全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ

雪月 桜

知らない方が幸せ?

「……シルクは、今回の事件をどう見る? 革命派が関わってると思う?」

せっかくつかみかけていた重要な手掛かりが消えたと聞かされても、ルミナリエの顔に動揺や落胆らくたんの色は見られない。

それどころか、むしろ俺の方が驚くような、予想外の方向から切り込んで来た。

「判断材料が少なすぎて、現段階では何とも言えないな。……それにしても、お前の口から、その名前を聞くとは思わなかったぞ。いったい誰から聞いたんだ?」

まぁ、革命派の存在を知ってるのは魔界の上層部だけなので、ルミナリエに教えられる相手も自然と限られる。

だから、ほぼほぼ当たりは付いてるんだけどな。

「……パパから聞いた。質問すれば大抵の事は何でも教えてくれるから。と言っても、自分から聞かないと何も教えてくれないし、曖昧あいまいな聞き方だと、はぐらかされるけど」

「なるほど、ルクスリアの可能性も考えてたけど、父親ヴェノのほうだったか」

それも、ただ情報を与えるんじゃなくて、自主性を重視した教え方みたいだな。

将来的に魔王を継ぐ選択肢も有り得る立場だから当然と言えば当然だけど。

自ら学園長を務めるだけあって、随分ずいぶんと教育熱心な事だ。

本人から聞いた感じだと、どうやら魔王学園の教育方針も自主性を徹底的に鍛え上げる方向性らしいしな。

「今の私は魔王様よりも多忙たぼうな身ですからね。そのこと自体に不満はありませんが、最近は姫様と話せる時間も少ないのですよ。幼い頃は私が教育係の栄誉をたまわっていたものですが」

「そうなのか。となると、その頃は魔王妃も忙しかったのか?」 

人間界では父が働いている間に母が育児をするものだったけど、魔界では違うのかもしれない。

転生してから、ある程度の知識は身に着けたけど魔族の風習については、まだまだ疎いからな。

俺の知らない事情があっても不思議は無い。

――と思ったんだけど。

「いえ……魔王妃様は、その、姫様を溺愛できあいなさっているというか、慈愛に満ち過ぎているというか……。とにかく、そんな感じなので、私が教育係に任命されたのです」

「そ、そうか」

どうやら風習とか関係なく、単純に適性の問題だったらしい。

そして、今の説明だと良く分からなかったけど、つまりは優しすぎて指導役に相応ふさわしくないという事だろうか。

ルクスリアの口振りからして、それ以上の何かを感じてしまうんだけど、首を突っ込むのは何となく躊躇ためらわれるな。

……この話を掘り下げるのは止めにしておこう。

俺と魔王妃が顔を合わせる機会なんて、そうそう無いだろうし、知らなくて済むなら、それが1番な気がする。

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