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全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ

雪月 桜

立場逆転

「うぅ、気が重い……」

「もういいから早く入れよな。かれこれ5分以上も、そうやってウロウロしてるんだから。そのうち不審者だって騒がれるぞ」

盗聴の件を自ら魔王に報告すべく、学園長室の前まで戻って来たルクスリア。

しかし、そんな彼女は学園長室の扉を前にして、右に行ったり左に行ったりを繰り返し、一向に中へ入ろうとしない。

付き添いとして同行した俺は、ここまで気をつかって温かい目で見守っていたが、流石さすがれったくなっていた。

「……今にも不安に押しつぶされそうな、か弱い乙女おとめに向かって何たる言いぐさでしょうか。もっと優しくて気の利いたはげましの言葉は無いのですか?」

「か弱い乙女は、魔王相手に盗聴なんていう大胆不敵な真似まねはしない。つーか、そんなにおどけてられるなら大丈夫だろ。ほら、さっさと行った行った」

「な、ちょっ! 離して下さい! ……って、急に力が抜けてっ? せ、セクハラで訴えますよ!」

暴れるルクスリアの肩をガッシリと掴み、扉に向かって押し進む。

その抵抗はひど強情ごうじょうなものだったけど、俺が魔力を流し込んでやると、みるみる内に大人しくなり、ジリジリとゴールに近づいて行く。

「その時は『逃亡しようとした下手人げしゅにんを強制連行するために仕方なく』って主張してやるよ。ルミナリエも味方してくれるだろうし」

なんせ、アイツと別れる前に頼まれた事でもあるからな。

ルクスリアが付いて逃げ出さないように見張っててくれって。

その一環としての行為なら、いくらでも擁護ようごしてくれるだろう。

「くっ、ならば殺しなさい! 魔王様の前で恥をくくらいなら、いっそ今ここで!」

お前は何処どこの官能小説のヒロインだ。

「いくらテンパってるからって、どういうテンションだよ、面倒くせぇな。ほら、これでもくわえてろ」

「むぐっ!?」

拘束魔法によって生み出した光の輪を収縮させ、ルクスリアのくち、そして、両腕と両足の自由を奪う。

正直、ここまでする必要は無いと思うけど、舌をんで自決する可能性に備えて念のため

どうやら、極度の緊張で正気を失っているみたいだし、錯乱さくらんした結果どんな動きをするか予想が付かないからな。

そんなにバレるのが嫌なら、最初から手を出さなければ良かったのに……と言いたい所だけど、そんな理屈で片付けられるなら犯罪者なんて生まれないんだよなぁ。

まぁ、とにかく、俺はコイツを連行するだけだ。

後の事は魔王が上手くフォローしてくれるだろう。

部下の不始末を何とかするのは上司の役目だしな。

……それにしても、転生初日は俺の方が捕まって連行される側だったのに、まさか今度は連行する側になるとは、思いもよらなかった。

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