瞬殺スキル『執行』で『命』を稼ぐ。〜執行者の気まぐれ冒険譚〜

Leiren Storathijs

プロローグ

 私の名前は、首刈くびかり 執刃しつば。ここ、マタル島と言う監獄島で、死刑囚の処刑をしていた。

 ただ、そんな監獄島でも街や村は存在しており、治安は……正にここの刑務所が住人達の精神に恐怖を植え付け、ある意味治安は守られていた。

 そしてそんな中、私が主に引き受ける仕事は……『公開処刑』である。死刑囚又は、街や村で重罪を犯した人間をその場で処刑する。例えその中に家族を持つ人間が居たとしても、子供を持つ人間でも、心優しき人間でも……罪を犯した人間は全て同じであり、同等に扱う。私は、そんな人間達を今まで何百と殺してきた。

 そして今日も私は、とある依頼を引き受けて摘発された犯罪者を処刑する。その相手とは、ただ単に街で酒を飲み散らかしある事がきっかけでついカッとなったこの酔っ払いは、人を殺してしまった……らしい。

 らしいと言うのは、私は現場を見ていない。ただ現場を見た人間がそれを私に報告し、処刑を依頼した。勿論、酔っ払いの本人はそんな記憶は無く少し理不尽な気もするが、殺ってしまった事はこの監獄島では目撃者がいればそれは全て、例え真の真実があろうとも捻じ曲げられ、事実となる。だから、『らしい』なのだ。

 酔いから覚めた男は私を見て、何故自分が殺されなければならないのか何度も私に質問する。自分は地位ある者であり、この島には特別な調査をしに来た、自分を殺せば取り返しが付かなくなると、何度も私に説明する。

 しかし、これは私の前では単なる言い訳に過ぎない。罪人は全て同等に。例え地位ある者でも死んで仕舞えば意味を無くす。私は殺さないでくれと必死に懇願する男に何の躊躇い無く腰から剣を抜く。

 男は私の剣を見て、慌てふためき、『誰か助けてくれ』、『私は無実』だと周囲に叫ぶ。しかし、そんな叫びはこの島の住人には無意味であり、もし罪人を助けるなら共犯者として罰を受ける事になる。それを知っているからこそ、誰一人この男を助けようとはせずただゴミを見るような視線で男を串刺しにする。

 では、本当にこの男が無実だとしよう。この島に調査しに来た事が運の尽きだと教えるのだ。本当の罪人なら私は容赦なく殺すだろう。しかしこの男の目には、『恐怖』。それしか映らない。私はその目に免じて、せめて苦しまない様に、一瞬で殺そう。

「安心しろ……痛みは一瞬だ。せめて苦しまない様に殺してやろう……」
「待て待て待て待て! 馬鹿野郎ッ!! 止めろおおおおお!!!」

 私は男の脛を蹴り、両足のバランスを崩させると、そっと剣の付け根の刃を男の首に当てる。歯はガタガタと震え、涙目になる男の恐怖は剣から私の手に確実に伝わってくる。

 だがそれは一瞬である。私は男の首に剣を当てながら、剣を両手に持つ。そして、一気に手前に引き、男の首を勢い良く斬り落とす。

 男の頭部は地面に鈍い音を響かせながらゴロリと転がり、断面からは一切の血飛沫が無い。首を落とされた男は膝立ちの状態で静かに眠った。

 私は男の首を斬り落とした後一つ息を吐くがどうも納得が行かなかった。この男の首はやけに重い。まるで本当に無実の首を斬ったかの様な、『命』の重みが私の手に後から伝わってくる。

 今までに、何度も無実らしき人間も殺してきたが、この男の首は訳が違う。もしかしたら……酔っ払いも嘘?記憶が無いのも当たり前だったのだろうか?もしその考えが正しいなら地位ある者……この男の首は一体……。

───────────────────────────

 翌日の朝、私は目を覚ますと、何故か両腕を背中に縛られ、視界は真っ暗だった。いや、耳からは数百人とも言える人間の騒めきが聞こえる。どうやら頭には袋を被せられている様だ。この袋は処刑の際、頭を切り落とした時に後始末を楽にする為の物。いちいち頭を袋に包む作業が省けるからな……。

 さて、私は至ってこの状況の中で冷静でいるが、もし私が処刑されるなら、心当たりはある。どうせ、昨日の処刑した男の件だろう。なら、死ぬ前に教えてほしい。あの男は何者だったのか?

「執行者よ、今私の前にいるのだろう? 罪人である私が質問する立場には無い事は分かる。だが、せめて死ぬ前に教えてほしい。あの男は何者だったのだ?」

 質問に対して、執行者であろう男の声が少し煽りが混ざった声色で答える。

「ほう? 流石は執行者と呼ばれた男よ。自分が犯した罪を自覚しているとはな……? だが……どうやら何故此処に居るのかは理解出来ていない様だな……まぁ、良いだろう。罪人の最後の望みを聞いてやろう……。貴様が昨日殺した男とは……親善大使という地位に立っていた男なんだよ! ……まぁ、何処の親善大使か知らんが……恐らく何処の国の管轄でも無いこの島に間違えて来てしまったんだろう……それはいいとして……これよりその罪を犯したお前を処刑する……大丈夫だ。痛みは一瞬だ……ククク……」

 私はそっと目を瞑る。全身の力を抜き、死を覚悟する。痛みのない処刑なんて存在しない。苦しみのない処刑なんて存在しない。『痛みの無い処刑』と言うのはあくまで罪人に死を覚悟させ、一瞬の安心を与える言葉に過ぎない。私は……息を一つ吐く。

 その瞬間、全身に強烈な痛みが走る。まるで今まで殺してきた罪人が霊となって私の体を貪り喰らう様な……四肢を引っ張り千切ろうとする様な……いや、実際は……執行者の憎悪である。

 あまりの激痛に意識が飛びかける中、私の耳に人間達の恐怖で慄く騒めき声と、執行者の怒りの声が聞こえる。

「クソッ! クソッ! クソぉ!! お前のせいで俺の人生は狂ったのだ!! お前をいつか殺してやると……どれだけ望んだか! フハハハハ! 親善大使ほどの地位ある者を騙し、お前を騙し、こうも簡単に復讐が叶うなんて! この化け物がっ! 死ねええええええ!!!!!」

 そうして、私の意識は何度も胴体に刃物が刺される感触を感じながら完全に絶えた。

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