全ての魔法を極めた勇者が魔王学園の保健室で働くワケ

雪月 桜

消えた手掛かり

「……うん。それなら、あの2人は、もう大丈夫だと思う。それで、シルクが戦ってた魔法生命体は結局どうなったの?」

ルミナリエとも少しだけ関わりがあった魔族の二人について報告を終えた所で、そんな質問が返ってきた。

そう言えば、そこの部分はアイネにも説明してなかったな。

他の事に気を取られて、すっかり忘れていた。

ちなみに、俺が魔王学園の校医だという話もしたけど、アイネほど大げさに驚いてはいなかった。

ルミナリエが落ち着いた性格だというのも関係あるかもだけど、恐らく何処どこかのタイミングで俺の正体に勘付かんづいていたんだろう。

明言こそ、していなかったものの、真相をにおわせるような発言は何度か口にしていたしな。

洞察力に優れたルミナリエなら、俺の言動から真実を見抜いていても不思議は無い。

「あの魔法生命体なら、キチンと捕まえて魔王に届けたよ。そんで、他の生徒や教官たちに同じモノがいてないか探知してもらった。その結果、発見できた謎の魔法生命体は、俺達が遭遇そうぐうした1体のみだ。魔王の目をくぐれる程の魔法生命体なんて存在しないだろうし、これ以上の被害は無いと思う」

「……そう。なら良かった」

危険物のたぐいは、本来なら魔王学園の入口で警備員に感知されるはずなんだけど、肉体と一体化した魔法生命体までは流石さすがに識別できなかったようだ。

とはいえ、今後も同じ手口で攻められる可能性は充分にあるし、いちいち魔王に頼る訳にもいかない。

新入生たちを迎える前に、何かしらの対策が必要になるな。

「それと残念な知らせが1つ。例の魔法生命体は、魔王の探知が終わって間もなく消滅した。敵が手掛かりを残さないために動いた、という訳じゃなく、単純にエネルギーを使い果たしたみたいだな。とはいえ、これで敵に繋がる細い糸は完全に断たれちまった」

通常の使い魔の場合、消滅するのは主が死んだ時だけだ。

それまでは、何があっても主との接続が途切れる事は無い。

にもかかわらず、俺が謎の魔法生命体を捕らえた時には、既に主とのリンクが切断されていて、気配を探る事が出来なかった。

そして、あの魔法生命体には自力でエネルギーを生成する術が無かったので、最初から独立していたという可能性も無い。

つまり、あの魔法生命体は、主とのリンクを切断された事で、エネルギーの供給が途絶え、消滅したと考えられる。

リンクを自在に切断できる点も驚きだし、エネルギーの供給が途絶えてもしばらく活動可能な点も驚きだ。

どうやら、あの魔法生命体は、既存の使い魔とは根本的に異なる存在らしいな。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品