全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ

雪月 桜

夢魔の一族

「そうそう、問題児と言えば……例の魔族の少女の尋問結果についても報告が上がっていますね。アインストさんが頑張ってくれた御蔭おかげで色々と新しい情報が手に入りましたよ」

ガンマの件にひと区切りが着いた所で、話題の転換をはかるヴェノ。

そして、その内容は俺の興味を強くきつけるものだった。

恐らくは、魔王学園の今後にも関わってくる重要な話になるだろう。

俺は無意識に背筋を伸ばし、自然と前のめりになっていた。

「ほう、アインストのやつ、あの後キッチリと役目を果たしたのか。着任した当日から成果を出すなんて流石さすがだな。魔王様が直々にスカウトした甲斐かいがあるってもんだ」

そう、今回の人選にあたり、秘境と称される夢魔むまの里からアインストを見出したのは、他でもないヴェノ本人だ。

まぁ、秘境と言っても魔王にとっては自分の家の庭と大して変わらない感覚だろうけどさ。

と言っても、向こうからすれば魔王との邂逅かいこう青天せいてん霹靂へきれきだったと、アインストが言っていた。

聞くところによると、外部との関わりも希薄らしいし、当然と言えば当然だな。

夢魔の一族は、夢に干渉するという稀少きしょうな魔法を門外不出とするために、外界との関係を制限しているそうだ。

それでも、貴重な精神干渉魔法を求める声は多く、魔界全土から依頼が殺到するという。

そして、里に認められた者のみが外界に出て依頼をこなし、里に仕送りをするのだとか。

そんな里に入るとなると、常人には達成不可能な条件が幾重いくえにも設定されているらしいけど、生憎あいにくと魔王は常人には程遠い。

魔王としての権力を振りかざすことも無く、あっさりと条件をクリアして、正面から堂々と訪問したと聞いた。

「えぇ、これで懸念していた校医も、カウンセラーもそろい、万全の体制で生徒達をきたえる事が出来ますね」

屈託くったくのない無邪気な笑みを浮かべる魔王様だけど、俺は知っている。

事が、生徒達にとっての地獄の始まりであると。

とはいえ、それが必要な事だというのは間違いないから、止める気など全く無いんだけども。

俺は、まだ見ぬ生徒達にひっそりと黙祷もくとうを捧げて、話を戻す。

「……それで、尋問の結果、何が分かったんだ? 敵の本拠地でも見つかったなら話が早くて助かるんだけど」

俺か、ヴェノ、あるいはルクスリアが出向いて、叩きつぶせば、それで終わりだからな。

まぁ、縦や横、背後の繋がりがあれば、洗いざらい吐かせる必要が出てくるけど、それもアインストに任せれば事足りるだろう。

……ただし、そこまで、とんとん拍子びょうしに事が運ぶとは思ってないけどさ。

「残念ですが、敵の所在に繋がる決定的な手掛かりは得られていませんね。むしろ、犯行の周到しゅうとうさと狡猾こうかつさが浮き彫りになったと言えるでしょうか」

そうして、魔王はアインストから寄せられた報告について詳細を語り始めた。

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