全員が何の迷いも無く挙手した。
 この迅速なマイセンの判断がペタリドの窮地を救う事となる。
 実際のところ町の人々が知らぬところで、山の中には数種数十体の魔物が侵入しつつあったのだから。

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