全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ
異常事態と自己紹介
初対面の相手の顔を見て、何の前触れもなく泣き出すという異常事態に見舞われた俺達は、現在カウンセリングルームにて、背中を向け合って座っている状態だった。
お互い、相手の姿を視界から外せば、次第に落ち着いていくだろうという彼女の提案に従った結果だ。
そして、互いの呼吸が整った頃合いを見計らい、俺は背中越しに声を掛けた。
「……えぇ。私の方は、もう大丈夫よ。貴方こそ平気なの?」
彼女もまた、背中越しに言葉を返す。
大丈夫だと言いつつ、身体をこちらに向けないのは、俺を気遣っているからか、それとも見栄を張っているだけで本当は落ち着けていないのか。
あるいは、単に俺の動きに合わせただけという可能性もあるな。
「……ああ。もうアンタの顔を見ても何も感じない」
嘘だ。
今の俺に見えているのは、彼女の横顔だけだけど、それでも胸が締め付けられるような、切ない想いが止め処なく溢れてくる。
しかも、胸の内から込み上げてくる想いは、それだけでは無い。
怒り、悲しみ、無力感、恐怖、罪悪感、後悔、安堵、感謝、期待、そして喜び。
様々な感情を鍋に放り込み、グチャグチャに掻き回したように、俺の心は混沌としている。
加えて質の悪いことに、そんな有様になって尚、彼女から目が離せない。
まるで、目を逸らした瞬間に彼女が消えてしまう事を恐れているような、そんな感覚。
ここまで自分の心が制御不能になったのは、初めての経験だ。
「……嘘ね。いきなり情けない所を見せちゃったけど、これでも私はカウンセラーなの。心の動きを診る事に関しては、誰よりも敏感なプロなんだから、中途半端な誤魔化しは通じないわよ?」
こちらの真意をピシャリと言い当てる謎の美女。
しかし、その口調は、どことなく戯けていて柔らかく、全てを包み込むような慈愛に満ちている。
そんな彼女の言葉は、まるで言霊でも宿っているかのように、自然と俺の緊張を奪い去っていった。
「……やれやれ。やっぱり、アンタが魔王学園専属のカウンセラーだった訳か。俺はシルク・スカーレット。同じく、ここの専属校医だ。仕事柄、顔を合わせる機会も多いと思うから、これから宜しく」
ようやく本当の意味で立ち直った俺は、ゆっくりと腰を上げて、身体ごと正面から彼女に向かい合う。
そして、彼女に向かって手を差し出すと、彼女も椅子から立ち上がって、俺の手を取った。
「こちらこそ、どうぞ宜しく。私はアインスト・リーベ。人の夢に干渉する魔法を受け継ぐ夢魔の一族よ。精神の治療が専門で肉体の治療は門外漢だから、いざという時は頼りにさせて貰うわね?」
「ああ、俺の方こそ。精神干渉に特化した使い手は超が付くほど稀少だからな。そんな相手が同じ職場にいるのは心強い」
こうして、俺達は漸く腰を据えて話し始めた。
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