瞬殺スキル『執行』で『命』を稼ぐ。〜執行者の気まぐれ冒険譚〜

Leiren Storathijs

第1話 命稼ぎ

 私は騙され、処刑された。執行者に何度も刺され、私は死んだ。此処は天国か、地獄か、それとも全く異なる世界か……。

 私は目を覚ますと、真っ白な空間にいた。しかし、そんな景色とは真反対の存在がそこにはいた。黒いロープを全身に纏い、両手には等身大の大鎌、そして頭部から見えるその顔は頭蓋骨である。そう、目の前の存在は紛れもない死神であった。

 死神は私の理解が追いつく前に声を出す。

「ほう……? こっち側にお客とは珍しいな……天国の神様じゃなくて……俺かよ……。じゃあ、いつも通りに……なぁ、お前は生きたいか? それとも死にたい?」

 生きたいか、死にたいかの余りに単純な質問。しかしこれこそが死神と言うのだろうか。死者に天か地かの引導を渡す存在。まぁ、そんな質問をされたら大概の人間は生きたいを選ぶだろう。死にたいと思う人間でも死神に死にたいかなんて質問されるなら、わざわざ死にたいと言う人間なんているのだろうか?

 なので、私は死神の質問に正直に生きたいと答えた。

「ったく……正直な野郎だなぁ? じゃあお前はこれから異世界行きだ。もしその世界で生き延びたいって思うんなら……スキルの『執行』を使って……命を奪え……」

 スキルとは何だろうか?そのままの言葉を受け入れれば『技能』である事は分かるが、私はこれでも元執行者だ。いや、最早罪人と変わらぬ身。処刑されたのなら、一度生きたいと答えても罪を償わなくては……。

 と、どうやら私の心が死神には分かる様だ。口にも出していないのに、頭蓋骨で一見変わらぬ表情はどこか悲しそうになる。

「あのさぁ……俺は、お前が生きたいって言うから異世界に行かせてんだぜ? もう俺の判決を食らってる時点で罪は償われたんだよ……往生際良く、俺の話を聞きやがれ……」

 そうか。私は無意識に死神の仕事を潰していた様だ。謝ろう。

「喋れよ!! 心が分かるからって口を動かす事を忘れんじゃ無え……」

 済まない。では話を戻そう。死神は私に生き延びたいなら執行という技能を使えと言った。そして、命を奪えと……。これはどう言う意味を示しているのだろうか?単純に考えたとしよう……命を奪う……普通に殺すという事か……?

「ちょっと違う。それなら誰だってやろうすれば出来る事だろ? でもこれはあくまでスキルなんだ。命を奪う……それは、相手の残機を奪う事なんだよ!!」

 残機……?

「要は……アレだアレ……えーっと、1個の残機に付き、一回復活出来る!! スゲェだろ!!」

 私は今理解した。残機……そう言う事か。次の異世界でより長く生き延びたいなら、スキルの執行を使って、とにかく生きろ。と言う事だな。つまり、死にたい時に死に辛くなる訳だ。残機が百と残っていたら……百回死ななくてはならない……。

「そう言う事だ!! という訳で……異世界に連れて行く前に……異世界転生お馴染みの……ステータスと言え。今、お前が持つ技能とそれらの力が表示される筈だ」

 …………ステータス。

首刈くびかり 執刃しつば
性別:男
年齢:28
身長:182cm 体重:75kg
職業:執行者
スキル:
・執行
相手の生死の意思問わず、一撃で生命を絶つ。

「一撃必殺チートってか!? はっ!正に死神だなぁ!? ハハハハハ!! じゃ……異世界に行ってらぁ! 初っ端から死ぬんじゃねぇぞ……」

 すると、私の意識は何の痛みもなく、強制的に視界が暗転し、一瞬で途絶えた。

───────────────────────────

 私はまた目を覚ます。次に視界に映った物は……辺り広がる草原だった。そして、目の前には……腹を空かし、今にも私を襲ってきそうな目で私を睨み、涎を垂らしながら、犬か、狼か……全身焼け焦げた様に赤黒く、頭部には、目や鼻が無い口から見える牙のみ。正に異形の化け物が唸っていた。

「グルルルル……」
「獣よ……私を喰らいたいか?ならば本能のままに私を喰らうと良い……世界は弱肉強食。装備も何も持っていない私は絶好の肉だろう……そう言う私は、運が無かったと言う事だ……」

 私は獣を煽る。喰らいたいなら喰らえば良いと。そう、喰らえるならな……。獣は私の挑発に乗る様に牙をカチカチと鳴らした後、勢いよく襲ってきた。

「グルルルラァッ!!」

 獣は私を喰らう為に、大きく口を開き、私の頭を丸呑みする勢いで飛びかかって来た。しかしその時だった。時が止まる。いや、正確に言えば時がとてもゆっくりになった。いや、もっと厳密言えば今までにないくらいの集中力。時間を遅らせるなんて技能は知らん。だが今に発動していると言う事は、どうやらこの異世界とやらは、とても特殊らしい。

 私は集中力が研ぎ澄まされ、時間がゆっくり動くなか、そっと獣の頭を片手で掴むと……【執行】を無意識に発動する。そして時は動き出す。

 私の手で触れた獣は突然気を失い、地面にうつ伏せになる。私は念のため生死を確認する。…………獣は死んでいた。気を失ったではなく、息絶えていた。これが……執行か……どうも納得出来ない。これで恐らくこの獣の命を奪ったのだろう……だが本当の執行者ならこんな生温い処刑はしない……。

 私は……長年執行者をしていたせいか、倒れた獣に向かって無意識に鋭く尖った木の枝を拾い、うつ伏せに倒れた獣に対し、背中から心臓部分を狙って、皮膚と肉を抉りしっかりと貫いた。

 例え息絶えていたとしても、少しでも息が残り、苦しんでいたら、そんな物は単に楽しんで殺しているに過ぎない。しっかりと死者に敬意を払い、人間も動物も異形の者も同等に扱い、命の元を絶つ。

 通りで……私が木の枝で心臓を貫いた獣は一瞬、背中を仰け反らせ、口から赤い泥の様な血を吐き、眠る様に静かになった。

 さて、こんな所に死体を置いておくのも可哀想だ……しっかり弔ってあげよう……。私は、手で地面を掘り、しっかり獣の身体が入るくらいまで掘ったら、獣の死体を埋めた。

 私は気を取り直して、またステータスと口で言った。

残機 1

 そう、確かに表示されていた。相手の命を我が物にする。執行者としてはあるまじき行為だとは思うが、これも生きる為に必要なのか……。

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